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「悠夜、こいつは少しやり過ぎじゃねぇか?」
光夜が、呆れた声で問い掛ける。
「まあね」
悠夜自身そう思う。
「でも、手を抜く気にはなれなくてさ」
だが、悠夜はこれでよかったとも思っていた。
神谷に対して敬意を払う最善の方法が、これしか思い浮かばなかったのだ。
「神谷さん、大丈夫ですか?」
それでも、やり過ぎたのは事実、ここは一言謝っておくべきだろう。
「おい会長、起きろ」
光夜が乱暴に揺さぶる。
「うっ…………少しは……労われ」
そこまで深刻なダメージではなかったらしく、すぐに意識を取り戻す神谷。
「神谷さん、少々やり過ぎてしまったようです。申し訳ありません」
悠夜は謝罪の言葉を口にするが
「いや、構わんよ。むしろ、あんなものを見せて貰えたことに、感謝したいぐらいさ」
そう言って笑う神谷は清々しく、そして実に面白そうな顔をしていた。
「君の使った魔法については、何も聞かんし、誰にも言わんよ。
一部の素行悪い狩人の中には、他人の手柄を自分のものにしようと悪質な手段を取る者も居る。だから、「手の内は、信頼の置ける者にしか晒さない」という考えを持つ狩人は少なくない。
君が使っていた魔法など、それの最たるものだ。そんなものを見せて貰えたのは嬉しいことだ」
「ありがとうございます」
「だが、これのこととは関係なしに頼みがある」
「頼み?」
「なに、簡単なことだ。この街の協会に入って貰いたいのだよ。君の力を是非貸してほしい。君が目立ちたくないというのなら、私がいろいろと手を回そう。そんな力を持っていれば、利用しようとする輩も出てくるだろうしな」
悠夜にとっては、願ってもないことだ。
「それは、僕の方からお願いしたいですね。秘密裏に依頼を受けたり、普通に売ったら目立ちそうな素材や薬草の買い取りとかもやって貰えますか?」
「もちろんだ」
「じゃあ今度、今まで溜め込んでた素材や薬草持って来るんでよろしく頼みます」
「君の溜め込んでいた素材か、楽しみにしているよ」
そう言って、神谷は楽しそうに笑った。
「そうだ、君にいいものを渡しておこう。さっきの部屋まで来てくれ」
その後、最初に案内されたこぢんまりとした応接間を兼ねた部屋に戻ると、神谷に名刺ほどの大きさをした金属のプレートを渡された。
「おい会長、これは……」
光夜は目を見開いていた。なにか凄い物なのだろうか?
「これは?」
取り敢えず聞いてみる。
「危険生物狩猟協会関係者用のフリーパス、その中でもほとんどの街で使用できる最も階級の高いものだ」
光夜が驚くのも無理はない。
「いいんですか?」
とても初対面の相手に渡すような代物には見えないが。
「ああ、君にはいろいろと力を借りることになると思うのでな。これでも人を見る目は持っているつもりだ」
しかし、神谷は気にした様子もなく頷いた。
「(父さんがこの人を信頼するのも納得できるな)」
そう思いながら悠夜は協会を後にした。




