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山崎さんを知りませんか?  作者: 佐伯瑠璃
最終章 浅葱の彼方へ
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軍医は従軍するものです

年の瀬が押し迫った、十二月九日。また時代の大きな波が襲ってきた。

王政復古の大号令が発せられたのだ。

これまで徳川主体で動いてきた武家社会を撤廃し、天皇の下で新たな組織を立てることが決まった。

これによって徳川は今までの地位と支配してきた土地を全て天皇に返上せよと迫られた。

もちろんこれに納得するわけもなく、徹底的に抗戦する構えとなったのだ。


「というわけだ。大阪に向かう!」

「はい!」


先日、二条城の警護へ出かけた新選組だったが先に水戸藩が配置についており話がうまく通ってなかったのか結局は京に戻ってきていた。

落ち着く間もなく、大阪へ行くことになった。

隊士たちはバタバタと移動の準備に追われていた。


「なんだかいつもバタバタしていて落ち着きませんね」

「仕方がないだろう。幕府も混乱している」


すでに帰隊した斎藤は諦めたふうにそう椿に諭した。


「しかし大阪なら椿は困らないだろう」

「そうですね。私も何かのお役に立てるかもしれません」


こうして新選組は京の町を引き上げ、大阪へ向けて出立した。

もう戻ることはないだろうと土方は言っていた。武士の時代は終わってしまったのだ。


そう言えば山崎の姿が見当たらない。気になって仕方がないので、隣を歩く沖田に聞いてみた。


「ところで、山崎さんはどちらに?」

「山崎くんなら先に行っていると思いますよ。誰かさんが急に用事を頼むから」

「?」


山崎は主に近藤や土方の命で動く。沖田の言う誰かさんは土方に間違いないだろう。とにかく何かにつけて山崎、山崎なのだ。


「そうですか。でも、いつも山崎さんですね」

「彼は身のこなしが軽いですからね。見たことないだろうけど、彼は棒術が得意ですよ。一度手合わせをしたいなぁ」

「棒術、ですか。知りませんでした」


山崎は一般隊士と違い戦線で戦うことは無い。しかし、戦場を伝令などで駆け抜ける必要がある。ある程度、身を守る術を持っていた方が断然有利なのだ。

因みに島田は監察より組長補佐が忙しい。刀の使い手である彼にはそちらの方が向いているようだった。



大阪に着いたものの以前のように屯所とする場所も広くはなかった。

だから必然的に誰かと相部屋になる。

唯一の女である椿には一部屋与えられると思っていたら、違っていた。


「あの、何故こうなったのですか」

「何故でしょうね」


椿は納得の行かない表情で愚痴る。それに答えたのはにこにこ笑顔の沖田だった。

合流した山崎は複雑な表情をしている。その理由は・・・


「部屋が足りねえんだ、仕方がないだろ。にしても、総司!何でお前まで此処に居るんだよっ」



一般隊士は相変わらずの雑魚寝だが、組長級の者は三人から四人で一部屋を使っている。


「あの、何では私の台詞ですよ?どうして、土方さんと沖田さんも同部屋なのですかっ」


そうなのだ、この部屋は土方、沖田、椿そして山崎の四人部屋だ。


「山崎は忙しくなるから俺が責任をもってお前を護るためだよ」と土方は言う。すると沖田が「そんな土方さんも会議で殆んど居ませんから、僕が椿さんを護衛するんですよ」と尤もらしく言う。


山崎は二人の言い合いを他所に椿にこう言った。


「俺、出来るだけ椿さんから離れないようにします」と真顔だ。


椿は思った。そういう問題ではない、と。

しかし、椿には権限がないので黙って「はい」と頷いた。


ようやく大阪に腰を下ろして隊務が始まるのかと思った矢先。


「伏見奉行所の警護を仰せつかった!」


近藤が機嫌よくそう言った。


(え!?また、戻るんですか!)


しかし、隊士たちの士気は大阪(ここ)に来た時よりも明らかに上がった。これが何を意味するのか!


幕府軍は伏見で薩長連合軍をくい止めるつもりでいる。

そう、戦争が始まるのだ。

近藤の表情とは逆に土方は厳しい顔をしている。

他の藩とも折り合いをつけ新選組の居場所を確保しなければならないからだろう。


また移動の準備開始だ。そんな矢先、


「椿。お前は大阪(ここ)に残れ」

「え、何故?」

「いよいよ戦になる。此処にいた方が安全だ」


土方は今更何を言っているのか!何度も確認したではないか。


「何度も言わせないで下さい!私もついていきます!」

「本当に戦になるんだぞ」

「現場に軍医が居なくてどうするんですか!怪我をした隊士を大阪まで歩いて行けと?宝の持ち腐れはやめて下さいっ」

「・・・死ぬかもしれないんだぞ」

「私は死にません!それに皆さんを死なせない為に私は存在している筈です!最後まで全うさせてください!!」


土方は暫く黙り込んだ。本心はこんな戦争に椿を巻き込みたくないのだ。山崎の事を思うと余計にそう思った。

しかし、椿は梃子でも動かない頑固者だ。置いて行って自力で伏見に来ることだってあり得る。


「分かった。その代わり俺の傍を離れるんじゃねえ!これは副長命令だ。いいな!」

「はいっ」


その夜、土方は山崎にこう言った。


「すまん。椿を連れて行く」

「承知しています。土方さん、椿さんの事は宜しくお願いします。もし、この先俺に何かあったら・・・」

「おいっ、山崎」

「俺に何かあったら、副長に彼女を託します」


そう言って、深く深く頭を下げた。

俺は死なないと誓った。しかし、誓いと現実は違うことを知っている。

自分に何かあっても土方なら、椿を何とかしてくれるのではないか。

そう思っていた。


椿だけは何が何でも護りたい。

新選組と言えば浅葱色(ミント色?)のダンダラ羽織です。

しかし、調べると池田屋事件以降着ていないとか。

全身黒ずくめだったらしいです。

また、一節によると浅葱色だったのか浅黄色だったのかはっきりしないと。もしかしたら浅黄色(黄土色?)だった可能性もあると。

しかし、やはり浅葱色のイメージが強いですよね。

時代劇ドラマや映画では浅葱色が使われていますから。


さあ、いよいよ終盤に差し掛かってきました。

戊辰戦争の始まりへ向かいます。



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