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山崎さんを知りませんか?  作者: 佐伯瑠璃
最終章 浅葱の彼方へ
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土方からの手紙と未来への旅立ち

山崎は椿から渡された土方からの文を開いた。

黙って山崎はその文を読み進めて行く、そしてパサリと閉じた。

山崎の瞳には今にも零れ落ちそうな熱い涙が溜まっている。


「やま、ざきさん?」


山崎は零れる前に袖で拭い去ると、その文を椿に差し出す。


「椿さんも、読んで下さい」


椿は躊躇いながらもその文を手に取り読み始めた。





山崎 烝殿


この文を貴殿が読む事を願いて、ここに記する。

先の鳥羽伏見での戦の勤め、大変御苦労であった。

新選組を此処まで導くことが出来たのは、貴殿の力が有ったからこそであります。

残念ながら惨敗致した事は貴殿に顔向け出来ぬほど後悔極まりなく。


新選組は此れにて解散致したく候。

よって新選組諸士調役兼監察を解任し、山崎烝の離隊を此処に勧告致したく候。

貴殿のこれまでの働きは生涯忘れまい。


最後に、我ら元新選組隊士は椿の事を妹の如く慕っていた。

どうか貴殿の手で幸せにしてやって欲しい。

他の者では椿の手綱は操る事は出来ない。

最後の任務だ。

一生をかけて遂行してもらいたい。


土方歳三 慶応四年一月 筆



読み終わると、椿は静かにその文を畳んだ。


「土方さんったら、酷い。私を馬に例えるなんて」


土方の字は見た目に似つかず、細く繊細な線だった。

それがまた余計に胸に沁みる。


「俺は今日から新選組ではなく、ただの何も無い男になりました」

「何も無いだなんて!!」


椿がその言葉に強く反発し、山崎を一喝した。

そんな椿の姿を見ると、じわじわと心が楽になって行った。


「そんなに怒らないで下さい。今はそれが妙に心地良いのです」

「山崎さん」


山崎の言葉に不安を抱えながら椿はそっと顔を仰ぎ見る。

すると山崎がふわりと笑った。

両の手を大きく広げ「さあ」と椿を誘う。

椿は「え?」と、少し戸惑いを見せる。


「椿、俺の所に」


椿、と山崎は初めて椿の名を呼び捨てにした。


「山崎っ、さん!?」

「椿、俺の事は?」

「へっ!?あ、え・・・」


山崎は黙ったまま手を広げて何かを待っている。

頬を緩めて、柔らかな眼差しを椿に注ぐ。

ただの男に戻った山崎が求めるもの、それはーーー。



(すすむ)さん、烝さんっ!!」


椿は山崎の腕の中に飛び込んだ。

山崎は椿をその腕で力強く受け止め、ぎゅうぎゅうと抱きしめる。

二度と叶わないと思われたその抱擁に椿は歓喜した。


そして、腕の力が緩められると同時に二人の瞳がぶつかった。

山崎も椿もその表情は幸せに満ち溢れている。


「椿。俺と夫婦になってくれませんか」

「烝さん。喜んで!私をあなたの妻にしてください」


その言葉を聞いた山崎は口角をぐっと上げ、椿の唇を奪った。


今までのどの口付けよりも、熱く、深く、長く。

そこから椿の全てを奪い取ってしまいそうな程に情熱的なものだった。


「んっ、ふっ」


椿の方が先に限界を迎えたのか、唇の隙間から吐息を漏らす。

山崎がゆっくりと唇を離すと肩で息をしながら、


「もうっ、はぁ、はぁ。山崎さんっ!」


と潤んだ瞳で(たしな)める。

山崎はにやりと笑って、「山崎さんっ、じゃありません」と再び椿の唇を奪った。




時は既に新政府軍により、慶応四年は明治元年へと変わっていた。

世の流れは徳川幕府を過去のものと認め動き始めたのだ。


そして、春の訪れと同時に胸を切り裂く知らせが入った。

元新選組局長、近藤勇の死だ。

京の町に何日か晒された首を二人でその御霊(みたま)を慰めに訪れた。

それでも土方は戦いを諦めず、刀を掲げ進軍していると聞いた。


それ以降、新選組がどうなったのか知らせは無かった。

そのまま翌明治二年五月、鳥羽伏見から始まった新政府軍と旧幕府軍の戦争が終結した。

風の便りで土方歳三の戦死も知らされた。



「烝さん?烝さーん。あれ、どちらに行かれたのかしら」


椿は今日も山崎を探している。


「オトさん、烝さんを知りませんか?」

「あらあら奥様、そのように動き回っては体に障ります。旦那様がいつも仰っているではありませんか」

「そうですけど、病気ではありませんから」


椿は大きなお腹を抱えて、診察をし今はこうして山崎を探していた。

山崎は往診に出掛けているのだ。

以前のように鍼灸師として働いていた。


「椿っ!何をしているのですか。あまり動いては」

「烝さんっ。探しました」


山崎の小言も見事に流し、屈託の無い笑顔で山崎の首に腕を回す。

それが外であろうと関係なくするものだから、周りも目のやりどころに困るのだった。


「わっ!今、蹴られました」

「え?私蹴っていませんよ?」

「違います。椿が腹を俺にくっつけているから、腹の中で怒っているのですよ。ほら、また」


椿が山崎に抱きつけば自然と大きな腹を山崎に突き出す事になる。

それを窮屈に思ったのか腹の()が蹴ったと山崎は言う。


「ふふふ、この子も父様が好きなんですね」


もう誰も二人を引き離すことはない。

ずっと、こうして笑いながら生きて行くのだろう。





ー終話ー

本編、これにて完結とさせて頂きます。

まさか此処まで長編になるとは思いませんでした。

書くにつれて、山崎烝という男性の魅力に取り憑かれていました。

新選組のサイドストーリーみたいっ(*´艸`*)

なーんて、勝手に満足しております。


後半は二人のイチャつきが全然なかったので(戦争中だったから)、

番外編として二、三話投稿する予定です。

それまでは完結処理せずに置きますので宜しくお願いします。

では、また後ほど。


此処までお読み頂きまして、誠にありがとうございました。

m(_ _)m

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