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山崎さんを知りませんか?  作者: 佐伯瑠璃
第一章 医者として
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医者の不養生~それぞれの想い~

~椿~


なんと、私が寝ていた部屋は山崎さんの部屋でした。

にも関わらず、「一緒に寝てください」なんて言いってしまいました。

多大なるご迷惑をかけてしまいました。反省です。


「椿さん、粥にしました。食べられますか?」

「・・・はい、いただきます」


申し訳ないやら恥ずかしいやらで、なかなか顔を見ることが出来ない。

熱が下がったばかりで体が少しふらふらする。


「持てますか?」

「あっ、はい。大丈夫です。これしき」

「くくっ」

「山崎さん?」

「いえ、どうしてそんなに緊張しているのかと、思いまして」


緊張・・・そうですね、緊張しているかもしれません。

だって、衣食住に関わることを私は山崎さんにさせてしまっているからです。

衣:着替えを・・・うっ、恥ずかしい

食:お粥を作ってくれました

住:山崎さんのお部屋にお邪魔しています


すると山崎が急にお椀と匙を取り上げた。


「えっ」

「はい、どうそ」


粥を掬い、椿の口元へそれを差し出す。食べろと言っているのだ。


「いや、自分でっ・・・」


と、口を開けたところにそれがスルリと入ってきた。

熱くはなかった。

ちょうど人肌ぐらいのぬるさだ。僅かに塩の風味がした。


「美味しい」

「よかった。もっと食べてください」


山崎さんの献身的な看護と甘やかしに今、どっぷり浸かっている。

医者なのに今回は患者で、何よりもその山崎さんの態度が気恥ずかしいというか、照れくさい。

非常に心臓に悪い気がしてなりません、なのに抗えないのです。


「椿さん、顔が赤いですがまた熱ですか」


そう言って額に手を当ててくる。その手の温度の低さがまた心地いい。


「ちがっ、熱ではないです」

「ははっ、知っています。からかってみただけです」

「え。からかっ・・・た」


ダメです。今日の私は山崎さんに勝てそうにありません。

でも、いつも忙しい山崎さんをを自分が独り占めしている事が嬉しくて仕方がない。

発熱に感謝です。



~幹部たち~


椿はあれから山崎の部屋で看病されたのだろう。かなり熱が高かったので気になり昨夜はあまり眠れなかった。もし夜中に突然何か入用なものが出た時の為にと神経が高ぶっていた所為だ。

夜が明けた頃、山崎が報告にやって来た。


「副長、ご心配をお掛けしましたが椿さんの熱は下がりました」

「そうか、ご苦労だった」


律儀な男だ。ちゃんと俺に報告に来やがった。

あいつも眠れていないのは見てすぐに分かる。

夜を徹して任務にあたり、戻ったときと同じ顔つきをしていたからな。


「苦労性だな。否、俺がそうさせているのか」


暫くするとあいつらもやって来た。


沖「土方さん、椿さんの様子は?」

斎「副長、椿は・・・」

原「見舞いに行ってもいいか?」

藤「俺も、すげえ心配で」


こいつらも心配して山崎を探し回ったからな、気になるのは当然だろう。


「朝餉の後にでも覗いてやれ」


俺はこいつらの気持ちを考えてそう言ってやったんだが、まさか山崎が機嫌を損ねるとは思わなかった。

今思えば、イイものを見せてもらったと思っている。


「くくっ。山崎あいつ人間らしくなりやがって」


~山崎~


さすがに今回は椿さんも観念したようで、大人しく俺の看病を受け入れてくれています。

副長や斎藤組長たちが一斉に俺の名を叫んだのには驚きましたが、どうもずっと俺を探してくれていたようで、申し訳なかったです。


斎藤組長が椿さんの異変に気づいたのが幸いでした。

もし一般隊士の誰かだったら、彼女の熱に冒された姿は・・・

正直、普通の人間であれば理性など吹き飛ぶほどの物でした。


袖を引かれたところまで耐えられたのですが、

『・・・一緒に、寝てくれませんか?』

あれは反則です。


あの後の俺は思考が停止してしまって、言葉が出なかった。

普段の彼女の性格を知っているからこそのあの発言は・・・・くっ

結局、添い寝をしてしまったのです。


今もこうして粥を口に運んでやれば、顔を真っ赤に染めながらも本当に従順だ。

ついからかってしまった。

俺らしくないっ・・・

椿さんが相手だと、どうもその俺と言うものが分からなくなってしまう。


しかしこうして椿さんに付っきりで居られるのが何よりも嬉しい。

他の者ではなく俺という事が。


口には出せませんが、今回の病には感謝です。



「まだ、食べられますか?」

「はい」

「ではどうぞ」

「あの、もう自分でっ」

「俺にこうされるのは、嫌ですか?」

「いっ、嫌でではない、です。けどっ」

「では、もう一口」

「ふぐっ・・・」

「ついてしまいましたね。すみません」


山崎は手拭いで椿の口元を拭ってやった。

椿の顔はますます真っ赤になり、まるであのツバキの花のようだと山崎は思った。


「綺麗ですよ」

「・・・え!」


そんな言葉が出ている事に気づかない山崎は、もっと食べろと粥を椿の口に運ぶ。


さて、そんな二人の甘い空間に何も知らない幹部たちが見舞いにやって来る。

廊下を四つの影が通り、山崎の部屋の前で止まった。


「山崎、入るぞ」


サーと開いた障子の向こうには、こちらに背を向けた山崎がその向こうに座る椿に・・・


(口づけをしている!?) 


と、勘違いをした模様。 


どうしますか!・・・・山崎さんっ。

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