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世界の裏の魔法則  作者: 初日
第五章 異端の少女
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「ねえ悠夜、その女の子は誰?」

「兄さん、どういうことかちゃんと説明してくれるよね?」


 梓がある程度回復するのを待っていたため、予定より二日遅れで帰ってきた悠夜は今自宅の玄関で一葉と雪菜に、作り物めいた笑顔と全く笑っていない目をむけられている。

 そして、二人の視線は悠夜の背後にも向けられていた。

 二人の視線に晒された梓は、初めて会ったときの荒っぽさがすっかり鳴りを潜め、悠夜の背中に隠れて服の袖を掴み、不安そうに瞳を揺らしている。


「ほら、自己紹介しなよ」

「……村上、梓…です」


 悠夜が促すと、梓は悠夜の背中に身を隠したまま、おずおずと名前を告げる。


「今日から梓もこの家で暮らすから、仲良くしてやってくれ」

「どういうことよ!」

「聞いてないよ!」


 二人の厳しくなった視線を受けて、悠夜よりも梓の方が縮こまる。


「詳しいことは中で話すよ」


 外は冷え込むので、悠夜は取り敢えず二人を宥めて、梓の手を引き家の中へ招き入れる。

 中に入ると雪子が夕食の準備をしていた。


「おかえりなさい。あれ、その子は?」

「村上梓。今日からこの家で暮らすんだけど、まずは風呂に入れてやってくれないかな、あと着替えも、説明はその間にするよ」

「?まあ確かに、お風呂に入る必要はありそうね。着替えは一葉のを貸してあげればいいかしら。わかったわ、ついて来て」


 梓の不安そうな視線に、大丈夫だと答えて風呂場に向かわせる。


 リビングに入ると既に光夜が帰って来ていた。


「おう悠夜、誰か連れてきたのか?」

「まあね。母さんが戻ってきたら話すよ」


 少しすると梓を風呂に入れた雪子が戻ってきて、一葉と雪菜も交え、悠夜はあらかじめ梓に話す許可をもらっておいた、彼女がここへ来るまでの経緯を話した。




「そういうことだから、梓をここに住ませてやりたいんだ」

「…………そんなことが……」

「……化け物なんて親が子に言う台詞じゃねえだろ」


 雪子と光夜が悲痛な面持ちで呟く。

 一葉と雪菜は何も言えずに黙り込んでいた。

 重苦しい空気がリビングに満ちるが、そこに風呂蓋の音が聞こえてきた。


「あの子もう出たみたいね」


 雪子が立ち上がり風呂場へ向かう。




 しばらくすると雪子がニコニコしながら戻ってきた。


「見て、見違えるほど綺麗になったでしょう」


 そう言う雪子に手を引かれてリビングに入ってきた梓は、雪子の言葉通り本当に綺麗になっていた。

 薄汚れていた濃い金髪は汚れを落とし、櫛を通したことで美しいストレートロングになり、一葉に借りた私服が梓のモデル体型を際立たせていた。

 特に胸のあたりは窮屈そうで、年齢からすれば標準的な雪菜は、それを羨ましそうに見ているだけだが、発展途上の一葉はその一点を涙目で睨み付けていた。

 梓は自分に向けられる眼差しにオロオロと視線を泳がせ、悠夜の姿を見つけるとすぐその背中に隠れてしまう。


 梓がこの家での暮らしに慣れるには、少し時間が掛かるかもしれない。






「さすがに疲れたな」


 そう呟き悠夜は、明かりを消してベッドに寝転がる。

 梓はある程度回復したとはいえ、万全というわけではなかったので、背負った梓を可能な限り揺らさないようにして走っていたら予想以上に疲れた。

 依頼達成の報告は明日に先送りしておいた。神谷に五日で終わるとは言ったが、別に期限が指定されていたわけではないので一日や二日遅れたところで問題ない。


「明日は梓の衣類とかも買いに行く必要があるな」


 明日は平日なので、それは雪子に手伝ってもらうとしよう。


 悠夜が明日の予定を立てていると、不意にドアがノックされた。


「開いてるよ」


 するとドアがゆっくり開き、寝間着姿の梓が枕を持って入ってきた。


「……悠夜、あの……一緒に寝ても、いいかな」

「……いいよ、おいで」


 この年で同い年の女の子と寝るのは、精神衛生上あまりよろしくはないのだが、まだ、梓は悠夜が傍にいないと不安定になりがちなので、これくらいは大目に見るべきだろう。

 承諾を得ると、梓はすぐに悠夜のベッドに潜り込んできた。


 そのまま、お互いに何かを話すこともなく時間が過ぎる。


「…………なあ悠夜、オレここにいてもいいのかな」


 しばらくして梓が口を開く。その声には不安が滲んでいた。


「当たり前だろ、僕の方から家に来いって誘ったんだから」


 既に悠夜にとって梓は家族の一員のようなものだ。


「でもオレ、悠夜以外の人とまともに話すこともできないし…………」


 最後の方は涙声になっていた。


「大丈夫だよ、みんな気長に待ってくれるし、僕も手伝うから」


 初めて会った日のように梓を抱きしめる。


「だから梓だってじきに、ここの生活に慣れるさ」

「…………うん」


 梓は少し安心したように頷き、悠夜にギュッと抱き着く。

 それからすぐに、安らかな寝息が聞こえてきた。



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