第38話.朝の小さな出会い
空宮と別れて部屋に戻ってから約10分間、しばらくの間俺はぼーっとしていた。
空宮さえ上手くやっていれば、何事もなく普通に今日も一日を過ごして神戸に帰れる。だけどどうしてだろう。空宮が失敗する未来しか見えないのだが。
そう考えていると不意にスマホがピロンと鳴った。
「ん?」
スマホのロックを解除してLINEを確認すると華山からのものだった。
『朝ごはんの時間なので、エントランスに集合です』
内容はいたってシンプルなもの。
『了解』
俺はそう簡潔に返信をした。返信して直ぐに立ち上がると、軽く荷物をもって廊下に出る。
テクテクと廊下を歩きエレベーターの方へと向かう。他の部屋からも、朝ごはんを食べに出てきた人達が数名いた。
ざっと見た感じ10人はゆうに超えている。頑張って詰めたら7人位は入るだろうけど、それでも余る。
俺は初めに来たエレベーターには乗らず、他の人に譲る。
「すみません、ありがとうございます」
家族連れだと両親の方が俺に礼を言ってくれたりもした。
まぁ、小さい子供を連れてるわけだし、できる限りストレスの無いようにはしてやりたい。困った時はお互い様だ。
その両親に軽く会釈をすると、次のエレベーターを待つ。数分としないうちに次のエレベーターは来た。俺が乗り込んだ後にも数人乗る。
「いっぱいひとがるよー」
「そうだね」
乗り込んできた人の中には、それなりに年の離れた姉妹もいた。姉の方は俺と同じくらいか。妹は多分幼稚園児。
その2人のやり取りを見てると、姉と目が合った。俺達が軽く会釈を交わしていると、妹の方が喋りはじめる。
「おねーちゃん。このおにいちゃんとおともだちなの?」
妹は可愛らしく首を傾けて姉に聞いている。すると姉の方は優しい声音でこう言った。
「違うよ、たまたま今日ここで出会っただけ」
すると、妹の方は次は目をきらきらとさせてこういった。
「じゃあうんめいのひと?」
「へ!?」
「けほっ!」
俺達は妹のとんでも発言により、どちらも顔を赤らめてしまった。姉はこちらを向くとペコペコと頭を下げる。
「う、運命の人じゃないよ?このお兄さんは本当に今日たまたま会っただけの人なの」
「ぶー、つまんなーい」
妹はそう言うと頬を風船のように膨らませた。
(あぁ、びっくりした。急に知らない子に、その子の姉の運命の人かって聞かれたらびっくりするよね?)
そんな事を思ってると、姉妹が降りる階に着いたようだ。
「ほら、お兄さんに挨拶してね」
「はーい。じゃーねおにいちゃん」
そう言うと小さな手を振り、姉の方はぺこりとまた会釈する。俺も2人に返すように会釈した後に手を振った。エレベーターの扉が閉まると、中にいるのは俺と若い夫婦だけ。
「あの女の子可愛かったね」
「だね」
そんな2人の会話を聴きながら、目的の階に着くのを待つ。
✲✲✲
エレベーターを出てエントランスの方に行くと、4人がワイワイソファーの方で喋っていた。俺がそちらの方に向かって歩くと、向こうもこちら側に気づいたようで手を振っている。
「刻くんおはよー」
「おはようございます」
「おはよう」
俺が着くのを待たずして、空宮以外は俺にそう言った。
まぁ、空宮とはさっきぶりなわけだし。
「おはよう」
そう返すと全員が立ち上がる。
「さーてと、朝ごはん食べに行こうか!」
凛がそう言ったのを皮切りに、俺達は食事の行われる会場に行く。ちなみに会場はエントランスのある一階より下、海と同じ高さにある場所だ。会場にある窓からは、すぐそこに海が見える。
「わー、ここからの景色も綺麗だね」
空宮はこちらを向きながらそう言う。そしてこの瞬間に、作戦が上手くいったかのアイコンタクトをとる。空宮からの答えは……。
『上手く言ったよ!』
「よしっ!」
空宮からの答えに思わず小さく声を上げて喜んでしまった。もちろん近くにいた華山もすぐに気付いた。
「鏡坂くんどうかしましたか?」
「い、いや別になんでもない」
「そうですか?」
華山は少し疑問に思いながらも、凛たちの方へと戻った。するとすぐに空宮が俺に近付いてくる。
「刻危ないじゃん!」
「す、すまん……」
「もー、ハラハラしたよ!」
空宮はそう言いながらも、すぐに笑顔を浮かべる。
「でもまぁ、結果オーライって事で許してあげる」
「助かる」
「ふふっ」
俺達はしばらくそうした後に凛達の元へ向かった。
「蒼ちゃんも、刻くんも遅いよ〜。もうお腹減ったじゃないか」
「すまんな」
「ごめんね」
俺達は凛にそう謝る。
「まぁ、いいけど。それよりもほらっ!早く食べよ?」
「そうだな」
俺達は近くの席に荷物を置いて料理を取りに向かった。ここはバイキング方式だ。食べたいものを好きなだけ取る。
よし、楽しい楽しい朝ごはんの始まりだ。
第38話終わりましたね。朝ごはん僕あんま食べないんですよね。時間によっちゃ食べれるんですけど。
さてと次回は8日ですお楽しみに。




