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山崎さんを知りませんか?  作者: 佐伯瑠璃
第一章 医者として
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腰巾着は両刀でした

R15には触れない表現にしたつもりですが、これはR15じゃないか?

と、思われましたらご一報くださいm(_ _)m

変わらず土方の部屋で医学書を読み、山崎に指南してもらった針の基礎である人体のツボを頭に叩き込んでいた。

土方はそんな椿を横目でチラチラ見ては、いつ針を打たせろと言うかと戦々恐々としていた。


「土方さん?なにか?」

「何でもねえよ」


そんなやり取りが何度か行われた時、ある隊士が稽古中に怪我をしたと椿を呼びに来た。

怪我の程度が分からなかったので、そのまま動かさないように指示を出し自分もすぐに行くと伝えた。


「稽古中の怪我なら打ち身が主だろう。これを持っていけ」


土方は白地の袋の包を幾つか差し出してきた。


「これは?」

「打ち身、捻挫に効く。石田散薬だ」

「石田散薬?(初めて聞いたかも・・・)ありがとうございます」


往診道具を手に椿は道場に向かった。

道場についた椿は一通り見渡すも怪我人らしき人物が見当たらない。

稽古は終わったのか、一般隊士たちが雑巾かけをしている。


「椿さん、すみません。組長の部屋に運ばれた後のようで、行っていただけますか?」

「組長の部屋に?・・・分かりました」


どの組のと聞こうとしたら、足早に行ってしまう。

置いていかれないように隊士の後を追った。


「此処です。では後は宜しくお願いします!」


そう言い残し、さっさと行ってしまった。


「え、ちょっと?」


椿は来たことのない部屋の前に立っている。

そう椿が我が物顔で歩ける場所は限られていた、(はなれ)のようなこの部屋は本当に組長の部屋なのかまで分からない。


「なんだか、嫌な予感。でも医者なんだから患者を選んではいけない!うん!行こう!」


気を取り直して障子を開けた。


「失礼します。怪我人は何方ですか?」

「ああ、ツバキくん。来てくれたのか」

「あっ!?」


そこに居たのは会いたくない人物、武田観柳斎だった。

よりにもよって彼の部屋とは。

妙な汗が背中を伝った。


「おや?君は女子(おなご)だったのか」


一瞬、武田は顔の表情を強張らせたが、すぐに取り直す。


「はい、仕事がしやすいように男のような恰好をしておりましたが、あらぬ誤解も招きかねませんので屯所内では女の恰好です」


武田はぴくりと眉を上げる。


「あらぬ誤解とは、何かな?」

「えっ、あ・・・」


しまった!と思った。

これではまるで武田が男色だと言っているようなものではないかと。


「あの、怪我人はっ」

「怪我人はいませんよ」

「え!?」

「敢えて言うなら私が病人、ですかね」


不敵な笑みを顔に浮かべ、武田は椿のすぐ前に来て座った。

武田は着物の上をはだけさせると診察をしろと言う。


(大丈夫!この人は女の人は好かないのだからっ)


顔色や脈、喉の奥、まぶたの奥も覗くが異常は見当たらない。

熱も無さそうだ。


「あの、異常ありませんが・・・」

「そんな訳はありません。ほら胸の音を聴いてみてください」

「胸の音、ですか」


胸の音を聴くとはどういうことだろうか。

まだ日本には肺や心臓の音を聴くという道具がない。椿は脈からは憶測を立てるしかないのだ。


「ほら」と武田は椿ににじり寄り椿の手を取り自分の胸に当てた。

ビクッと体を揺らす椿を見下ろしながら、武田は笑う。


「私の心臓の音はどうです?速いでしょう?ふふふ」

「あのっ!」

「貴女は何か勘違いをしているようだ。私を男色だと思っているのだろう?」

「違うのですかっ」

「ハハハ。確かに男色だと認めるが、誰も女を抱けないとは言っていないよ」


椿はハッとして武田の顔を見上げた。

掴まれた手首は更に力が入り、放してはもらえない。


「君のあの日の男の姿を思い出しながら、今日は仕方がなく女の君を抱くよ」

「なぜ」

「なぜ?君は本当にめでたいな。昨日、今日の只の医者がしかも女の!局長や副長から可愛がられ守られて、私は許せないんだよ!いつもヘラヘラと笑い媚を売りまくる君が!私がどれ程苦労して局長を持ち上げていると思っているんだ!私こそがこの新選組に相応しい、私がこの新選組の舵を取るべく人間なんだよ!」


この人、おかしい。

私は医者で新選組をどうこうしようなどとは思っていないのに。


武田は椿を素早く組み敷いた。

どんなに足掻いても抜けられない。やはりその辺の男とは違う、組長にまでなる男なのだから所詮女の椿にはどうにも出来なかった。


「い、やっ・・・」


声を上げようとすると、掌で口元を覆われる。

足をバタつかせ抵抗するが殆ど意味をなさない。

武田の気持ちの悪い薄ら笑いがどんどん近づいてくる!


「んー、んーっ」


嫌だ、嫌だ、こんな気持ちの悪い男に抱かれたくない!


「君は諦めが悪いね、君が悪いんだよ?大人しくしていればよかったのに。悪く思わないでくれ」


武田は椿の喉元を腕でぐいぐいと押す。

声も出なければ、息も出来ない、苦しい。

「はうっーーー」椿は意識を失った。


にやりと笑った武田は椿を部屋の奥へ引きずり込むと、腰の帯を緩めて椿の胸元を掻き広げる。

着物をある程度(くつろ)げると、手探りで腰紐を解く。

結局は男色家だ、女の身体を愛でるという考えはない。

着衣のまま手籠めてやるつもりなのだろう。


「ふははは、目覚めた時の君はの顔が楽しみだよ」


武田は椿の着物の裾を左右に広げ上にたくし上げようとした。

その時、


シュンッ! ドッ 「くっ・・・」


ばたりと音を立てて武田が畳に倒れ込む。

薄暗い部屋に佇む影が椿から武田を乱暴に引き剥がした。

気を失ったままの椿を抱き起こし「椿さん、間に合った」と掻き抱く。

山崎だ!


山崎は島田とは別に武田の動きに目を光らせていた。

武田は気を失っている。

山崎が武田の首元に鈍器を投げつけたからだ。


「おい!大丈夫か!」


外から土方の声が聞こえてきた。

土方も妙な胸騒ぎを抱えていたのか、稽古で怪我をした人物を探していたのだ。何故ならば、椿を呼びに来たのは五番組隊士。

五番組はその日、稽古の届け出を出していなかったのだ。


山崎は素早く椿の乱れた着物を整えた。

直後、土方と島田が入ってきた。

土方は椿の姿を確認し、倒れた武田に目をやった。


「島田、こいつが逃げねえようにぶち込んでおけ!」

「御意!」


島田は軽々と担いで出ていった。


「山崎、椿は」

「はい、気を失っていますが暫くしたら目が覚めるかと」

「そうか」


土方は安堵したのか、「椿を頼む」と言い残し出ていった。

武田の取調べを始めるのだろう。


山崎は椿を抱き上げると、静かにその部屋をあとにした。

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