表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界の裏の魔法則  作者: 初日
第二章 危険生物狩猟協会
18/45

16

「な。信用できる人だっただろ」

 

「そうだね。これで素材の売却は、どうにかなりそうだ」

 

 現在二人は街の近くの森の中を歩いている。

 悠夜はこの先の山の向こう、自分がつい最近まで暮らしていた「死の森」へ荷物を取りに行くため、光夜はさっき協会で受注した薬草の採集依頼のためである

 この森に「死の森」のような名前はない。

 名前が付けられるのは基本的に危険度の高い場所だけらしく、それ以外はせいぜい頭に方角などが付く程度らしい。

 魔獣の存在により、行動範囲の著しく限定された環境ではそれで十分なのだ。

 窮屈に感じ旅をしようと考える者は多くいるが、それを実際にやっているのはほんの一握りだけだ。

 それを行うには相当な実力が必要とされるし、それほどの実力者は街が必死になって留めておこうとするからだ。


「(まあ、僕は絶対に旅するけどね)」


 悠夜にとってこの「世界の裏」には、まだまだ知らないことも、知りたいことも山ほどある。一カ所に留まっているなどありえない。


「(金は「死の森」の特産物で稼ぐとして、あとはちゃんとした装備か)」


 悠夜は今、「死の森」に行くということで、一度家に戻って、本来の装備を身に着けて来ている。

 だが、この装備は悠夜が魔獣の角や牙を削っただけのものや、皮や鱗をそのまま強引に繋ぎ合せたものばかりだ。

 素材は一級品だが、加工方法が雑すぎる。

 腕の立つ職人に見繕ってもらわなければ。


「(素材売りに行ったとき、会長に聞いてみよう)」


 悠夜がそんな算段を立てていると、光夜が何かを見つけた。


「おっ。こいつは青葉草せいようそうじゃねえか」

「青葉草?」

「おう。これだ」


 たしか光夜の受注した依頼は、如月草きさらぎそうとかいう食用植物の採集ではなかっただろうか?

 などと、悠夜が依頼内容を思い出していると、光夜は地面から一本の草を摘み取って、悠夜に見せた。


「青葉草とか言ってるけど水色だよね、これ」

「そこは気にすんな。こいつは、効力の高い解毒薬の材料になる植物で、それなりにいい値段で取引されてんだ。覚えとくといい」

「へえ。そういえば「死の森」にも似た様な形と効力の植物があったっけ、僕も一時期世話になってたよ。色は濃い紫だったけど」


 まあ、単独での戦闘中は解毒薬を飲む隙なんてほとんどないし、「死の森」の魔獣の持つ毒の中には即効性の非常に高いものも多く、解毒薬を口にするより速く筋肉を弛緩させる毒もあった。そのため体内で毒を分解する魔法を開発してからは、傷口の消毒ぐらいにしか使わなくなったが。


「紫!?」


 それを聞いて光夜が目を見開く。


「そうだけど、どうかした?」

「どうかしたって、それは紫葉草しようそうじゃねえのか」

「なにそれ?青葉草の親戚?」

「いや、一応種類としては同じものだ。ただ、青葉草は生える場所によって、色に濃淡の差が出る。その中でも紫に近い色をしたものが紫葉草って呼ばれてんだ」

「なにか違ったりすんの?」

「効力が大違いだ。色が濃いもの程、効力が大きく高値で取引される」

「ふーん。「死の森」では紫しか生えてなかったけどね」

「ちなみに、どれ位生えてた?」

「そこらじゅうに」


 探せば大して苦労もせずに見つけられたはずだ。

それに解毒薬の材料なら、これより効力の高いものだって他にあった。


「……取り敢えず、有るだけ採ってこい。

今市場じゃ解毒薬の素材が不足してるから相当な値が付くはずだ。会長なら適正価格で買い取ってくれるし、ぼられることもない」

「分かった」


 どうやら「死の森」は魔獣の素材だけでなく植物も希少なようだ。


「(図鑑でも持って来ればよかったな)」


 そんなことを思っても、今更取りに帰るのも面倒なので今回のところは諦める。


「じゃあ父さん、僕はそろそろ行くよ」

「おう、気を付けてな」

「ああ」


 悠夜は軽く頷きながら術式を展開する。

 そして、発動


強化系統魔法(肉体強化+感覚強化) 闘氣とうき


 これは人体の持つ能力を全体的に底上げする魔法で、効力は普通の強化魔法に五感、動体視力、反射神経などの強化を足したようなものだ。身体能力の上昇率だけを見れば、普通の強化魔法とそれほど変わらない。少し上、程度だ。

 この魔法は人体の持つあらゆる能力を満遍なく強化するため、個々の能力の上昇率はそれほど高くはないのだ。

 しかし、この魔法は非常に効率が良く、少ない魔力で使用することができる。悠夜の高い魔力回復速度を持ってすれば、回復量が消費量を上回る。

 そのため悠夜は、臨戦態勢のときや、走って移動するときなどはよくこの魔法を使用する。「死の森」を出てから、一日と半分ほどの時間しか掛けずに、街周辺の森に着くことができたのはこの魔法のおかげである。

 魔力が全身に血液の様に循環したのを確認し、悠夜は駆け出した。


次回は一葉視点です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ