第516話.主人公は1人とは限らない
大方の流れは昨日と同じように進む。ただ、流れが同じようなだけであって、来る人や人数などは微妙な差があった。
捌きつつそろそろ助っ人に入ろうかしらという所で凛達が戻ってくる。先程までずっと家庭科室に籠って準備していてくれたので表情にはほんのりと疲れが見えた。
「お疲れ。ここからは完全にフリーだから、自由に文化祭楽しんできて」
「うん、そうする」
凛はそう言うと、ちょうど同じタイミングでフリーになった上木くんの方に向かって歩き出した。
「ねぇ、上木くん。これから暇だったりしない?」
「暇だけど」
「それは良かった。じゃあさ、一緒に文化祭回らない?」
「一緒に?」
「うん。僕達、友達から関係を始めるんでしょ?それならこの機会ってとってもいいと思うんだ」
「あー、そういうことか。なら、少し待ってて。準備してくる」
「うん、待ってる」
あらあらまあまあ、といった感情を胸の内に抱きながら、凛の事を私は微笑ましく眺める。
いつの間にあそこまで誘えるほどの関係性になったのかは詳しく聞いていないが、けれど良好なことは2人の雰囲気を見れば一目で分かる話だ。
私も刻とあんな感じの時があったのかしら、なんて思い出してみるが、よく良く考えればそもそも幼馴染で仲が良かったのであまり関係の無い話だった。幼馴染がゆえに最初から仲が良いという利点もあったが、逆にじわじわと関係性が近づいていくようなドキドキ感がなかったのは少し残念なように思う。確かに恋人になる時はドキドキした。けれど、私が言いたいのはそこではなく、恋人以前の知り合ってから友人へとステップアップするためのその過程が羨ましいという話なのだ。
でも、よくよく考えればというかなんというか、刻と幼馴染でなかった場合、私は刻と付き合うことは無かった気がする。幼馴染のアドバンテージがあったからこそこうして普通に関係があったが、赤の他人として最初に知り合った場合には話すらもろくに弾まないような関係性になっていた可能性を否定できない。それに、私が幼馴染でなかった場合は凛が刻の彼女をやっていそうだ。うん、何となく想像がつく。
まぁ、ともかくだ。今の凛と上木くんの関係性は非常に良好かつ、見ていて面白いものとなっている。
✲✲✲
文化祭は学校の行事である。
3年生だけの青春群像劇の舞台ではない。
私達も当然主人公の1人なのだ。
「早苗、おまたせ」
「うん、5分遅刻」
「許してっ♡」
「許さないっ♡」
なんてふざけたやり取りは程々に、私は遅れてきた秋に罰としてお昼を奢って貰うこととするのだ。
第516話終わりましたね。さて、次回は江草視点のお話になるでしょうかね。おそらくそうでしょうね。なんて中身のない話はさておき、作者は非常に眠たいです。けれど大学の課題が残っているという恐ろしいトラップに引っかかっています。助けてください。
さてと次回は、15日です。お楽しみに!
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