第五十六話 自由の国アメリコ
イリアスはすっかり大きくなり、今ではブランの頭の上に乗るのがお気に入りだ。
ブランはようやく自分の番が周ってきたとばかりに
満更でもない顔でそれを受け入れている。
周囲もイリアスが小さい時はポンコツブランが何かしでかさないかひやひやしていたが
ここまで大きくなると、自分で飛べるため、手が滑って落とすことも無く、安心して見守っている
次の目的地は、マリーが「面白いものが見れるわよ」と提案した
大陸の西端に位置する「自由の国アメリコ」
俺は、焚き火の炎を見つめながら、最近の出来事を思い出していた。
闘技場の猛者たち、聖剣レイヴァン、そして、一人で戦い続けてきた水月…。
皆、強い。自分の意志で、自分の足で立っている。
それに比べて、俺はどうだ? いつも仲間に守られ、いざという時は酒の力に頼るだけ。
…これで本当にいいんだろうか。
いつまでも、このままじゃいけない。そんな焦りだけが、胸の中で燻っていた。
「自由の国、ねぇ。どんなところなんだ?」
「さあ? マリリンも噂でしか知らないけど、
そこは王も貴族もいない。誰もが自らの力で富を掴める、夢の国なんですって」
その言葉に、キリヤやボリスの目が輝く
「マジかよ! 王様がいないってことは、
俺様が王様になるチャンスもあるってことか!」
「キリヤ、あんたみたいなのが王様になったら、
三日で国が滅ぶわよ」
ルサーリカの冷静なツッコミが飛ぶ
旅路は、これまでの緑豊かな風景とは一変した
湿った空気は乾いた熱風に変わり、地平線まで続く赤茶けた大地が広がっている
巨大な岩山が点在し、その姿はまるで古代の巨人の墓標のようだ
「なんだか、空気が乾いてて喉が渇くな」
「水も貴重になってきたわね。無駄遣いは禁止よ」
ルサーリカの言葉に、俺たちは頷く
水の都マリチアが、今は遠い昔のことのように感じられた
数日後、俺たちの目の前に、巨大な木製の砦のような関所が見えてきた
星が描かれた旗が、乾いた風にはためいている
「ここがアメリコの国境か。ずいぶん物々しいな」
関所の前には、胸に星のバッジをつけた、カウボーイハットの男たちがライフルを手に立っていた
その目は、旅人を歓迎するものではなく、獲物を見定めるような鋭い光を宿している
俺たちが近づくと、リーダー格と思わしき口髭の男が、一歩前に出た
「止まれ。お前たち、その荷車に積んでいるものは何だ?」
男の視線は、俺たちが大事に運んでいる酒樽に向けられている
「ああ、これは俺たちの酒だ。旅の仲間みてぇなもんでな」
キリヤが陽気に答える
その瞬間、男の表情が険しくなった
「酒、だと…?」
男は唾を吐き捨てると、せせら笑うように言った
「知らねぇのか、旅人さん。この偉大なるアメリコでは、
神聖なる法の下、酒精の売買および所持は固く禁じられている」
「はぁ!? 禁酒法!?」
パーティ全員から驚きの声が上がる
酒飲みの集まりである俺たちにとって、それは死刑宣告にも等しい
「そうだ。お前たちは、この国の法を破った密輸業者だ
神の名の下に、お前たちを逮捕する!」
「待てよ! 俺たちはそんな法律、知らなかったんだ! 見逃してくれ!」
俺が慌てて弁解するが、男は聞く耳を持たない
「無知は罪だ。それに、その樽の中身はすべて没収させてもらう」
男はニヤリと笑い、部下たちに合図を送る
保安官たちが、俺たちの酒樽に手をかけようとした
「てめぇら! 俺たちの酒に触んじゃねぇ!」
キリヤが剣に手をかけた
フローレンも槍を構え、一触即発の空気が流れる
「おっと、抵抗するのか? それは公務執行妨害という、さらに重い罪になるぜ」
口髭の男は、ライフルの銃口を俺たちに向けた
その瞳は、完全に俺たちを犯罪者として見下している
(…なんだ、この国は。自由の国じゃなかったのか?)
力ずくで突破することもできるかもしれない
だが、見ず知らずの国で、いきなり国の役人と争うのは得策ではない
下手したら国際犯罪者にまでなってしまうかもしれない。
そもそも、何でも力で解決するなんて俺が一番嫌いな事だったじゃないか…
「…分かった。大人しく従おう」
俺がそう言うと、キリヤとフローレンは不満そうな顔をした
「博史、なぜだ!
私達は知らなかっただけだ、何も間違っていない!
これは不当な逮捕だ
まだ、国の中には入っていない!
今すぐこの国から出て行けばいいだけの話だろう」
フローレンがそう言う
「おっと、逃げるのか?
逃亡も企むのか」
役人も手に武器を握る
それに対してシューティングスターの面々も武器を握りしめた。
「ま、まて、これは何かの間違いだ、話せばわかるはずだ」
「賢明な判断だ」
男は満足げに頷くと、部下たちに命じた
「こいつらを牢屋にぶち込んどけ
ああ、それと、その小さな龍もだ。珍しい、高く売れるかもしれん」
「なっ…!?」
その言葉に、俺の、そして水月の表情が変わった
「………」
水月から放たれたのは、闘技場で見せた以上の、純粋な殺気だった
「ひっ…ひ…」
圧倒的な殺気に保安官が怯む
その時だった。
「はいはい、そこまでよ」
マリーが俺たちと保安官たちの間に、にこやかに割って入った
「保安官さん、私たちは法に従います。
だから、どうかこの子だけは見逃していただけないかしら?
この子は、このお嬢さん(水月)の『心の支え』なんですの
これを取り上げたら、彼女、何をしでかすか…」
マリーはウインクしながら、大げさに肩をすくめてみせた
口髭の男は、水月の殺気とマリーのただならぬ雰囲気を見比べ、
「…ちっ、分かった。龍もこいつらと連れて行け
お前らは牢屋行きだ。せいぜい、臭い飯を食いながら後悔するんだな」
こうして俺たちは、理不-尽な法律によって、パーティを分断され、薄暗い牢獄へと連行されることになった
自由の国アメリコ。
その最初の洗礼は、あまりにも苦く、そして不穏なものだった。
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