第519話.コピーバンド
「おぉ、本格的だぁ」
ぽへ〜といった感じの表情で早苗はそう呟く。
真っ暗になった体育館の中で唯一スポットライトの当たる舞台の上。そこにはギターとベース、そしてドラムを演奏する3人が立っている。話したことも見た事もない他クラスの他学年の誰かなのだが、演奏一つでここまでかっこいいと思わせてくることに驚きしかない。
本家Chatnoirと同じ女性ボーカル。違うのはベースとドラムが男子ということだろう。男女混合でChatnoirの一体感が出せるのかと思ったが、それも期待以上のものをぶつけてきた。
「あ、あれってボトルネック奏法?だっけ。前にテレビでボーカルのカオリさんが使ってみたくて無理やり曲にねじ込んだって言ってたやつだよね」
早苗が指差すギターの方を向くと、指に陶器でできたような筒状のものを指にはめて撫でるように演奏をしていた。
「多分そう。てか、歌いながらあの演奏法するって随分器用だな」
「だよね。私ならどっちかにしか集中出来なさそう」
「俺も多分どっちかしか無理」
そもそも演奏から出来ないのだが、そこはifの話。できる体で話を進めてもいいだろう。
メインのbitterbitterは最後に取っておくのか、それまではSTART Again!!!や鋭利な恋心といった、他の代表曲を歌い上げていく。そして時間もいよいよ残り一曲分となったところで、ボーカルの女の子が喋り始めた。
「みなさーん。そろそろあの曲が始まりますよー!!っということで!最後まで!楽しんで!聞いて行ってくださいねー!ッすー……bitterbitter!!」
それまで盛りあがっていた体育館の中が、それ以上の勢いで盛り上がる。おそらく閉めた扉も窓も貫通して外に漏れ聞こえる程の歓声だ。
生きているうちでかつてこれほどまでの歓声というものを聞いたことがない。衝撃的で破壊的で何より高揚的。その場にあるものを全て激しく奮い立たせるようなそんな歓声だ。
バンドの3人もこの歓声でノリに乗り始めたのか、さらに勢いづいた演奏になる。舞台の上は非常に楽しそう。そしてそれは伝染してこちらも笑顔になってくるのだ。
音楽が鳴り止み、最後は簡単なMCだけするとバンド達は次のグループにステージを代わるために去っていった。俺達も目的のものは見終わったので、そそくさと外に出ることにする。
「凄かったぁ」
早苗は満足気に笑いながらそう話す。余程良かったのか、体育館を出る前から出てきた現在までずっとChatnoirの曲を呟いてばっかりだ。そんな早苗の姿を見ながら微笑んで手を引く。
「ほら、次は早苗の行きたい場所に行こう」
「カラオケっ!」
どうやらChatnoirの曲が余程歌いたいらしい。
「それは文化祭と後夜祭の後にでも行こうなぁ」
そう言うと早苗は「なら」と言ってマップを指差した。
そこは早苗の大好きな蒼先輩のクラスだ。
第519話終わりましたね。Chatnoirが主人公の物語をサブとして書いていましたが、それが終わってもう一週間と少し経つようです。時が経つのはやはり早く、同時に記憶の風化もやはり早いのです。なので、今一度、ぜひ彼女達の物語を見てきてあげてください。
さてと次回は、21日です。お楽しみに!
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