第七十三話 囚われの姫が願うものと言えば
(場所:魔王に囚われた、魔王城の客間、おどろおどろしい雰囲気の中、膝を抱えて座っている。その脳裏に、これまでの人生が走馬灯のように蘇る)
クリス視点
物心ついた時から、私の周りは嘘と欺瞞に満ちていた。
私にとって、王や貴族ほど、卑しい者たちはいなかった。
表向きは、きらびやかで何不自由ない生活。
美しいドレス、豪華な食事、傅く侍女たち。
だが、その裏側では、常に誰かを蹴落とし、自分の優位さを維持するためなら、どんな汚い手段も厭わない、醜い権力争いが渦巻いていた。
学園の中でさえ、それは同じだった。
兄たちは、常に自分の利益になる相手にだけ尻尾を振り、隙あらばその立場を奪い取ろうと画策していた。
私ですら、自分の身を守るために、誰に取り入るべきか、誰を切り捨てるべきかを、常に考え続けなければならなかった。
優秀で、唯一私に優しかった弟が、学園内の「事故」で亡くなった時もそうだ。
誰もが悲しむふりをしながら、心の中では「これで後継者争いのライバルが一人減った」と喜んでいた。
…本当は、兄たちが、邪魔になった弟を暗殺したのだと、私は知っていた。
そして、常に私も狙われていた。
気を抜けば『事故』で殺される。
そんな息の詰まる毎日の中で、私の唯一の希望は、叔母…王宮を飛び出してギルドマスターとなった彼女が、こっそり聞かせてくれる**「冒険者」**たちの物語だった。
身分も、家柄も関係ない。
ただ、己の腕と仲間との絆だけを頼りに、自由に世界を旅する者たち。
私たちの間では、冒険者は、日銭を稼ぐだけの卑しい存在だと蔑まれていた。
だが、だからこそ、私は彼らに、どうしようもなく憧れを抱いたのだ。
あの日、私は、全てを捨てて王宮を抜け出した。
叔母のいるギルドへ行き、初めての任務を受けた。
そこで、私は、彼ら…シューティングスターに出会った。
一人は、下品で、クズで、どうしようもない男。
そして、もう一人は、どこか頼りなく、それでいて、不思議と目が離せない、不思議な男(博史)。
彼らと共に、泥だらけになりながら柱を修理し、酒場で飲み、酔っぱらい、そして…サイクロプスを倒す大冒険をした。
無茶苦茶で、デタラメで、およそ王女の体験するべきことではなかった。
だが、私は、生まれて初めて、心の底から「楽しい」と思った。
その時、私は確信した。
彼らこそが、物語に語り継がれる、本物の「伝説の勇者」なのだと。
彼らの力があれば、あるいは…。
この腐った王国を、本当に変えられるかもしれない。
そんな淡い希望を抱き始めた、矢先だった。
魔王が、たった一人で、王国に攻め込んできた。
あれほど強大に見えた王国の騎士団も、兄たちの権謀術数も、絶対的な力の前に、何の意味もなさなかった。
そして、私は、囚われの身となった。
(…結局、何も変わらなかった)
(私の小さな冒険も、淡い希望も、全ては、籠の中の鳥が見た、一瞬の夢だったのかもしれない)
クリスは静かに目を閉じた。
だが、その脳裏に浮かぶのは、絶望ではない。
泥だらけになりながら、それでも楽しそうに笑っていた、あの男たちの顔だった。
(…博史…キリヤ…)
彼女の唇から、かすかな声が漏れた。
(…また、飲みたい…)
それは、囚われの姫の、か細く、しかし消えることのない、祈りだった。
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