第518話.先輩にしていた相談事
俺の彼女は隣を歩いているこの小さな女の子である。俺が平均以上に大きいのでそれで小さく見えるかもしれないが、それ以上に彼女も平均以上に小さいのだ。小動物のような可愛らしい仕草が相まって余計に小さく見えたりもする。
家ではよく膝に乗せてギュッと後ろから抱きしめたりしてイチャイチャとするのも中々いいものだ。
「ん、何?何か付いてる?」
「いや、何も」
「あっそ?」
気にした様子は見せずに俺の彼女はテクテクと楽しそうに歩くのだ。
「次、どこ行く?」
「んー……秋は行きたいとこある?」
「俺?俺はそうだな……確かChatnoirのコピーバンドが体育館でライブしなかったっけ」
「えーと、体育館は……そうだね。コピーバンド出るみたいだよ。それにする?」
「うん。これに行こう」
「分かった」
校舎の中を歩いて一度外に出てから体育館を目指す。
文化祭におけるコピーバンドというのはもれなく盛り上がるイベントのためか、訪れる人の数も必然的に多い。
少し混雑する通路を抜けながら、俺は彼女の手を取って誘導する。
「早苗ー、着いてこれてるかー」
「着いてきてなかったら、秋が持ってる手は誰のものなのさ」
「お化け?」
「嫌だよそんなの。私はちゃんと着いてきてますー!」
ぷくりと頬を膨らませながら、何とかして俺の横に彼女は立とうとした。
人が多いので人並みをかいくぐるのは必然的に難しくなる。加えて、なぜか体育館は薄暗くなっている。おそらく舞台上での出し物が続いているので照明関係のあれがあるのだろうが、こういった人の出入りが多い時くらいは明かりをつけて欲しいものだ。
空いてる座席を見つけると俺は彼女の事を引き寄せて座らせる。
「いつ始まるかな」
「多分1時半から。一つの出し物の持ち時間が25分だから、多分交代と入れ替わり、準備の時間を合わせて考えるとそれくらいだと思う」
「じゃあ、あと10分くらい待たないとかぁ」
「うん。早苗はChatnoir聞く?」
「流行ってるからね。蒼先輩がChatnoir好きだし、よく勧められるもん」
蒼先輩というのは、彼女の所属する部活先の先輩。俺もその先輩の彼氏さんには時折お世話になる。主に灯崎先輩絡みでのことで。
灯崎先輩はいい人なのだが、だる絡みというのが少なくなく、そういった時の対処法はそれに慣れてる人に聞くのが一番なのだ。最初は上木先輩に聞いていたけれど、上木先輩いわく蒼先輩の彼氏、つまるところ鏡坂先輩の方が詳しいとのことで過去の繋がりで話す機会があるというわけだ。
「早苗は蒼先輩の事、好きだよな」
「うん。優しいし可愛いし、何より恋愛の事について相談出来るし。人生の先輩でもあるよ」
「恋愛については何を聞いてるんだ?」
気になったので訊ねると、うーんという仕草の後にほんの少しだけ恥ずかしそうな表情を見せた。
「主に夜のイチャコラについて……聞いておりますけど」
「……なんちゅうことを聞いとるんですか」
「だ、だって……中々秋とそういう事がないからさ、どうしたらいいのか分かんないんだもん」
確かに大切にしたいという一心でキス以上のことはしてこなかったが、そう思わせてしまっていたのか。
内心で反省しつつ、俺は静かに頭だけ撫でておく。
この事についてはまた家で話そう。
今は文化祭に集中して、彼女の事を楽しませるのだ。
第518話終わりましたね。江草と榊原の視点で書くのは新鮮味があって意外と楽しいです。そういえば作者は本日ラーメンを食べに行ってきたのですが、やっぱり美味しいですね。食べてて飽きることがないです。
さてと次回は、19日です。お楽しみに!
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