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世界の裏の魔法則  作者: 初日
第六章 編入
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「これにて、今年度の入学式を終了する」


 校長である九曜の風格に満ちた挨拶が終わった後、入学式はつつがなく進行し、終了が告げられる。


「すげぇ貫録のある爺さんだったなぁ」


 武闘館の外に出たところで、梓が詰めていた息を吐き出すようにして呟いた。


「梓の元いたとこの校長は、あんな感じじゃなかったのか?」


 九曜はファンタジー世界における魔法学園学園長の典型的なイメージを具現化したかのような人物だったが、他のところは違うのだろうか?


「全然違う、オレが元いた狩校カリコーの校長は、今にも倒れそうっていうか、逆にまだ倒れてないのが不思議なぐらいヨボヨボのヨレヨレなジジイで、聞き取りづらい声で何度も同じ台詞繰り返してた」

「……やたらと話が長くて、聞いてるうちに眠くなるようなタイプか……ある意味校長としては典型的だな」

「うちの校長先生は物凄く強そうな感じのお爺さんだったよね。「生涯現役」みたいな?あ、玲奈先輩、こんにちは」


 いつの間にか、すぐ近くまで来ていた雪菜も会話に加わる。


「久しぶり、雪菜ちゃん」

「ん?玲奈と雪菜って知り合いだったのか?」

「うん、前に一度、一葉のうちに遊びに行ったときにね。っていうか、梓の方こそ鳴宮先輩と知り合いなの?鳴宮先輩が壇上に上がったとき驚いた顔してたけど」

「まあな、桜とは悠夜経由で知り合って、春休み中に編入試験の勉強教えてもらってたんだよ」

「え、……ぇえええ!?あの鳴宮先輩に勉強教えてもらってたの!?しかも呼び捨ての仲!?」


 随分驚いている玲奈。

 そこまで驚くようなことだろうか?


「っていうか、悠夜くん経由って、どういうこと!?」

「ああ、前に協会で同じ依頼受けたときに知り合って、それ以来、たまにチーム組んで一緒に依頼受けたりしてるんだよ」


 別に隠すことでもないので正直に話すと、


「あ、あの、孤高の鳴宮先輩がチームを……?」


 何故か戦慄する玲奈。


「孤高って……」


 本人が聞けば、「そんな寂しいものを気取っているつもりはない!」とか言いながら、全力で否定しただろう。


「(後輩にまで、こんな認識が浸透してるなんて、どんだけ人付き合い苦手なんだよ……)」


 悠夜は桜のコミュニケーション能力の低さに内心呆れ果てる。


 そんな悠夜の様子には気付かず、玲奈は黙り込んでいた。


「(こ、これは予想以上だわ。現時点で相当な強敵がいるじゃない。一葉は大丈夫かなぁ?一葉って、ルックスはかなりいいんだけど胸がちょっとねぇ)」(チラッ)

「玲奈、今ものすっごく失礼な視線を感じたんだけど」(ビキッ)


 なにやら物思いにふけっている玲奈と額に青筋を浮かべる一葉はさておき、顔には出さなかったが、桜のことで驚いていたのは悠夜も同じだ。

 まさか桜が、在校生代表として壇上で挨拶を行うとは思っていなかった。


 悠夜の元いた世界の学校では、こういうときには生徒会長あたりが在校生代表として挨拶を行うものだが、この狩人育成学校に生徒会という組織は存在しない。

 元いた世界での生徒会役員の主な活動は、


・学校生活の充実や改善向上を図る活動。

・生徒の諸活動についての連絡調整に関する活動。

・学校行事への協力に関する活動。

・ボランティア活動。


 などが挙げられるが、ここではそんなことは学校側に任せて、生徒は自らの能力向上に専念すべきだ、という考え方が主流だ。


 そのため在校生代表は、「もしも、うちの学校に生徒会選挙があったらコイツが生徒会長に選ばれたんじゃね?」的な生徒が任されることになっている。


 桜はこの学校の生徒の中でも、トップクラスの成績だとは聞いていたし、名家の出身であることも知っている、それに加えて、誰もが認めるであろう美少女だ。(ファンクラブなんてものがあったとしても不思議ではない。)

 実力、家柄、容姿の三拍子揃っている桜が、在校生代表に選ばれることはなんらおかしなことではないのかもしれないが、彼女が人見知りのコミュ障であることを知っている悠夜としては、どうしても違和感が拭えなかった。

 桜のことをよく知らない人間は、壇上に立つ桜を凛とした雰囲気の美少女だと思ったかもしれないが、それなりの付き合いである悠夜には、単に緊張でガチガチになっているだけだということがよく分かった。

 内心では、すぐにでもその場から逃げ出したいと思っていたに違いない。

 現に桜には、挨拶中に何度も助けを求めるかのような視線を向けられた。さすがにこれはどうしようもないので気付かないフリをしたが。


 そういえば、入学式が近付くにつれてなんだか憂鬱な顔になってきていたが、原因はこれだったのか。

 桜は押しに弱いところがあるので、大方、教員達から推薦を受けたときに断り切れず、しぶしぶ承諾したといったところだろう。


「(桜のやつ、意外と苦労してるのかもしれないな)」


 今度、仕事帰りに飯でもおごってやろうか?


 などと人によっては、それは仕事疲れしたサラリーマンに対する接し方に似ていないか?と言われそうなことを考えていると


「明日からは、いよいよ授業か」


 ふいに梓が感慨深げに呟いた。

 一年前、狩校デビューに失敗した梓にとって、これは第二のスタートのようなものなのかもしれない。


「今の梓なら、ちゃんと授業についていけるさ。

 編入試験は問題なく通っただろ」


 座学はけっこう危ないが、学校の教育方針はどちらかといえば実技の授業がメインとなっており、座学の授業は、実技の授業の合間に行うといった感じだ。

 もちろん、メインでなくてもよくできた方がいいに決まっているのが、これは必要最低限できればある程度はなんとかなる。

 そして梓の実技―――というより実戦の腕は、既に悠夜が教えた術式魔法という反則じみた手を抜きにしても、そこそこの実力を持った狩人としてやっていけるだけの域に達している。

 まだまだ粗削りではあるが、学校の授業についていく分には何の問題もないだろう。


「そうか、そうだよな」


 梓は何かを振り払うかのように力強く頷く。


「ねえ、そろそろ帰ろうよ」

「そうね、もう各自解散なんだし」


 雪菜がタイミングを見計らって声を掛け、一葉もそれに続く。

 既に出席者のほとんどが武闘館をあとにしており、先ほどまで混雑していた周囲も今ではだいぶ空いてきた。


「そうだな、けど、僕は用事があるから先に帰っといてくれ」

「用事?」


 雪菜が首を傾げる。


「少しくらいなら待ってるけど?」


 一葉の言葉に他の少女達も頷くが、


「いや、たぶんそれなりに時間が掛かると思うからいいよ」


 悠夜はやんわりとその申し出を断り、一人校舎の方へと歩き出した。




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