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山崎さんを知りませんか?  作者: 佐伯瑠璃
第一章 医者として
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恥ずかしながら医者の不養生に慌てる幹部たち

いつもは冷静な斎藤だが、目の前で椿が倒れたのは驚いた。

膝から崩れ床に落ちていくのを寸前でなんとか受け止め、今は椿を横抱きにし廊下を小走りで進んでいる。土方の部屋に向けて。


「副長!斎藤です。入ります」

「おっ!?」


自分の入室許可を待たずに斎藤がザーッと足で障子を開けて入ってくるのが見えた。

しかも椿を抱えて。


「斎藤っ!それはどうした」

「突然倒れたのです。どうしたものか分からず副長の部屋に来てしまいました」

「取りあえず、ここに寝かせろ」


土方は自室にある布団を引っ張り出し、椿をそこに降ろすように指示した。

いつも元気な椿がこんな状態だとどうしてよいか分からない。二人の男はただ見つめるだけ。

土方はそっと椿の頬と額を触ってみる。


「っ、ひどく熱いな」

「熱、ですか」

「ああ」

「・・・」

「副長、どうしますか。医者を呼びますか?」

「この辺に医者がいたか?」

「・・・椿以外、知りません」

「参ったな」


そうこうしていると外から声がした「土方さん、居ますか」と沖田だ。


「入りますよ」

「なんだ総司、今は忙しい!」

「あれ?椿さんじゃないですか。どうしたんです?」


沖田はあの後、椿を探したが見当たらなかった為、ここで仕事をしているのだろうと思い訪ねて来たのだ。

しかし目の前に居る椿は布団に寝かされていてどうも様子がおかしい。


「熱があるらしい。先ほど倒れた」

「一くんどういうこと?」

「分からん」

「山崎くんは何処。彼を呼ばないと!」

「そうだ!山崎だ。おい山崎を呼んで来い!」


斎藤が素早く立ち上がり、山崎を探しに部屋を出た。

土方と沖田は交互に椿の額を触り、ああじゃないこうじゃないと困り果てていた。

こんな時の副長と一番組組長は全く役に立たなかった。


「斎藤はまだか、山崎は何処に行った」


苛々しながら土方も部屋を出ていく「山崎はどこだ!」「山崎を探せっ!」気が付くと、巡察に出ようとしていた他の組長たちも巻き込んで山崎の捜索に乗り出した。


巡察に出る原田が土方にこう言った。


「土方さん、あんた山崎に仕事頼んでるんだろ?」

「・・・確か島原の偵察を頼んだな、あと会津藩邸に寄るよう伝えたぞ。ああ、それから」

「あんたどんだけ山崎に仕事させてるんだ」

「すまん」


そんなことを言い合っている場合ではない、とにかく山崎を探せ!


斎藤は屯所内を一通り回ったがその姿はどこにもない。

土方は落ち着きなく鬼の形相で「山崎はどこだ」とまるで御用改めをしているようだった。

沖田は桶に水をくみ、濡らした手拭いで椿の額を冷やしながら「山崎くんまだですか」と何度も振り返る。


部屋で大人しくしていた藤堂もこの騒ぎを聞きつけて、山崎を探し始める。

別棟にいる隊士たちに「山崎くん知らない?」と聞くが、ただの一般隊士なのだ「知りません」で終わる。

そうなのだ、諸士調役兼監察という肩書を持つ山崎は一般隊士たちには知られていないのだ。


「まじかよ。そうだよな、俺たちしか知らねんだ」


こういう時になって初めてその肩書が恨めしく思ったのは本人でなく幹部たちだ。

気付けば山崎一人を見つけられずにおろおろする幹部たちが土方の部屋に戻ってきた。


土「おい、見つかったか!」

斎「土方さん、見ての通りです」

土「ちっ!」

沖「ちょっと舌打ちは止めてもらえませんか。耳障りです」

土「なんだと!」

原「おいおい、椿が寝てるんだぞっ」

土「石田散薬(これ)でも飲ませてみるか」

斎「それは(いささ)か違う気が・・・」

土「そうか」

藤「ここで帰りを待つしかないんじゃないのかな?」

全「そうだな」


五人の男は悶々としながら山崎の帰りを待っている。


(山崎ぃぃ、早く帰ってきてくれえぇ!)


そんな時外から「おい、歳はいるか?」と呑気な声がする。

そこいるのは局長の近藤で、にこにこと今日もご機嫌だ。


間髪入れずに土方が「あんた山崎を知らねえか」と聞いた。


「山崎くんか?ああ、さっき炊事場で・・・」


と言いかけた所で全員が一斉に立ち上がり、部屋を出たのだ。


「おい、なんだ。どうした」


呆気にとられる近藤は一人ぽつんと横になる椿に目をやった。

静かに近寄ると、目を閉じた椿の頬は真っ赤ではぁはぁと荒く呼吸をしている。

額を触るととても熱かった。


「これはイカン!」とその場に座り手拭いで汗を拭き「頑張るんだ椿くん」と励まし続けた。


その頃、男たちは先を争うように炊事場へ急いだ。

そこには探し求めいていた山崎の背中が!!

そして一斉に。


「山崎!」「山崎くん!」


「うわあっ!」


激しく驚いた山崎がゆっくりと振り向く。それは異様な光景だった。

副長と組長たちが(すが)るような目で自分を見ているからだ。


「みっ、皆さんお揃いで。何かあったのですか」


するとまた、皆が声を揃えてこう言った。


『『椿が倒れた!』熱を出した!』大変だ!』助けてくれ!』』

「えっ、え!?」


一度にしかも微妙に違う事を言われた山崎は固まった。

彼は聖徳太子ではないのだ。


「すみません、椿さんがどうしたのですか」


再び口を開けようとした者たちを手で制したのは斎藤だった。


「椿が倒れた。熱がある、副長の部屋だ」


山崎は軽く頭を下げ、すぐにその場を離れた。


(斎藤ぅ!おまっ、やるじゃねえかぁ!!!)


斎藤の好感度が上がったのは言うまでもない。

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