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世界の裏の魔法則  作者: 初日
第二章 危険生物狩猟協会
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12

 元の世界では我が物顔で世界を闊歩していた人間だが、この世界における人間の地位は圧倒的な弱者である。

 人々は魔獣の影に怯え、魔獣の少ない限られた場所に街を築き、そこに多くの人間が身を寄せ合って生きている。

 しかし、いくら魔獣の少ない限られた場所といっても、魔獣はそれ単体で人々の脅威となりうる。当然、対抗手段は必要であり、その対抗手段が狩人と呼ばれる職業者だ。

 狩人の仕事は主に、街周辺の魔獣の駆除、危険地帯でのみ入手可能な物資の調達、街同士の交易を行う際の護衛、魔獣が集落へ向かって来た時街を魔獣の侵攻から護ることである。

 人々が生きていく上で狩人は必要不可欠であり、街の中における狩人の地位は極めて高い。

 そのため、狩人達の集う危険生物狩猟協会の建物は街の中でも、一際大きく、立派なものだった。


 中に入ると、鎧や戦闘服に身を包んだ男女が、作戦会議をしたり、壁に貼られた依頼書に目を通したりしていた。(魔法があれば女性でも戦えるので、女性の狩人も結構いる。)


 内装は清潔感があり、RPGのギルドなどによくある「荒くれ者の溜り場」などと言った雰囲気はない。

 酒場が一緒になっていて、酔っ払いが居たりもしない。

 三下臭い連中が見ない顔に絡んでくる、なんてベタな展開もない。

 

「(さすが、日本人。職場で真面目なのは、こっちでも変わらないんだな)」


 悠夜が、そんなことを考えているうちに、光夜が受付で手続きを済ませ、二人は会長の部屋へ案内された。




 悠夜と光夜が案内されたのは、実用性重視のこぢんまりとした応接間を兼ねた部屋だった。

 そしてそこには、白髪混じりの灰色の髪をした壮年の大柄な男が待っていた。


「初めまして、風霧悠夜君、私は危険生物狩猟協会会長の神谷宗次朗かみやそうじろうだ。」


 深みのある、ずっしりとした声で男は名乗った。

 それは歴戦の猛者、といった風格を感じさせるもので、大抵の者はこれだけで萎縮してしまっただろう。


「こんにちは、会長。」


 だが、凶暴な魔獣から日常的に殺気をぶつけられてきた悠夜は、当然これくらいで萎縮などせず、自然体で挨拶する。

 それに気をよくしたのか、神谷は唇を釣り上げる。


「ここに呼んだ理由は、聞いているかね?」

「ええ、会長と手合せするとか」

「私は、「風霧悠夜の実力を確かめる」としか言っていないのだがね……」 


 そう言って、神谷は光夜へ視線を移す。


「どうせ、相手すんのは会長なんだろ?」


 光夜はぞんざいな態度で答えるが、神谷は「まあな」と軽く笑うだけで、気を悪くした様子はない。こういったやり取りは、よくあることなのだろう。


「さて、悠夜君、私は光夜の証言を疑っているわけではないのだが、危険生物狩猟協会の会長として、君の実力を確かめる義務があるのでね。少しつきあってもらえるかい?」


 言葉は疑問形だが、そこには有無を言わせぬものがあった。


「別に構いませんが、人目に着く所では遠慮したいですね」


 これは最低条件だ。勝とうが、負けようが、悠夜が単独で悪鬼の群れを殲滅可能な実力を持っている。ということを会長に認めさせるには、本気とまではいかなくても、ある程度の実力を示さなければならない。だがそれは、この世界の常識から大きく外れたものだ。

 人に見られるのは避けたい。


「安心したまえ、私は人の実力を言いふらしたりなどしない。手合せも人目のない場所でやる」


 これはありがたい。

 どうやら神谷は、細やかな気遣いのできる人間のようだ。


 「この建物の中には、訓練場も入っていて、今日はその一室を立ち入り禁止にしている。ついて来てくれ」


 そう言って、神谷は応接間をあとにした。




 そして、ところ変わって訓練場。

 悠夜は今、重厚な鎧を身に着け、手にはハルバードを持った神谷と向かい合っている。


「(ちょっと装備が本気過ぎないか?)」


 神谷は隠しているつもりかもしれないが、顔が少しニヤつきかけている。光夜が相手はバトルジャンキーだと言っていたのを思い出して、悠夜は辟易した。


「準備はいいかね?」


 神谷の問い掛けに、「待ち切れない」といった感情が滲み出ているのを感じ、ますます辟易する悠夜。

 しかし、いつまでも辟易している訳にはいかない。


「構いません」


 そう言って、悠夜は鞘に入った刀を抜き放ち、構えをとる。

 刀を右手一本で正眼に構え、左手は半身に隠れるようにダラリと垂らし、重心は低めの独特な構え。


「では」


 そして、審判を務める光夜が手を上に上げ


「始め!」


 振り下ろした。


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