二十一章 四季祭「春」 其の肆
サクラコ裏話
伊織は綺麗好き。
部屋の中は誰よりも整理されていて、無駄なものがない。
逆に、一番整理整頓が苦手なのは桜子。
「皆様!長らくお待たせしました!!!!舞台の準備が整いました!!!!これより、四季祭「春」、決戦トーナメントを開始します!!!!」
実況の声が終わった途端、大声が上がった。
待ちに待った開始のアナウンスに様々な歓声と、叫び声が聞こえてくる。
そして、その熱狂は誰では無く、予選を突破した選手達へと注がれており、彼らの登場をまだかまだかと待ち望んでいた。
そんな観客を見て、実況のクロノはニコニコと満面の笑みを浮かべると大きな声で叫んだ。
「皆様、最高に昂ってますね!それこそ実況冥利に尽きます!ルールは簡単!相手の気を失わせれば勝利!シンプルイズベストで最高!え?もう待てない!?知ってますよ!それでは登場してもらいましょう!一回戦、最初の試合を飾るのはこいつらだ! 」
その一言で、入場口が開き、二人の生徒が姿を現した。
片方は金髪、右目に眼帯、片方は黒髪でありながら先端が桜色に染めている。
珍しい髪色の二人はまっすぐ前を向くと舞台だけを見据えており、不敵に笑いながらもそこには相手に対しての敬意と期待が込められていた。
「一回戦!最初の試合は!秤桜子選手VS 望月伊織選手だ!!!! 」
***
「初っ端から俺とお前、か」
伊織は舞台に上がると目の前に立つ、桜子に喋りかけた。
「いい勝負にしようね!伊織! 」
「あはは!!!!お前はそうでなくっちゃな!ああ、いい試合にしよう! 」
二人の短い会話は観客には届いておらず、彼らが何かを喋っていたことだけが知れた。そして、そんなことお構いなしにと場を盛り上げるためにクロノは宣言する。
「御託はそこまで!会場の熱に会話は不要!必要なのは血湧き踊る闘争心と冷めぬ興奮!それでは参りましょう!!!!試合開始!!!!」
開幕の宣言が聞こえた途端、一糸乱れぬ速度で二人は同時に声を上げた。
「「起動!!!! 」」
剣と刀が互いの手に握られると伊織が目にも止まらぬ速度で距離を詰めた。
互いの間合いに入った途端、手に握る得物を全力で振るった。
刀と剣が交じり合い、火花を散らす。
過激に、熾烈になる打ち合いであるにも関わらず、互いに一歩も引かない。絡め手、作戦、一つもなしの正面からの力と力の打つけ合いによる真っ向勝負。
願ってもない状況に見えるも桜子は自分のペースを乱された。
二人の剣撃は凡人からして見れば既に、目で追うことが出来ない速度に到達しており、会場は更なる盛り上がりを見せるも桜子だけが自分が押されていることを理解し、焦り始めていた。
四本の剣での攻撃を伊織は一本の刀で巧みに防ぎ、薙ぎ払う。桜子もまた、戦いの中で伊織の動きを分析し、相手の隙を作り出そうと剣を放ち、自らもその斬り合いに参加した。
一進一退の攻防。側から見ればそう見えた。
しかし、それは周りからの感想であり、自分のアドバンテージを殺されてしまったことで、桜子は苦戦を強いられることになる。
桜子の四本の浮遊剣を相手に一切引くと言うことをせず、攻めの姿勢を崩さない伊織の戦法は実のところ、桜子を倒すと言う点において、最適解である。
桜子の幻想換装の四本の浮遊剣は相手の間合いの外から放つことで自身の間合いに入ることを遅らせ、入ってきたところを手に握る一本の剣で仕留めると言う合理的に作られたモノであった。
それ故に、間合いに入られると四本の浮遊剣の緻密な制御と相手に対しての攻撃と防御、全てに神経を割くことになる。
直感か、はたまた、当てずっぽうか。
だが、戦神の神秘を持つ彼女に取って、それはただの持っていた才能であり、どうでもよかった。ただ、そこにあるのは桜子を喰らい、ちぎろうとする貪欲なまでの闘争心。
伊織は笑いながら今持てる全ての力で刀を振るい、その一撃が桜子を吹き飛ばした。
物理法則に則り桜子の体は宙を舞う。
壁にぶつかる直前、なんとか浮遊剣の二つを使い受け止められるも既に伊織が走ってこちらに向かってきているのを理解した。
(状況、距離、ようやく、私の間合いだ)
桜子はそう考えると二本の浮遊剣を飛ばした。真っ直ぐ、伊織に向かう浮遊剣は簡単に弾かれてしまう。
その背後から残された二本の浮遊剣が機を窺っていたかのように伊織が桜子だけに視線を寄越していた瞬間、放たれた。
背後に迫る二本の剣に伊織はほんの数刻の殺意を感じると己の感性を信じ、宙返りした。
二本の浮遊剣は伊織の背中ギリギリを通り、空を切ると地面に突き刺さる。
圧倒的なまでの身体能力と才能を周りに見せつけ、一瞬の攻防に観客は圧倒された。そんな中、ほんの一握りの天才達が彼女の行動に気づいていた。
「魔桜五刀流、夜鷺・一刀」
伊織が宙返りをし、地面に足がついた瞬間、桜子は手に握る剣を彼女の体目掛けて振るった。
不可避の一撃、それにすら伊織は気づいていた。
その一撃、自分に向けられた殺意に反応するも、それは桜子が既に得物を振るった瞬間であった。
殺意を極限まで隠し切った桜子へ、この瞬間にだけ、軍配が上がる。
伊織はギリギリ刀を挟み、なんとか直撃を防ぐも彼女を止めようとする剣はあらず、壁に叩きつけられた。
そして、それと同時に観客席から歓声が上がった。
目を惹きつける攻防。
純粋なまでの力比べ。
それら全ては観客が盛り上げるスパイスである。
たが、それ以上に、彼らを盛り上げる、熱狂の渦に引き摺り込む、神秘を彼女は、望月伊織は知っていた。
「いっっっっってえなぁ!肋が逝ったじゃねぇか! 」
そう大声をあげ、伊織は痛いと言葉を口にし、表現するもその顔は痛み、苦痛から最も遠い表情である笑顔を浮かべていた。
「こっちだってさっきの連撃痛かった!」
それに対して桜子も同様、笑顔で応えた。
その笑顔を見て、伊織も彼女であればそう応えるであろうと考えており、相手への敬意、そして、自身の持つ最大を見せつけようと声を張り上げた。
「あはは!そりゃそうだ!痛くしてるからな!まぁ、なんとなくだが、お前にゃ、やっぱり、このままじゃ勝てねえってのは分かったわ。こっからが俺の真の全力だ。死ぬなよ、桜子」
視線は冷たくなり、刀を逆さに持つと初めて桜子に出会った時同様、己が持つ神秘を解放させ、この世全てを馬鹿にするように舌を出した。
「神秘解放、黒煙神」
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