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「父さん、追撃は鼠が森に入っても続けるって言ってたけど、他の魔獣とかは出てきたりしないの?」
移動中悠夜は光夜に聞いてみた。
鼠の討伐中、悪鬼のような魔獣が出れば、かなりまずいと思うのだが。
「奥深くまで踏み込んだりしない限りは、仮に出てきたとしても、そこまで強い魔獣はいねぇ」
「さすがに、そんな深くまでは追撃しないだろうしね」
光夜と北島がこれに答える。
「(本当にそうかな?)」
今回の討伐作戦は強化魔法の使い手が鼠を誘導し、後衛が遠距離から魔法を乱射して、少しでも多くの鼠を仕留めるといったものだった。(作戦内容を聞いたとき、眩惑系統魔法のもっと有効な対処手段を持っている悠夜は、一人で依頼を受ければよかったと後悔した。)
しかし、討伐対象は眩惑魔法を使う上に逃げ足が速いのだから、森に入り木々で射程が制限されれば、追撃しても成果を挙げるのは難しいだろう。
この討伐隊は即席のもので、これだけの人数がいれば統率をとるのは困難だ。
危険性の低い相手となれば、深追いしようとする者が現れるかもしれない。
「(とはいえ、僕が悩んでも仕方ないか)」
そうなると決まった訳ではないし、なったとしても若輩者の悠夜の発言が重要視されるとも思えない。
そうなったときはできる範囲で対処しよう
などと事態が悪い方へ進んだときのことを考えていると
「あの、ちょっといいかな」
不意に誰かから話し掛けられた。
悠夜が振り向くと、そこには女性にしては高い身長と腰あたりまで伸ばした銀色のストレートヘアに藍色の瞳を持つ、凛とした雰囲気の少女が立っていた。年は悠夜と同じか少し上くらいだろうか。腰には悠夜と同じく刀を佩いている。
「僕?」
「そ、そうだ、きみもこの依頼を受けているのか?」
「まあね」
「そうか、私は鳴宮桜。きみと同じでこの依頼を受けているのだが、同世代の話し相手がいなくてな」
近くを歩いていた高野が鳴宮という姓に反応する。
「鳴宮?それってまさか、優秀な狩人を何人も排出してきたあの名門の鳴宮?」
「……ええ、まあ」
何故か気まずそうに答える鳴宮。
「へえ、僕は風霧悠夜。確かに僕等の同世代は見かけないね」
だが、悠夜は相手が名門の出と聞いても特に気にすることなく言葉を交わす。
鳴宮は少し驚いた顔をした後、どこか嬉しそうな顔になった。
「風霧君は、よく依頼を受けたりするのか?」
「いや、今回が初めてだよ」
「それにしては随分と落ち着いているな。私はもう何度か依頼を受けているのだけど、周りが大人だけというのはどうにも慣れない」
確かに、これくらいの年で狩人の仕事をしている者は少ないだろう。
鳴宮は名門の出に加え、見た目はかなりの美少女なので、余計に注目を浴びたのかもしれない。
「そういうのは人それぞれだろ」
悠夜の場合は、慣れる慣れない以前に気にならないだけだが。
「そうかもしれないが……、風霧君はこれからも依頼を受けたりするのか?」
「たまにね」
大抵は神谷から秘密裏に高難易度の依頼を回して貰う予定なので、普通の依頼はあまり受けないと思う。
「もし今回みたいに同じ依頼を受けることになったら、また話し相手になってくれないか?」
「いいよ。僕も話し相手がいるのは嬉しいしね」
「そうか、ありがとう」
悠夜がそう返すと、桜は嬉しそうにはにかんだ。
それからは、お互いのことをいろいろ話し合った。
鳴宮は狩人育成学校の二年生で悠夜より一つ年上だった。(敬語を使おうとしたら、やめてくれと言われた)魔法は強化と風が使えるらしく、悠夜が強化と風と雷の三つを使えると聞くとかなり驚いていた。
そうしているうちに、一同は目的地に到着し、それぞれの配置に就いた。




