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世界の裏の魔法則  作者: 初日
第四章 一夜明けて
30/45

28

 いまだ歓声が鳴りやまぬ道場を後にして、悠夜達は元の部屋へ戻ってきた。


「素晴らしい腕だったよ」

「ありがとうございます」

「悠夜くんは、本当に凄いな。最初と最後の一撃は、まるで見えなかったよ」


 桜が興奮した様子で話し掛けてくる。


「まさか、ここまで強いとは思っていませんでした。桜が昨日、あれだけ饒舌になって話すハズです」

「お、お母さん!」


 美月の台詞に桜が顔を赤くする。


「饒舌?」

「ええ、それはもう。普段は人のことなんてほとんど話さないのに、まるでこ―」

「うわあああああああ!!」


 美月の言葉を桜が必死になって遮る。そんな大声を出して、肋骨は大丈夫なのだろうか?


「こ?」

「聞き返さなくていいからっ!」

「別にいいではないか、そんなに恥ずかしがることでもないだろう」

「そんなことない!」


 桜は少し涙目になっている。よほど聞かれたくないようだ。

 その後も、茂と美月が昨夜の話を持ち出しては、桜が必死でそれを止めるというやり取りが続く。


「(桜って家族の中ではいじられキャラだったんだ……)」


 初めて会ったときは、凛とした少女だと思っていたのだが、案外そうでもなさそうだ。


「そうだ風霧君」


 桜を泣き出す一歩手前までいじった茂が悠夜に向き直る。


「なんですか?」

「これからは、桜とチームを組むそうだね」

「はい」

「そうか、娘をよろしくたのむ」

「?わかりました」


 茂の言葉は、何か含みがあるように感じられた。

 何故かそれを聞いていた桜は、さっき以上に顔を赤くしていた。






 その後の食事は、茂が「食後は、周りへの被害を考えなくてもいい場所で、強化魔法以外もありの模擬戦をしよう!」と言い出し、美月に違う部屋に引きずり込まれて、結局最後まで帰って来なかったこと以外は、つつがなく終了した。(部屋からは、くぐもった叫び声のようなものが聞こえたが、悠夜は何も聞こえなかったことにして、もくもくと食事を続けた。)


「今日はごめん。お礼をする為に来てもらったハズなのに、お父さんが模擬戦なんか申し込んで……」


 わざわざ見送りに来てくれた桜は、申し訳なさそうな顔をしていた。

 だが、茂と初めて会った時点で、あの展開をなんとなく予期していた悠夜には、さほど気にするようなことでもない。


「あれくらいかまわないさ。それに、おもしろい家族関係も見れたし」

「あ、あれは忘れてくれ!」


 少し茶化してみると、桜は予想以上に慌てふためく。


「(二人が、桜をいじめたくなる気持ちが分かる気がする)」


 もう少し、いじってみたいところだが、まだ加減がよく分かっていないので、今日はこのへんにしておく。


「とにかく、模擬戦のことは気にしなくていいよ」

「そう言ってもらえると助かる」

「じゃあ、今日はもう失礼するね」

「ああ、私の怪我が治ったら、そのときはよろしく頼む」


 そう言って、桜が差し出した手を悠夜は軽く握り返した。






{桜}


「行っちゃたな……」


 先ほど握手を交わした手には、まだ悠夜くんの手の感触と熱が残っている。

 私は、それをもう片方の手で包み込むように握るが……


「本当に恋する乙女になってるわね」

「わああああああああああああああ!?」


 いつの間にかお母さんが隣にきていた。


「い、いつからそこに!?」

「桜が風霧君の後ろ姿を、名残惜しそうに見つめているところからよ」

「悠夜くんが、帰って行ってすぐじゃないか!!」


 ずっと見られていたなんて!

 恥ずかしすぎる!


「隠れていなくたっていいじゃないか!」

「あら、隠れてなんかいないわよ?

桜が風霧君のことばかり気にしていた所為で、気付かなかっただけじゃないのかしら?」

「うわぁああああああああん!!」


 私は羞恥のあまり、激しい運動をしないよう言われていたことも忘れて、全力でその場から逃げ出した。


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