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世界の裏の魔法則  作者: 初日
第四章 一夜明けて
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 昨夜の討伐作戦が終わり、次の日の朝。

 悠夜は昨日と同じく、関係者用の裏口を通って、神谷の部屋へ来ていた。


「昨日はご苦労だった。お陰で書類の山も片付いたよ」


 依頼書の危険性が低いという記述に苦情が複数挙がったが、討伐隊が当初の予定より深く森の中へ踏み込んだこと、討伐隊リーダーの橘が撤収を告げても素直に従わなかったこと、死者が出なかったことなどの理由から、協会に対する責任は軽いものだった。

 神谷は、部屋から書類の山が消えたため、実に晴れやかな顔をしている。 


「どういたしまして、ところで昨日の親玉の件は、どうなりましたか?」


 悠夜が、今日ここへ来たのは、昨夜仕留めた巨大鼠についての協会の対応を聞くためだ。


「うむ、君が倒したあの魔獣は、王鼠おうそと名付けられ、第五級危険指定生物に分類されることとなった。それ以外の小さいものは従鼠じゅうそで十級だ」

「そうですか」


 十から一の階級に分類されている魔獣は、その中でも四つに分けられる。


十から八級 下級魔獣

七から五級 中級魔獣

四から二級 上級魔獣

一級    最上級魔獣


 昨夜の巨大鼠は、中級魔獣の中でも上位で、上級魔獣の一歩手前と判断されたらしい。

 おおよそ悠夜の予想通りである。


「それに伴い、第五級危険指定生物の討伐、及び同行していた狩人達への被害を最小限に抑えたことを評価し、君を第四級狩人に昇格させることとなった」


 しかし、これは完全な予想外だった。


魔獣と同じく、十から一の階級に分類されている狩人に対する認識は


十級    見習い

九から八級 駆け出し

七から六級 中堅

五から四級 手練れ

三から二級 達人

一級    超人


 悠夜は初仕事の次の日に、達人の一歩手前と認識されている階級に昇格したことになる。ちなみに、神谷の階級は二級、光夜と雪子は四級である。(雪子は再婚以来ほとんど専業主婦のような状態なので「元」と付けた方がいいかもしれないが)


「少し上げ過ぎじゃありませんか?僕としてはもう少し低い階級の方がいいんですけど」


 一度しか仕事をしていない悠夜が、自分達と同じ階級になった、などと二人が知ったら落ち込むかもしれない。

 それに絶対目立つ、必要だったとはいえ初日から派手に暴れたのだ。手遅れかもしれないが、それでも目立たない努力ぐらいはしようと考えていたのだが……


「いや、寧ろ低いくらいだ。報告を聞く限り、私でも単身での討伐は難しそうだしな。

君一人で依頼を達成してきたとなれば、誤魔化すこともできたが、今回は何人もの目撃者というか、君の功績の証人がいる。これ以下の階級への昇格では、私の管理能力が疑われかねない。この部屋にまた書類の山を造らんでくれ。

それともし、目立ちたくないなどと考えているのなら、残念ながらもう遅い」

「……はぁ、そうですか…………」


 ハッキリと言われてしまった。


「さあ、君の階級章を渡してくれ」


 神谷の顔には「諦めろ」と書いてあった。

 悠夜は仕方なく、僅か一日限りの付き合いだった第十級狩人の階級章を神谷に渡し、代わりに第四級級狩人の階級章を受け取る。


「それと実はもう一つ話がある」

「もう一つ?」


 今日の話は、巨大鼠と悠夜の階級についてのものだけだと聞いていたのだが。


「君が来る少し前に、狩人育成学校から君に学校への入学または、編入を勧めておいてくれと、頼まれた」

「学校から?どういうことです?」


 学校に通わず、狩人として仕事をしている悠夜に、入学なり、編入なりの誘いをかけるだけなら別におかしいとは思わないが、悠夜は昨日初めて仕事をしたばかりで、学校に通っていないということは、一部の人間にしか話していない。昨夜の今日で、誘いをかけてくるとは随分と早い対応だ。


「私にもさっぱりだ」


 神谷も肩をすくめる。


「まあ、学校へ行くのは悪くないと思うぞ。君の戦闘能力では、今更学ぶものなど何もないと思うかもしれんし、事実学校の教員でも君には勝てないだろうが、あそこには「賢者」と呼ばれている人物がいる」

「「賢者」ですか?」


 「賢者」という言葉に何か引っかかるものを感じた。


「「老師」とも呼ばれているな、狩人教育学校の校長で、現役時代は第一級狩人にして、全属性と強化の魔法を扱うことができた唯一の人間だ。あの人の経験と知識なら、君にも学び取るものがあるかもしれない」

「(……ちょっと待てよ)」


 そういえば、最近「賢者」や「老師」といった表現がピッタリの人物に、逢わなかっただろうか?


「(……あのときの爺さん……)」


 昨日の朝、川の畔で逢ったあの自称ただの通りすがりが、その校長とやらなら全て辻褄があう。元一級狩人で学校長なら、発言力も大きいに違いない。悠夜と別れたときには、もう悠夜に誘いをかけることを考えていたのだろう。

 「ほっほっほ」と愉快そうに笑う老人の姿が、悠夜の脳裏をよぎった


「(本当におもしろい人だ)」


 確かに、あの人からなら学ぶこともあるかもしれない。学校には一葉や鳴宮も通っているし、雪菜も入学する予定なので悪くはない。


「前向きに検討させてもらう、と伝えておいてください」


 旅をするのは、卒業後でも遅くはない。


「そうか、私からの話は以上だ。わざわざ呼びつけてすまなかったな」

「いえ、じゃあ僕はこれで」

「今日は依頼を受けないのか?」

「はい、行くところがあるので」


 神谷にそう告げると、悠夜は協会を後にした。


 この章は短めです。間章にしようかとも思ったのですが、結局第四章ということで投稿しました。

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