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第52話.準備開始

 水道の蛇口を捻りパスタを盛り付けていた皿と、フォーク、そして鍋などを洗っていく。


「刻兄は別にやらなくてもいいのに」


 隣では妹である(うつみ)がそう言いながら、一緒に洗い物を片付けていた。


「いや、俺が色々と準備したからな。俺が片付けたいだけだよ」

「そうなの?」

「あぁ」

「ふーん。ま、それなら別に無理に代われとは言わないけどさ、でも勝手に手伝いはするよ」


 現は洗い物をしている自身の手を見ながらそう言った。

 手伝ってくれているのを俺は止めないし、むしろありがたい。この子知らない間に良い子に育ってて、なんだか感慨深いよ。

 そんな現の成長に感動しつつ、洗い物をどんどん片付けていく。手は泡に包まれており、水は程よく冷たい。

 そしてこの二つは冬になると猛威を振るってくる。指は切れてその切れたところに泡が染みて、その泡を流そうとしたらまた水の冷たさで悶絶する。


(冬は好きだけどさ、もう少し暖かくなってもよくない?)


 全く関係ない事を考えながら洗い物を終わらせた。


「なぁ、俺の浴衣ってどこのタンスにしまった?」


 濡れた手をタオルで拭きながら俺はそう聞いた。現は俺の方を向きながら答えてくれる。


「確かね和室に置いてあるタンスに入ってたと思う。無かったらもう一回聞いて」

「分かった」


 片手を上げて感謝の意を伝えると和室の方へと向かう。

 家の造りとしては、玄関があって少し廊下を歩くとリビングがあり、その廊下をまたいだ先に和室がある。みたいな作りだから、一度廊下を通らなければならない。

 ぺたぺたと足音をたてながら廊下を歩く。和室の前に来ると、なぜか不思議な位置に(ふすま)がある。それを開けて中に入れば和室だ。


「えーと、どこかな〜」


 空き巣のような手捌きでタンスの中のものを出したりしていると父親の浴衣が見つかった。


「お、あった」


 自分の浴衣はだいぶ昔のものなのでサイズが合わないから、少し前に父親に譲ってもらったのだ。色は紺を基調としたものだ。

 浴衣を片手にまた廊下を歩きリビングに戻った。


「なぁ現これで合ってるよな?」


 片手に浴衣をヒラヒラさせながら、一応念の為に現に合っているかの確認をした。俺の声に直ぐに気がついた現はこちらを見ると首肯する。


「そうそう、それだよー」

「そうか、分かった」

「うん。あ、そうだ一応一回は着といてね?サイズがもしお父さんより大きくなってたら考えなきゃだから」

「了解」


 そう言うと廊下に出て自室に向かう。

 階段を上がって自室に入ると俺は早速浴衣を着始めた。

 元々着ていたシャツとズボンを脱ぎ、どんどん浴衣を羽織っていく。


「うん。着た感じは特に違和感も何も無いな」


 ボソッとそう独り言を零すと、その姿のまま現の元に戻った。


「お、いいじゃーん。刻兄が珍しくかっこいいよ」

「そうか?」

「そうだよ!これで彼女もガッポガッポ手に入るね」

「ガッポガッポ手に入ったらダメだろ」

「痛っ」


 よく分からない事を言っている現を軽く小突くと、俺はまた自室に戻ってすぐに着替えた。



✲✲✲



 花火大会か。最後に行ったのはいつだったかな。よく覚えているのは、俺と現と空宮と凛が4人一緒に並んでいる記憶。

 だけどそれは一番最後の記憶じゃない。微かな記憶だとやたらと近くで花火を見てた気がする。

 そんな昔の記憶に思いを馳せながら、ベッドの上に寝転んだ。

 タオルケットは俺の体を軽く覆う程度しか布面積がないが、これぐらいの季節の温度だと丁度いい。クーラーをつけることもなく涼しく過ごせる。

 電気をリモコンで消して目を閉じ暗闇の中に飛び込んだ。

 思い出すのは高校2年生になってからのこと。4月に華山と初めて喋って、そのまま華山に誘われるがまま部活に入部。

 かと思いきや、俺が入部して間もなくすると空宮が入部してきた。

 3人で部活をしてしばらく経てば、凛がイギリスから日本に帰国し、幼馴染3人が集まる。分かることといえば、一学期だけでもかなりの出来事があったことだな。

 夏休みにも入れば部活での合宿があり広島にも行った。まさか人生初の広島が、あいつらだとは思わなかったけどな。それについ最近だと凛と京都に行って観光したり、カフェに行ったり。

 ここ最近今までして来なかった事を一気にしてる気がするな。

 まぁ、それについては明日の花火大会も例外ではないけど。

 ま、そんな事を考えてたら一晩じゃ足りないか。

 俺は一度深く深呼吸をすると深く眠りに入った。



✲✲✲



 ちゅんちゅんとスズメの鳴き声から外から聞こえて、その声で目覚める。俺はのそのそと起き上がりながら、枕元に置いてあるスマホの電源を付けて時間を確認した。

 時刻は朝の5時。俺が起きる時間としては過去最速なのではないだろうか。

 朝から少し驚きつつも、ベッドから降りると体を伸ばした。

 花火大会は6時にスタートだ。ここから移動することも考えると、5時には出ないといけないな。タイムリミットはあと12時間。楽しむ準備を完了させるか。


第52話終わりましたね。次回1話を書いていた当初から書きたかった話がついにかけます!楽しみだなぁ。

さてと次回は5日です。お楽しみに!

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