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世界の裏の魔法則  作者: 初日
第二章 危険生物狩猟協会
12/45

10

{雪菜}


「ん……」


 部屋の窓から朝日が差し込む。それに意識の覚醒を促され、部屋の主である風霧雪菜はベッドから起き上がり、大きくのびをする。


「んん~」


 普段はサイドで纏めている髪も今は解いており、肩に少しかかるくらいの金髪が朝日を浴びてキラキラ光る。


「昨日は、いろんなことがあったなー」


 初めての狩猟を経験し、危険生物の群れに襲われ、殺されそうになったところを義理の兄悠夜に救われ、とんでもなく画期的な魔法理論をきかされた。

 最近15歳になった雪菜だが、あそこまで驚きの連続した日は、昨日以外には思い浮かばない。

 一階に下りると、台所から香ばしい匂いが漂ってくる。もうすぐ朝食のようだ。この時間帯は光夜は家から少し離れた所にある川の畔へ、日課の鍛錬に行っており、一葉はまだ寝ている。

 顔を洗って、歯を磨く。ふと気になって窓の方へと目を向けると、そこには昨日悠夜が指差した山が見えた。冷たい風が入ってくるが、かまわず近付いて窓を開ける。悠夜はこの世界に来て、一年近くもあの山の向こうにある死の森で暮らしていたと言った。

 それは、この世界の常識に当てはめれば、到底信じられることではないのだが、雪菜は悠夜が嘘をついているとは思っていない。

 理由は自分でも分からないが、悠夜に対する疑念などは全く湧かなかった。それどころか初対面のはずなのに、そばにいると不思議にも安心感が湧いた。

 元々、頼れる兄、という存在に憧れを持っていた雪菜にとって、これはとても嬉しいことだ。

 それに昨日、今まで光夜と一葉から話でしか聞いたことのなかった兄を初めて見た時のことは、はっきりと脳裏に焼き付いている。

 自分の窮地に颯爽と駆けつけ、敵を圧倒的な力でねじ伏せる姿は、雪菜の理想の強くて、優しくて、カッコイイ兄そのものだったし、自分のこともすんなりと受け入れてくれた。


「すっごい、タイプ」


 思わず顔をにやけさせる雪菜。

 しかし


「何がタイプだって?」

「うひゃあああ?!」


 思わず奇声をあげる雪菜。

 声のした方へ目を向けると、見たこともない複雑な術式が直径二メートルほどにわたって庭の地面に広がっており、その上で悠夜が腕立て伏せをやっていた。


「ちょっと兄さん!そんなところで何してるの!?それになんで気配けしてるの!?」


 焦っていたのと、さっきのことを誤魔化したいのと、二重の理由からつい早口になってしまう。


「見ての通り鍛錬さ。気配を消すのは体に染み付いた癖みたいなものだな」


 イラッとするくらい平然と答える悠夜。


「癖って……、とっ、とにかく家の中ではちゃんと気配だしといてよ!どこにいるのか分かりづらいよ!」


 分かりづらいどころか、全く分からなかったが……


「気を付けるよ」


 そう言って苦笑しながら腕立て伏せを続ける悠夜。

 そこで雪菜は、あることに気が付いた。


「ねえ、兄さんの下の魔法は、なんのためにあるの?なんで、その魔法からは魔力が感じられないの?」


 魔法を使えば魔力の余波が生じる。一般的な魔法に比べて悠夜の魔法はこの余波がずっと小さいと聞いていたが、これだけ近くに居て、何も感じないというのはおかしい。


「ああ、これはね……」




 悠夜の説明によると、現在悠夜は二つの魔法を重ねて使用しているらしい。


 一つ目の魔法は


干渉系統魔法 加重域かじゅういき


この魔法は発動地点から球体状に広がり、その空間内の重力を増加させる魔法らしい。ちなみに今は3倍。


 二つ目の魔法は


隠密系統魔法 穏行おんぎょう


 これは、他の魔法と同時に使用することを前提とした魔法で、魔法が発する魔力の余波を遮断し、周囲に気付かれないようにする魔法らしい。ただし、副作用で余波を隠した魔法は効力が若干下がってしまうのだとか。


「前まで住んでたところには、ちょっとした魔力の余波にも反応して寄ってくる、やたらと魔力感度の高い魔獣も居たからね。鍛錬中に隠密行動取るのも癖みたいなものさ」

「えっと、つまり兄さんは今、二つの魔法を同時に使いながら、三倍の重力の中で腕立て伏せやってるってこと?」

「うん、そうだね」

「…………もう、驚く気にもなれないよ」


 悠夜は強くて、優しくて、カッコイイ兄だが、これは少々強過ぎかもしれない。

 そんなことをしているうちに、光夜が鍛錬から帰り、朝に弱い一葉を雪菜が起こして朝食となった。



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