二十二章 四季祭「春」 其の伍
サクラコ裏話。
伊織は辛いものが大好き。
特に激辛であればあるほど燃えるとのこと。
「神秘解放、黒煙神」
主人の声に応え、手に握っていた刀が黒曜石に覆われるとその中から、ギザギザとした刀身と頭上に四つの牙が円状になっている輪っかが姿を現した。黒く覆われた刀を両腕で握り、力一杯翳すと同時に叫ぶ。
「黒煙神・壊刃! 」
振り下ろされると黒い斬撃が放たれ、それは容赦なく桜子に向かった。黒い斬撃を四本の浮遊剣で攻撃するもそれは止まることなくすり抜ける。
(うん!やっぱり、防御に向けた行為が効かない!レイズの時に見せたのと同じ。私の予想ならこれで)
桜子はそう思うと斬撃を避けた。
右に避けると斬撃は壁にぶつかり、その部位に切り傷を生まれる。
だが、伊織は右目に付けていた眼帯を千切り、左とは違う、赤い眼が晒されると斬撃を避けた桜子を逃さなかった。桜子も伊織が自分との距離を詰めることを予想しており、しっかりと剣を構え、伊織の攻撃を防ごうと対策をしていた。
互いの読み合いが当たり、再び熾烈な攻防が繰り広げられる。観客はそうなることを予想し、彼女達の動きを眺めていた。
だが、そんな光景は訪れず、むしろ、その逆。
互いの刀身がぶつかる直前、伊織の握る刀から黒い煙がかかると桜子の剣と交わることなく、桜子の体を切り裂いた。
桜子の右肩は切り裂かれたことにより、服が破れ、そこから少しばかり血が流れる。
何か自分に迫る傷つくとはまた違う、恐怖と危機感。
襲いかかった初めての感覚は桜子に後退と言う行動を取らせた。
その瞬間、伊織が赤い瞳で桜子を見つめると足が何かに抑えられた。
目の前に自分を脅かす脅威があるにも関わらず、その場から動けない。
「桜子!お前、今、逃げようとしたな?つれねえじゃねえか! 」
叫ぶ伊織と、動揺する桜子。互いの距離は未だに変わらず赤い瞳が見つめる中、再び刀が振るわれるとそれを防ごうと自らが持つ刃をぶつけた。
黒い煙が再びかかり、刀は次は桜子の左肩を切り裂く。
***
「あっちゃー!二度も受けちまったか! 」
観客席からニコニコしながら試合を眺める刃は、大きな声で誰かに聞こえるように張り上げるとそれに気づいたツクヨが応えた。
「そうだねー、神秘の特性を見抜くのに二回も受けたら命取りになる場合もあるからね」
「だけど、あいつの神秘相当練り込まれてる。防御不可の攻撃、加えて防御に関する行動を止めるってとこかな。神秘ってのは解釈次第で能力を伸ばせるとは言うがあそこまでとは!あいつガサツに見えて、本物だぞ」
自身と戦うためのシミュレーションをしてからかニヤニヤが止まらない刃を見て、ツクヨはため息を吐き、再び口を開いた。
「桜子ちゃんが二個目の能力を見抜けるかどうかかなー。それはそうと刃くんって闘いの事になるとやっぱり天才だね。でも、私の意見はちょっと違うかな〜」
「ほ〜う、そりゃ、教えてもらいたいな〜。なぁ?奇蹟の転生者? 」
二度目の緊張。
それは先程よりも明確に、しっかりとした殺意と言う形ですぐに姿を現していた。
「あはは、次のその名前で呼んだら許さないよ、刃くん」
「それはそれで、俺は楽しみなんだかなー。まぁ、そんなことしたら後々の処理が面倒だからな!お前と殺り合うなら正式な場で、だ」
***
二度目の斬撃を受けた桜子。
だが、手負いの獣を逃すほど望月伊織は甘くなかった。
「黒煙神・壊刃」
黒い斬撃を放つと伊織自身も攻撃に参加した。
隙の生じぬ二段構え。
そんな中、残り数秒で自身に迫る凶刃に対して、桜子は分析した。
(防御不可の斬撃が能力じゃない。多分、防御不可の攻撃が伊織の神秘の特性。でも、どうして私が避けようとしたら動けなくなったの?回避を否定してるんじゃない?うーん?そうなると防御に関係してる?防御を更に大きな目線で見てみたら、防御行動を不可能にしてる。それなら合点がいくけど……。でも、さっき、逃げようとしたな?って伊織言ってたよね。私が逃げるってのはやっぱり回避を?いや、違うそうじゃない。うーーーーーん、わかんない! )
この間、およそ二秒。
迫る伊織に向かい彼女の背後から四本放っておいた浮遊剣の一本を動かし、放った。
先程までの伊織であれば簡単に気づいた一本の浮遊剣。それに対して伊織は避けることなく彼女の肩を切り裂き、桜子に向かうと浮遊剣を一本握りしめ、二本の剣を携えた。
(避けなかった?さっきの伊織ならあんなの避けるの簡単なのに)
黒い斬撃を避けようとすると足が動かず、伊織の攻撃を剣で防ごうとするも刀は黒い煙が現れ、四つ目の切り傷が生まれた。
「いっっったい!!!!もう! 」
言葉にすれば少しは傷が和らぐかと思い、口に出すもそんなことお構いなしにと伊織は既に次のモーションに移っていた。
避けることも防ぐことも出来ない状況。
そんな中、桜子は気づいた。
伊織が持つ神秘、いや、解釈について。
そして、それと同時に適応した。
両手に握った剣を使い、防御を捨てた。
伊織に斬られることを前提に、相手を斬りつける。
すると、刀身と刀身が打つかり合い、再び火花を散らすと桜子は止まらなかった。
伊織よりも速く、剣を振るう。
二振りの剣を伊織へと振るうと彼女は防ぐことも避けることもせず、切り裂かれた。
攻防などではない攻撃と攻撃のぶつかり合い。
自身を落ち着けるため、桜子は伊織から距離を置いた。
そんな彼女を伊織は追うことなく、見つめると体から滴る血を肯定しようと笑った。
戦神の神秘を持つ故の、微笑み。
望月伊織は戦士であり、秤桜子も同様の戦士である。
戦神は戦士に平等であり、ならざる者には不平等。
生まれた傷は、痛みは、贄であり、馳走。
伊織は嬉しそうに声を上げた。
「おいおい、桜子!もしかして、気づいたか! 」
能力のタネがバレたにも関わらず、伊織は笑っており、そんな彼女を見て、桜子も同様に笑い返した。
「防御不可の攻撃。それを伊織は傷付くことを恐れる行動を不可能にする能力に置き換えたんだね」
「正解!ようやく、分かったか!俺の神秘は気難しくてな、防御不可の攻撃は互いに防御不可だ!だが、そんな能力じゃ、俺がつまんない!互いにスリルを!血湧き踊る闘争を!実現するにはどうするか!そう思った時、作ったのがこの眼の能力。黒煙神・ 死乃小祝宴。発動条件は両目で相手を見ること。そうすると、」
「ちょっとちょっと!そんなに能力言っていいの?!不利にならない?! 」
伊織が能力のタネを明かし続ける事に桜子は驚き、伊織が喋っている最中に口を挟んだ。だが、そんなのはお構いなしにと再び伊織は口を開く。
「俺も相手も避ける事、防御する事、傷付くと言う行為を避けようとするとその行動を否定する。説明お終い、こんな説明無しにでも使えるようになりてえなあ!まぁ、これしないと俺は次に進めないから仕方ねえ」
「つ、次って?だって、もう伊織の能力は分かったし、私も引かずに攻撃するよ互いに倒れるまで斬り合えるってだけじゃないの? 」
戸惑う桜子を見て、伊織は大声で笑うとその問いに応えた。
「あはは!桜子!お前、なんも知らないんだな!教えてやるぜ。神秘とは秘匿するもの。それが一種のアドバンテージになり、相手も自分も能力を知らずに戦える。だが、それじゃあ、勝てねえし、面白くねえ。ならどうするか、それは秘匿していた神秘を晒す。そうする事で、俺自身とお前の神秘への理解を上げる」
「えーと、じゃあ、今、私に神秘の話をしたのは、私と伊織が伊織の神秘への理解度を上げるため?でも、何のため? 」
「それを今から教えてやるよ、桜子。俺がなんで神秘を開示したかを」
その言葉を最後に、再び伊織が纏う雰囲気が変わった。観客達も何かを察したのか先程までの歓声は失われ、ドヨドヨとし始めると桜子だけが状況を理解しておらず、剣を構えたまま立っている。
黒い刀を逆手に持ち、自らの神秘のギアを上げるため、大きな声で叫んだ。
「神秘拡張、黒煙神豹乃心臓!!!! 」
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