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世界の裏の魔法則  作者: 初日
第六章 編入
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「どうだ悠夜、似合ってるか?」


 悠夜は余裕をもって、梓はギリギリのところで編入試験を突破し、今日はいよいよ初登校の日の朝。

 狩人育成学校の白を基調とし赤いラインをあしらった女子用の制服を着た梓が、悠夜の部屋に入ってきて嬉しそうに制服姿を披露する。


「ああ、よく似合ってるよ」


 全体的に白い制服が、梓の美しい濃い金色の髪を際立たせ、それに均整のとれたプロポーションが合わさり、まるでモデルのようだ。

 ちなみに悠夜が身に着けている男子用の制服は、女子用とは違って黒を基調とし、青いラインをあしらったものだ。


「兄さん、わたしはどう!?」


 続いて雪菜が部屋に飛び込んでくる。


「うん、雪菜もよく似合ってる」


 こちらも梓とは違う色合いの金髪が白い制服に引き立てられ、まだ幼さの残る顔立ちも相まって、梓とはまた別の魅力をかもし出していた。


「ねえ、私は?」


 最後に一葉が部屋に入ってきて尋ねるが、


「一葉は前からその制服着てただろ」

「そんなこと言わずに誉めなさいよ!」


 そうは言われても、一葉のその姿は既に見慣れてしまったのだが……。


「わるいわるい、もっと早く言うべきだったかもしれないけど、すごく似合ってるよ」


 しかし、少しばかり涙目になる一葉をそのままにしておく訳にもいかないので、苦笑しながら頭を撫でる。


「ふふん、そうでしょ」


 悠夜に頭を撫でられ、一葉はすぐに機嫌を直すが……。


「なんだか、一葉だけ扱いが違うよ!」

「オレのことも撫でろ!」


 そんなことをすれば、当然他二人の反発を招くことになる。

 その後、すっかりむくれてしまった雪菜と梓の頭を撫でて二人をなだめてから、悠夜は朝から騒がしい少女達を促して登校の準備を再開させた。






 容姿の優れている者は周りの注目を集める。

 人の好みがそれぞれであっても、「美しい」と言って差し支えない容姿を持つ者は、それだけで注目される。

 そして、そういった優れた容姿を持つ者の近くにいる者―――特に異性―――は周囲からの妬みや僻みを集めることとなる。

 そのことは、国はもちろん世界が変わっても変わらない不変の法則。


「(やっぱりこうなったか……。まあ、別にかまわないんだけど)」


 今、悠夜達は校門をくぐり校舎へ向かっているところだ。

 大勢の注目を浴びながら。

 三人のタイプの異なる美少女を引き連れて歩いているのだから当然のことかもしれないし、周りの男子が自分に向ける嫉妬や敵意のこもった視線などは、悠夜にとってはどうでもいいことなのだが、自分以外の三人は居心地が悪かったりはしないだろうか?

 などと最初は考えていたのだが、三人共それ程気にしている様子はなく、自分達に向けられる男子の不躾な視線も、自然な感じでスルーしている。


「(この様子だと、無駄に気疲れすることはなさそうだな)」


 悠夜は三人の様子を見て安心するが、彼女達が自分の普段からの図太く、物怖じしない立ち振る舞いにかなりの影響を受けているということには気付いていない。




「一葉、そういえば校内の雰囲気って、僕らの元いた世界とは何か違ったりとかする?」

「うーん、全員が将来実戦で使うために魔法とか武術を習得しに来てるから、ちょっと殺伐としてるかもしれないって感じることはたまにあるし、授業内容は全然違うけど、雰囲気はそんなに変わらないかな?」

「住むところが変わっても、学生は学生ってことか」

「うん、そういうこと。あ、それと、たまに生徒同士のいざこざが、魔法まで使ったケンカになることもあるから、巻き込まれたときとかケンカすることになったときは気を付けてね」


 気を付けるというのはもちろん、悠夜とケンカすることになった相手あわれなこひつじの安否についてである。


「それくらいわかってるよ。どれだけ頭にくる相手でも校内のケンカでは、せいぜい半殺し程度にとどめておくさ。大丈夫、相手の肉体の耐久力を見極めるのは、この世界に来る前から得意だったから「うっかり殺っちゃった☆」なんてことにはならないさ」

「それ全然わかってないし、大丈夫でもないから!」


 元いた世界でよくケンカをしていた、というか一方的に襲い掛かられ、それを返り討ちにしていた(相手の肉体の耐久力を見極める技術もこのとき身に着けた)悠夜にしてみれば、四分の三殺し辺りまでは日常的に(もちろん人目のないところで)やっていたことなのだが、この発言は一葉には少々過激だっただろうか?


「ケンカはたまにしか起きないのか?オレの行ってたところじゃ毎日のように起きてたぜ?一応、真面目なヤツもいたし、全員が喧嘩っ早かった訳じゃねーけど」


 そう言う元不良娘こと梓は、当然喧嘩っ早い人種だった。


「梓の行ってた学校って不良校だったの?」


 雪菜が驚いた様子で聞き返す。

 悠夜のことは「兄さん」と呼んでいる雪菜だが、一葉と梓のことは「姉さん」とは呼ばず、名前で呼び捨てている。

 これは、雪菜が二人のことを姉妹というより友達―――ときにはライバル―――に近い存在として認識しているからである。


「んー、狩校ってたいてい一つの街に一つしかねーし、オレのとこでもそうだったから比べようもなかったんで、オレは狩校ってどこもそんな感じだと勝手に思い込んでたからなんとも言えねーわ」


 先ほどから一度も学校名が出てこないが、そんなものはそもそもない。

 梓が言ったように狩人育成学校は、たいてい一つの街に一つしかなく、他と区別する必要がないので、ほとんどの場合狩校カリコーと呼ばれている。


「学校によって、治安に差があるところも変わらないんだな」


 ひょっとしたら、梓の通っていた学校の治安が、梓の不良化に一役買っていたのかもしれない。


「ま、これから私達が通うとこは楽しいところだよ」


 一葉の明るい表情からして、一年のときはちゃんと楽しい学校生活を送っていたのだろう。


「楽しい、か……」


 今思ってみれば、学び取ることはなにがあるかばかりに気がいって、学校生活を楽しむという、ほとんどの学生が最重要視する目的を失念していた。


「そうなるといいな」


 悠夜はここにきてようやく、楽しむために学校へ行く、という考え方があることを思い出した。


「(そういえば、この世界に来てからほとんどの間、魔法とか戦闘とか武器とか魔獣とか仕事とかのことばかり考えていた気がする……)」


 まあ、それはそれで楽しかったからいいのだが……。


「(僕もたまには普通の青少年らしく、クラスメイトと駄弁ったり馬鹿やったりするのも悪くないかもしれないな)」


 そんなこと考えているうちに、悠夜は校舎のすぐ近くまで来ていた。


「お、あそこに自分のクラスが貼り出されてるのか?」


 開示版を見つけた梓が駆け出そうとするが


「待て、梓。僕らは登校したら、まず職員室に来るよう言われてるだろ。あんな人ごみの中に押し入っていかなくても、そこでクラスぐらい教えてくれるんじゃないか?」

「あ、それもそうか」

「そういうことだから、僕らはこっちだ」

「わかった、私達はクラス確認してくるわ」

「じゃあね、兄さん、梓」


 そうして四人は、職員室へ向かう二人と掲示板へ向かう二人に分かれた。




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