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第524話.内カメのツーショット

 休憩するように用意された数台のベンチ。その一つに私達は腰をかける。

 近くのベンチには女の子達が座って、今日撮った写真を見ては楽しそうに笑っていた。そういえば私達は昨日も今日もただの一枚も写真を撮っていないことを思い出す。文化祭で楽しむなら写真は思い出の一つとして外せない筈なのだ。

 私は唐揚げを持っていないもう片方の空いた手でスマホを取り出す。落とさないように上手に操作してカメラを起動すると内カメに切り替えた。


「ねぇ、刻。こっち向いて」


 刻にそう呼びかける。ちょうど大きな口を開けて一つ目の唐揚げを食べようとしていた刻はほんの少し間抜けそうな表情でカメラを見つけた。私は対照的に写真映え重視の笑顔を作ってシャッターを切ることにする。


「あれ、撮ったの?」


 食べるのをやめて刻は私にそう尋ねてきた。そうだよ、と言ってから撮れた写真を刻に見せる。


「俺めっちゃ間抜け面じゃん」

「そんな表情も刻らしくていいんじゃない?可愛いし」

「いや、蒼は良くても俺がなぁ……確かに蒼の方はめちゃくちゃ可愛く写ってるけど、その隣にいるのがこれはちょっと嫌じゃないか?」


 自分の顔を指さして刻はそう話す。

 私は刻とのツーショットならなんでも嬉しいのだけど、刻としてはちょっとお気に召さなかったらしい。


「しょうがないなぁ……じゃあ刻もかっこよく写ってよ?」

「任せろ」


 もう一度カメラを起動し直して内カメにする。


「はい、チーズっ」


 画面に表示される白い丸をタップしてスマホに画像が記録されるのを確認する。映るのは先程と同じ感じの私の笑顔と、イケメン全開モードの刻の爽やか笑顔だ。さっきの間抜けくんとは大違い。でも、私はやっぱりどっちの刻も好きなのだけれど。


「うんうん、こっちの方がいいな。これなら他の子に見せられても恥ずかしくない」


 刻は満足気に頷く。

 確かに写真の出来としては先程よりも上々だろう。けど、刻の思惑通りにはさせない。友達に見せる時は私の可愛い彼氏ということで、さっきの間抜けくんの方も見せるつもりだ。どちらの表情も間違いなく刻そのものなんだから、見せたって構わないでしょ?

 ひとまず自分の中で見せる時の言い訳を並べ終えると、私はスマホの電源を落とした。


「さ、唐揚げたーべよっと」


 まだアツアツジューシーな唐揚げを付属の爪楊枝二本を使って器用に口に運ぶ。ハフハフと熱を逃がしながら、噛む度に口いっぱいに広がる肉汁を私は楽しむのだった。


第524話終わりましたね。刻は自身のことを凡人顔だと思ってるタイプのイケメンなので、自分の間抜け面がシンプルにブサイクなのだと考えています。でも、刻は第三者目線からすればしっかりイケメンなので、刻の間抜け面は蒼が言うところの可愛らしい顔になるのです。

さてと次回は、31日です。お楽しみに!

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