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第47話.巡る巡る時は流れる

 ゴロゴロと大きな車輪が地面を走り、道の途中にある段差で少し弾む。膝の上には赤い布。周りにいる人からはたまに手を振られる。


「何か食べたい物とか、行きたい場所はありますか?お連れしますよ」


 人力車を引いてくれているお兄さんが、少し後ろを向きながら俺達にそう聞いてくれた。


「刻くんは何か食べたいものある?」

「少し考える」


 凛は俺にそう聞いてきた。


(食べたいものねぇ。京都と言えば!って食べ物何なんだろ?)


 そう思って俺はスマホで調べ始める。

 一番上に出てきたのは三角の生地に餡子が挟まれた生八ツ橋と、半円の形が模された八ツ橋だ。

 これにするか。


「じゃあ八ツ橋が食べれるところお願いします」

「分かりました。とっておきのお店に連れていきますよ!」


 人力車のお兄さんは爽やかな笑顔でそう言った。

 うん、なんだかとても期待できそうな予感。

 ふと俺は隣の凛の方を見る。


「刻くんどうかした?」


 すぐに凛はこちらの視線に気付いて、俺にそう言う。


「いや、八ツ橋で良かったのかなって思って。凛の意見も取り入れるべきだったと思ったんだが」

「別にいいよ?僕、八ツ橋食べた事ないし。なんか美味しそうじゃん!」


 気にするなと言わんばかりにそう言う。というか、本当に気にしていないのだろう。


「ちなみに刻くん」

「何だ?」

「八ツ橋って何だい?」


 凛は眉間を寄せ目を細くさせながらそう言った。


(凛さんあなた八ツ橋がどんなものか知らなかったのね。いやまあ教えるけど)


「えっとな、スマホで八ツ橋について調べたところ、八ツ橋には二種類あるらしい」

「へー。どんなのがあるの?」

「片方はな煎餅みたいな感じの、硬いやつだ。それでもう一つは生八ツ橋って言われてて、お餅みたいな生地の間にあんこが挟んであるんだよ」

「なるほど!つまりは見たら分かるってことだね!」


 凛はそう言うと大きく頷いた。おそらく全然どんなものか想像出来ていないんだろうな。そんな感じの顔してるもん。

 お兄さん一推しのお店に着くまでの間しばらく無言で祇園の街を眺める。程よい揺れがあるためか、段々と心地の良い睡魔に襲われていった。



✲✲✲



 夢を見た。

 部活のメンバーが全員集合してどこかに歩いて行くその途中の様子だ。全員制服を着て歩いているから学校帰りかなんかなのかと思ったが、どうやらそういう訳でもないらしい。


「――――――――――くん?」


 微かに俺の意識の外から俺に対してかけられる声が聞こえた。女の子の声。誰の声だかなぜか思い出せない。大切な人の声のはずなのに。


「―――――――――きくん?」


 また声が聞こえる。あと少しで思い出せそうなのに、そのあと少しが出ない。

 夢の様子を眺めながら必死に頭をフル回転させて思い出そうとしていると、急に世界が揺れ始めた。正確に言うと寝ている俺の体が激しく揺さぶられている。


「刻くんっ、着いたよ!」

「んぁ……」


 目を薄く開けて見ると目の前に俺の顔を覗き込む凛の顔がある。シャンプーの匂いだか何だかは分からないが、やたらといい匂いがした。


「刻くん寝惚けてる?」

「寝惚けてないぞ?ただ気持ち良く寝てただけだ」

「そーお?それなら良いんだけど」


 凛はそういった後、人力車から飛び降りた。そして俺も軽く荷物を持った後に後に続く。


「他の荷物は僕が見ておきますので、お2人はお店を楽しんで下さいね」


 お兄さんは爽やかな笑顔でそう言って俺たちを送り出した。


「ありがとうございます」

「ございます!」


 俺と凛はお兄さんにそうお礼を言うと店内に入った。

 店内は「ザ・和」と言った雰囲気でどこか懐かしいような気分になる。そして店内の奥の方からはとてもいい匂いが漂って来る。


(多分この匂いが八ツ橋の硬い方のやつなんだろうな。生の方は焼かないから多分目の前にないと匂い分からんだろうし)


「いい匂い」


 そう言うと凛はタタっとお店の奥の方に行く。俺もそれについて行くとそこにはお店の店員というか、社長みたいな感じのおばあちゃんがいた。


「あらあらいらっしゃい。何か買われますかいね?」

「えーとえーと、どうしようかな?」


 凛は俺の方を向いて意見を求めてくるような顔をした。

 俺に聞いちゃいますか?とは言えども、まぁ買わないといけないわけだしな。


「じゃあ普通の八ツ橋と生のと、両方買うか」

「いいの?」


 少し申し訳なさそうな顔をしながらこちらを見る。


「別にいいぞ?俺もどっちも食いたいし」


 そう言って財布をカバンから取り出す。


「じゃあ、1500円ね」


 おばあちゃんは柔らかい笑顔を顔に浮かべながらそう言った。


「にしても優しい彼氏さんだことね」

「か、彼っ!?」


 凛はそう言うとすっかり黙りこくってしまう。隣を見れば見たことも無いくらいに顔を真っ赤にして俯いた様子になっていた。まぁかくいう俺も人の事は言えないんだが。


「俺とこいつはそんな関係じゃないですよ?幼なじみで同じ部活の友人です」

「あらまぁそうなのかい。仲睦まじげだったからてっきりお付き合いしてるものだと思っちゃったよ」


 おばあちゃんはそう言った後に優しく凛に微笑みかける。


「お嬢さん、好きな人はしっかりと射止めないとね?」

「!?……っ、はっ、はい!」


 おばあちゃんが何かを凛に言ったらしいが何かまでは聞こえなかった。ただ分かることは凛が顔を赤らめつつも、何かを決意したように見えるということだけだ。


第47話終わりましたね。八ツ橋も生八ツ橋もどちらも美味しいですよね。僕は生八ツ橋派です。

さてと次回は26日です。お楽しみに!

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