椿、烝に翻弄されるの巻
二人は晴れて夫婦になりました。よって山崎→烝に変換します。
甘々な二人にご注意下さい。
山崎烝・椿は晴れて夫婦になった。
互いの名前を呼び合うのも様になってきた。烝の体調も随分とよくなり、日常生活にはほぼ支障がなくなった。
そんなある日の二人を追ってみる。
「烝さん、おはようございます」
「おはよう。もう起きたのですか」
「ふふ、はい。今朝は私が朝餉を作ったので」
「椿が?」
普通の夫婦であれば驚くことではない。しかし、これまで新選組と共に過ごした椿は炊事はせずに、専ら医者として過ごした。
今でもオトという女を雇っているのだ。
「はい。たまには妻らしいことをしないと」
そう言って、椿は頬を赤く染める。
そんな姿を見せられては堪らない。烝は思わず椿を抱き寄せた。
「そんな可愛らしいこと言わないで下さい」
「え、ちょ、ちょっと烝さんっ」
烝は椿をそのまま布団に引きずり込んだのだ。
ジタバタと「朝餉が冷えます」だの「もう朝だから」などと必死に抵抗をしてみせる。
それが余計に男心に火をつけるとは、椿に知る由もない。
「椿。今日はオトさんお休みでしょう?少しくらい怠けてもいいじゃないですか」
「でもっ、もう陽が昇って・・・ん!?んんんっ」
烝は椿の口を自分の唇で塞いだ。片手で頬を撫で、頬に流れた髪を梳いて耳にかけると、さっきまで抵抗していた椿が大人しくなる。
観念したのだろうか。
ちらりと薄く目を開け確かめると、瞳を閉じ懸命に自分を受け入れる彼女の姿が映った。
(これは・・・マズい)
チュと音を立てて唇を離してやると、潤んだ瞳で睨んでいる。
「もうっ、烝さんったら。朝餉です!」
「怒らないで。椿が誘うから」
「さっ、さ、誘ってなんかいませんっ」
ぷいっと顔を横に背け、寝所から一人さっさと出ていってしまった。
烝はくくくっと肩で笑うと、ようやく立ち上がって椿の後を追った。
「朝からあんな口付けをするなんて」
言葉とは裏腹に椿の顔は真っ赤だった。
せめてもの抵抗か、飯をお椀にてんこ盛りにしてやった。
「椿。俺こんなに食べれませんよ?」
「私が炊いたんですから、食べてください。ね?」
「怒っているんですか」
烝が眉を下げて困った顔をして見せると、椿の胸がキュンとなる。
椿は烝のそんな弱々しい表情に弱い。
今まで過酷な任務を背負ってきた人だと思うと、これからは楽をしてもらいたい、甘えさせたい。そんな風に思ってしまう。
「私が本気で怒っていると思いますか?烝さんには適いません。困ってしまいます。どんなにされても怒れません」
「そうですか。俺は幸せですね」
「そうですよ!分かってください」
なんと甘い朝餉だろうか。
生死を彷徨い、生き返った烝は人まで変わってしまったようだ。
椿はこの屋敷で変わらず医者として働いている。
烝は鍼灸師として往診に出たり、椿と患者を診たりしている。
二人の評判はとても良かった。
勝ち気だが心の優しい女医者の椿と、一見無愛想にも見える鍼灸師は老若男女問わず人気があった。
特に烝が笑うと、えらく男前だと評判になり女の患者が増えた。
もちろん誰にでも笑うわけではない。
椿の言動にしか反応しないのだ。それがまた良いとあちらこちらから引っ張りだこだった。
「今日は反物屋の往診でしたよね?」
「ああ。最近おかしいのですよ」
「おかしいって?」
「針の刺し甲斐がないというか。大して皆さん状態が悪くない様に思える」
「ぷっ、烝さん。それ、烝さんに会いたいだけですよ」
「まさかっ!?」
「私、聞いたんです。烝さんが笑うと男前だって」
「ええっ!?」
「妬けちゃいます・・・」
「え・・・」
こんな事は人生で初めてだ。烝はどう返していいか分からない。
「でも、いい事ですよ」
「良くないです。俺は椿のものだから」
「や、山崎さんっ!」
つい、山崎さんっ!と言ってしまった。
俺は椿のものだなんて!かなり動揺している。茹で蛸だ
「椿。山崎さんって誰ですか」
「山崎さんは、山崎さんです!」
もう引けない。ここは山崎で通すしかないっ。
「椿さん?覚悟は良いですか」
「か、く、ご・・・?」
烝は口角をググっと上げて見せた。何か企んでいる!
椿の耳元に口を寄せ、「今夜思い出すまで、お教えします」と。
「な、な、なーーー!!」
さて、今日も素敵な一日が始まりました。




