第542話.新しい連絡先
「よし、俺は決めた」
「何をですか」
「俺はバイト終わりに彩芽さんに連絡して一緒に帰る!」
「わざわざ連絡しなくても直接言えばいいのでは?」
「俺にそんな勇気はないっ!」
一体なぜそこまで胸を張って言えるのだろうかと思ってしまうが、気にしないことにする。
さて、先輩も彩芽さんも大学生なので俺よりもバイトの時間が長い。俺がそろそろ帰ろうかという時間から大体2時間くらい長く働いているようだ。
「じゃあ、お先に失礼します」
「おう。次のバイトの時に成果を報告してやるからな。期待して待ってろ!」
「はーい」
更衣室に赴いて高校の制服姿になる。コートを最後に着てカバンを持つと裏口から出た。すると後ろから声をかけられる。
「鏡坂くんも今帰り?」
「あれ、彩芽さん?」
そこにいたのは黒いパーカー姿の彩芽さん。ミニスカートで白い太ももが顕になっている。寒くないのだろうか。
と、そんなことはどうだっていい。
「この後もバイトじゃないんですか?」
「んーん。今日はこれでおしまい。見たい配信があるからさ」
「あー、そういうことですか」
「うん。鏡坂くんは高校生だからこの時間か」
「そうですね。働ける時間に制限があるんで」
「なるほどねぇ。……じゃあさ、ついでだし途中まで一緒に帰らない?どうせ灘駅の方面でしょ?」
「まぁ、はい。家がその付近なんで」
「じゃあ一緒に行こっか」
なんとなくの流れで彩芽さんと帰る展開にまで発展する。
個人的に言えば別に2人で帰るのは構わないとは思う。が、一つ気になるのは先輩が彩芽さんとどうやって帰るのかということだ。先輩が連絡する頃には彩芽さんはおそらく家だろうし、わざわざ帰ってくる理由もないからな。となると、次のバイトの日に見るのは先輩の悲壮感たっぷりのやつれた顔か。
そうだ、一つ気になったことがある。
「彩芽さんって先輩の連絡先知ってるんですか?」
「先輩?」
そう。気になったのはそもそも連絡先を持っているのか問題について。もしかしたら彩芽さんのことが好きすぎるあまり、見てしまった幻覚の連絡先の可能性があるからここで確かめておかなければならない。
「先輩……あー、岩本くんのことか」
「あー、そういえばそんな名前でしたね。あの人」
「鏡坂くん、意外と辛辣なのね」
彩芽さんはそう言って楽しそうに笑う。
「んー、でも確か持ってなかったよ?特に話すこともないし。年齢も岩本くんの方が一個下だから、男女となるとさすがに話も合わなさそうだしさ」
「なるほど」
「でも、どうしてそんなこと聞くの?」
「いや、単純に気になっただけです」
「ふーん?そっか」
彩芽さんは納得したのかしていないのか、見ただけでは判断しかねる表情のまま歩き始める。
何歩か歩いたところでふと彩芽さんは足を止めた。
「あ、そうだ。せっかくだし、この機会に鏡坂くんには私の連絡先を教えてあげよう」
「え、いいんですか?」
「いいよ。ほら、私が休みたい時に代わってもらえそうだし」
「……やっぱり連絡先交換するのやめようかな」
「えー……つれないなぁ。さっきのは冗談だからさ、ほら交換しとこ」
そう言って半ば強引に連絡先が交換される。
いやはや、名も知らぬ先輩……いや、岩本先輩よりも先に彩芽さんの連絡先を手に入れてしまった。なんなら一緒に帰ってしまっているのか。
……なんか先輩、ドンマイです!
第542話終わりましたね。岩本って名前なんですね。ちなみにですけど、彩芽さんの苗字は薄原です。薄原彩芽という名前、即興で考えたにしては案外悪くないのではないでしょうか。
さてと次回は、5日です。お楽しみに!
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