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第六十話 サクラ



(場所:アメリコ解放後。サクラは一人、星の見えない牢獄の天井を見上げている)


サクラ視点

わっちは、生まれた時から「特別」やった。

獣人の中でも稀有な『占星術』の才を持って生まれた。

未来の断片を、星々の囁きから読み解く力。


一族の長老は「この子は、我らを導く星の子じゃ」と喜んだ。


だが、その力は、わっちに多くの絶望をもたらした。


「わっちはただ知りたいだけなんじゃ」

わっちは、牢獄の壁に刻まれた、今はもう誰も読めぬはずの古代文字を

指でそっとなぞった。

「何故、わっちら『古代人』は、人から迫害されなければならんかったのか。

この国のように、失われてしまったわっちらの文化とは、一体何やったのか…」

わっちは、看守の目を盗み、何年もかけてこの遺跡を調査した。


壁画を読み解き、隠された通路を見つけ出し

失われた歴史の断片を一つ、また一つと拾い集めてきた。


人間に支配されている時はまだここに獣族は居たんや

わっちもここで生まれたし

でも、ヴァンパイアが権力者になると同時に

人間もここに入れられるようになったんや

ヴァンパイアは人を供物として欲したが

人間は先に獣族から差し出した


わっちも差し出されそうになったが

ヴァンパイアはあっちの占星術と過去の調査を面白がって見ていた。


ヴァンパイアのせい…

いや、人間が支配されたせいであっちは同胞を失ったが

わっちの待遇はかなり良くなった。


そして、わっちの研究も、もうすぐ終わりを迎えようとしていた。

脱獄の機会を伺っていた


この国はよそ者の獣人を変な目で見てくるやつが多い。

じゃが、わっちは一人で戦ってきた。ずっと、一人で…。


一族のいないこの牢獄で、わっちが生きるためには、心を殺すしかなかった。

感情は、思考の邪魔になる。

希望は、絶望の前ではただの毒や。

そうやって、何十年も生きてきた。

もう、わっちの心は、とっくに死んだものやと思っとった。


そんなある日、星が、今まで見たこともない輝きを放った。

それは、混沌の星。破壊の星。

じゃが、その奥に、優しさと再生の光を秘めた、奇妙な星やった。

――『導き手』が来る。


初めて、わっちの占いに「希望」という言葉が浮かんだ。

この終わりのない牢獄から、わっちを解放してくれる存在。

そして、虐げられた我ら獣人が安住できるという、伝説の極東の国へ導いてくれる存在。

それが、博史はんたちやった。

初めて会った時、確信した。ボロボロで、弱そうで、それでも、あの牢名主の理不尽に、己の身を顧みず拳を叩きつけた、あの瞳。

彼の魂の奥底に眠る、混沌の光。

この人なら、ヴラドを倒せる。この人なら、わっちを救ってくれる。

わっちは、何十年ぶりに、心の底から歓喜した。

計画は、完璧なはずやった。

博史はんが王の懐に潜り込み、わっちが用意した太陽の粉末で、不死の王に終止符を打つ。

誰も、死なせるつもりはなかった。



今思えば、あの晩餐会は異常だった。

いつも夕食時から遅くとも日付が変わる時に行われていたが

今回は日をまたいでから始まっていた

わっち自身の「解放されたい」という強い願いが、その不都合な未来から目を逸らさせてしまったんや。

結果は、このザマや。


わっちが関わってしまった事でブランはんが命を落としてしまった…

サクラは、眠るブランはんの亡骸に、そっと視線を落とす。


「…サクラ」

声がして振り向くと、そこにマリーが立っていた。


「…わっちせいで、ブランはんを失ってしまった。」


「貴方が気にすることじゃないわー」

マリーは、サクラの隣に静かに座る。



ブラン様は、命を落とした。

博史はんは、心を壊した。

わっちが掴んだはずの「希望」は、仲間の尊い犠牲という、あまりにも大きな代償の上に成り立ってしまった。

(結局、わっちは、何も変わっとらんやないか…)

また、わっちは、仲間を見殺しにした。

自分の願いのために、誰かの命を天秤にかけた。

わっちこそが、ヴラドと同じ、他人の犠牲の上に己の幸福を築こうとする、卑しい獣や。

サクラは、フードの奥で、固く唇を噛みしめる。

涙は、もう何十年も前に枯れ果てたはずだった。なのに、どうしてか、視界が滲んで前が見えない。





「それに、まだ終わったわけじゃないでしょう? あなたが言ったのよ。『東の国に、蘇生の秘術があるかもしれない』って」


「でも、それも、わっちが占星術を通して死者と関われる時があるっていう曖昧なもので」


「マリリンに知らないことがあるっていう事は」


まだ、終わっていない。

終わらせてはいけない。

わっちが犯した罪は、決して消えることはない。

じゃが、それを償う道は、まだ残されている。

「…博史はんは、目覚めるやろか」

「ええ、必ず。あの子は、私たちが思っているよりも、ずっと強い子よ。彼が目覚めた時が、本当の始まり」

サクラは、ゆっくりと立ち上がった。

そして、窓の外で輝き始めた夜明けの星を、まっすぐに見据えた。

この旅は、もはやわっちにとって、ただの「解放」のための旅やない。

これは、わっちが犯した罪を償うための、「贖罪」の旅や。

ブラン様の魂を取り戻し、博史はんを、そして仲間たちを、無事に約束の地へ導く。

そのためなら、この身がどうなろうとも構わない。

わっちの占星術の力、その全てをかけて。

それが、星の子として生まれながら、仲間一人救えなかった、このわっちにできる、唯一の償いなのだから。








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