会いたいが現実になる時
登場人物:伊東=伊東甲子太郎 後に少しkeyman となる。
椿と山崎はそれぞれに、それぞれの想いを抱えて三月を過ごした。
京に居る近藤からの知らせによると、山崎の方が先に帰ってくるという事だった。
椿たちはその半月後には屯所に帰り着くだろう。
行きはたったの三人だったのに対し、帰りは十数名に膨れ上がっていた。
土方を先頭に伊東、三木(伊東の実弟)と藤堂が前方を歩きその後ろを他の隊士が続く。
椿は列の一番後方を沖田と並んで歩いていた。
「沖田さん、伊東さんって大丈夫なんですよね?」
「大丈夫って、何が」
「私が言う事ではないのですが・・・ちょっと違う気がして」
「どんなふうに?」
「えっと、考え方が新選組と違いませんか?」
そう言うと沖田はすっと目を細め「鈍感じゃなかったんですね」と言ってきた。
ぷうっと頬を膨らませて怒る椿に「仕方がありません。近藤さんが気に入っていますから」と言った。
椿はそれ以上何も言わなかったが、嫌な予感はぬぐえなかった。
(ぜったいに土方さんとは馬が合わない)と心の中で呟いた。
それでも順調に椿たちは京へ向けて旅を続けていた。時折、土方の機嫌が気にはなったが特に変わりはないようだ。土方はああ見えても感情を隠し、相手の腹を探るのが得意だ。
見た目とは違って意外と繊細な部分を持っていた。
「椿さんといいましたか」
「はい」
前方にいた伊東が下がってきて隣を歩き始めた。
「新選組に医者がいると聞いて驚きました。こんな美しい方だったとは。土方くんの戦略はかなり進んでいますね。医者と共に在るとはなかなか思いつきません。以後宜しくお願いします」
「はい、こちらこそ。尽力いたします」
伊東という男は身なりも言動も丁寧であり、かなり頭もいいようだ。
嫌う要素は無い。
もしひとつ上げるとしたら、それは新選組の為になるのかどうかが疑問だった。
土方が休憩先の手配を済ませ、戻ってきた。
「椿、疲れてないか」
「はい、大丈夫です」
「そうか。まあもうちっと我慢すればあいつに会えるからな」
「はい!」
「おまえ、あからさま過ぎる」と軽く額をつつかれた。
もうすぐ、長かった旅も終わる。山崎さんに会える。それだけが椿の心を支えていた。
(どうしよう。山崎さんに会う時どんな顔をして会ったらいいかな)
ぽっと頬を染める椿に、沖田はただ苦笑するばかりだった。
「ねえ土方さん。椿さんの感動の再会を賭けませんか?」
「あ?賭けるってどうやって」
「くくっ、山崎くんを目の前にしたときの椿さんの行動ですよ。島原での一杯を、どうです?」
沖田はにやりと笑って土方にそんなことを持ちかけてた。
土方は難しい顔をして考えていたが「いいだろ」と了承したのだ。
「椿さん」
「はい」
「期待していますよ」
「はい?」
よく分からない沖田の笑みと土方の何か企んだ時の顔に少し怯えた。
沖(僕、泣き笑いで「ただ今戻りましたっ」て言うと思うんですよ)
土(俺はそうだな、満面な笑顔で「山崎さん!」だな)
他人の再会を面白がってはいけない・・・が、さてどちらに軍配が上がるだろうか。
***
行きと違い帰りの足取りは軽い。もう、近江に入った。
ここまでくればあと一息だ。
この峠を越えれば大津に入る。京と目と鼻の先だ!
秋を飛び越え、まもなく冬が来る。
(もうすぐ、会える。山崎さん!)
椿は心の中で何度叫んだ事か、気持ちは今にも走り出してしまいたい衝動にかられていた。
最後の宿場は大津だ。秋分を過ぎたこの季節は日暮れも早くなるため、これ以上は進めない。
もう少し、あと少し、流行る気持ちを抑え列の後方を歩く。
すると突然、皆が止まった。
(ん?何かあったのかな?)
前から土方がやって来た。何やら難しい顔をしている。
「椿」
「はい」
「お前、覚悟はいいか」
「は?」
意味不明な問に首を傾げる。沖田は察したのかにこりと笑って、土方と顔を合わせて何か合図を送った。
「なんですか?」
すると、スッと土方が自分の前から離れ沖田と並んだ。
薄暗くなり始めた町の向こうに、ポツンと誰かが立っていた。
「ん?・・・」
椿は目を細めてじっと見つめる。それはいったい誰なのかと。
すると椿は分かったのか、バッと勢い良く土方達の方を振り返った。
土方は顎でフンッと合図をする。
(ーーー行けっと言っている)
椿はペコリと頭を下げると、駆けだした!
こんなに早く走ったのは、池田屋騒動以来だ。足が縺れそうになりながらも踏ん張って、走った。
その相手は目を見開いて、椿が向かってくるのを確認した。
ーーーーーードンッ!うっ、
ぶつかるように椿は飛びついて「山崎さんっ!」と叫んでいた。
まさかこんなに勢いをつけて飛び込んで来るとは思わなかった山崎は、辛うじて椿を受け止めそのまま後ろに倒れてしまった。
そう、周りから見たら山崎はぶっ飛ばされたように見えただろう。
「・・・椿、さんっ」
「山崎さぁん、会いたかったんです。会いたかったぁ」
山崎は上体をゆっくりと起こす。椿は山崎の胸に顔を埋めてスリスリしている。
それを見た山崎は苦笑しながら、椿の頭をそっと撫でてやった。
「そ、総司」
「はい?」
「ありゃ何だ!どうなった」
「こちらか見る限りでは、椿さんが山崎くんを押し倒した様にしか見えないのですけどね」
「だよな」
椿の中の箍がひとつ外れてしまったようだ。
ちょっと山崎さんを押し倒してみたかったのです。
彼なら一緒に倒れちゃうだろうな・・・とか思いながら。
因みに、土方さんや原田さんは倒れないと思います(笑)
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伊藤→伊東 訂正




