17
{一葉}
今私は狩人育成学校一年三組の教室にいる。
「世界の裏」における教育課程は
初等部:9~12歳
自分達の住む世界の常識や簡単な勉学を学ぶ。
中等部:12~15歳
初等部より難易度の上がった勉学とさまざまな職業の内容を学び、自分が将来就きたい職業を決定する。
高等部:15~18歳
自分の就きたい職業の専門的なことを学ぶ。
の合計9年である。
私の元いた世界の、私の暮らしていた国からしてみれば短いように感じるかもしれないが、ここの人々は皆日々を生きるのに必死で、長々と必要になるかどうかも分からないような事まで教えている暇はない。
子供だって貴重な労働力で、できるだけ早く一人前になって貰わなければならない。
「世界の裏」はそれ程人間にとって過酷な場所なのだ。
私がこの「世界の裏」に来たのは今から二年前。突然この街の中に私は落とされた。
そして、一体何が起きたのか理解できず、茫然としていたところを二年前失踪したはずの悠夜の父親光夜さんに出会い、自分の置かれた状況を説明された。
最初は現状を受け入れることができなくて、情緒不安定や引きこもりになったりもしたが、剣術道場に通っていたころよく世話になっていた光夜さんがいてくれたので、ある程度時間が経てば立ち直ることができた。
その後、私は光夜さんと同じ狩人になるため、去年この狩人教育学校に入学した。(来年は雪菜も入学する予定だ。)
狩人育成学校に入学試験などはない。
街にとって、狩人はなくてはならない存在で、街も狩人の育成を推奨し、狩人に対する優遇措置も取っている。
しかし、死と隣り合わせの職業のため、なろうとする者は限られてくるし、現役の狩人も毎年少なからぬ死者や行方不明者、怪我で再起不能になる者が出るため、常に人材不足に見舞われている。
選り好みや振るい落としなどをやっている場合ではないのだ。
狩人を目指す者は、優秀な者からそうでない者まで全て入学させ、一から鍛え上げる。
それが街の方針だ。
それに、魔力とは大抵の者は十代半ばあたりから伸び始めるものらしく、狩人を目指す子供は中等部卒業までに体力づくりや武術を習い、(武術を教える道場などには街から補助金が出され、誰でも安価で通える。)高等部に入ってから魔法を学び始める。という者も少なくないので、一年前まで魔法のない世界に住んでいた私が入学したところで問題なかった。
そして、入学してからだいぶ時間が経ち、あと二か月もすれば私も二年生に進級する。
今日は土日明けての月曜日。
「(悠夜のヤツ、早く帰って来ないかなぁ)」
私は机に頬杖をつきながらそう思った。
悠夜が、「死の森」に置いてきた荷物を取りに行くために家を出たのは昨日なので、悠夜が帰って来るまであと二日もあるのだが、やはり思わずにはいられなかった。
せっかく四年ぶりに再会できたのだから。
「(それにしても、悠夜がここに来るとはね)」
子供の頃、悠夜は私が困っているときいつでも助けに来てくれた。
しかし、まさか異世界まで助けに来てくれるとは思っていなかったので、一昨日悪鬼に殺されそうになっていたところに駆け付けて来てくれたのは、とても嬉しかった。
「(それに、凄くかっこよくなってたなぁ)」
子供の時は将来が楽しみな素体をしていたが、再会した悠夜は予想以上にカッコよくなっていた。
なんてことを考えていると
「な~に、にやついてんの一葉」
「うにゃあ!?」
いきなり話しかけられ思わずとび上がる。
声のした方に目を向けると、そこには入学以来の友人で同じクラスの渡瀬玲奈がいた。
オレンジ色の腰あたりまである長いポニーテールと紫水晶のような瞳、顔立ちは整っており文句なしの美少女なのだが、その顔は今意地悪そうにニヤニヤ笑っていた。
「べ、別になんでもないわよ。見間違いじゃない?」
無理があると思いながらも取り繕う。
もちろん、そんなもので玲奈が誤魔化せるはずもなく
「どうせ、財布の中に大事そうにしまってある写真の男の子のことでしょ?」
「ぶふっ!? な、なんでそれを!? って、違う! 今のなし!」
あまりにも的確に言い当てられ、私は狼狽えまくってしまう。
「っていうか、なんで玲奈がその写真のこと知ってるのよ!」
それを見せたことがあるのは、雪菜と母さんだけのはず。
「当たってたんだ。たまに理由もなく中を見てることがあったからまさかとは思ってたけど」
玲奈のニヤニヤが更に意地の悪いものになる。
「っ!はめたのね!」
その後、私はこれをネタに数日間いじられることとなる。
二日後
「悠夜のせいで大変だったんだからね!」
「え?なにが?」
帰ってきた悠夜は一葉から理不尽な怒りをぶつけられた。




