第五十五話 サウナは全世界共通言語
そんな日常に、新たな文化が生まれたのは、ほんの数日前のことだ
あの後、俺が一人で葛藤しながらも作ったカレーは、パーティ内で大絶賛された。
あれから何度か作ったが、特に、フローレンや水月が、夢中になって鍋にがっつく姿は見ていて飽きなかった。
「こんな美味いものが、魔物避けのスパイスから作れるなんて…!」
「…おかわり」
たまたま、酒の仕入れに来ていた商人のザンブラクが「これは売れる!」と目をつけた。
彼は、俺から大雑把なレシピを教わると、カレーを新たな商品として大陸中に広めていくと息巻いていた。前世の知識が、思わぬ形で文化交流に繋がった瞬間だった。
一方で、俺が提案した「持ち運び風呂」は、あまり良い反応を得られなかった。
というのも、ロマネンドには習慣的に風呂に入る機会がなく、風呂は温泉で湯治やリラックスの為に入る特別なものであって、日常的には水をかぶるもの
そういえば、王様が連れていってくれた旅行も温泉だった(らしい記憶がないからもったいない)
温泉を医療的に使うなんてと思っていたら
東方の異世界人が伝えたらしい
臭くて飲めない井戸に出てきてしまった湯を有効活用した偉人なのだと
おそらく、俺みたいな異世界人だろう
俺みたいに覗きがしたくて風呂を売るやつとはまるで違う
だが、前世の俺らの時代は温泉でリラックスするのは時代遅れだ
時代はサウナだ!
もちろん、一酸化炭素中毒は避けたいので、火を炊くのではなく、密室のテントに焚き火で熱した大量の焼き石を持ち込む、簡易的なテントサウナだ。
息をするだけで喉が焼けそうな熱気。
全身から玉のような汗が噴き出す。
暑く、辛いのを根性で耐える
辛い事が嫌いな俺も耐える事が出来る
なぜなら辛いのを耐えれば耐えるほど後に得れる快楽が違うからだ
だが、倒れては元も子もない
意識を保つ余裕だけもってひたすら耐える
暑い、息苦しい、そんなの関係ねぇ
初めて入る人は耐えられるはずがない
「うおお…もうダメだ…」
案の定、最初に音を上げたのはキリヤだった。
「へっ、口ほどにもないわね」と、涼しい顔で瞑想を続ける水月から、冷たい一言が飛ぶ。
「キリヤ、根性がないな。これでは、私の槍の錆にすらなれんぞ」と、汗一つかいていないフローレンが追い打ちをかける。
「うるせぇ! てめぇらが人間じゃねぇだけだ!」
キリヤの悲鳴が、灼熱のテントに虚しく響いた。
そして約10分
サウナ室から飛び出し、キンキンに冷えた水の中に飛び込む
前世なら掛け水をするのがマナーだが
こっちの川ではそんなの関係ねぇ
「ち、冷てぇえええ!!」
火照った体が、一瞬にして引き締まる。
心臓が早鐘を打ち、全身の末端がジンジンと痺れる、
この背徳的な快感。
そして仕上げは外気浴
これが最高なのだ
川岸の岩に腰を下ろし、目を閉じる。
水でキンキンに冷えたのはいえ、身体の中心はまだ熱を持っている
冷えた体の芯から、じんわりと熱が蘇り
体の中心から冷えて緊張した身体全体をじんわり暖め緩ませる
このホワホワがなんとも言えない快感なのだ
世界と自分が一体になるような、ふわふわとした浮遊感。
「…ととのったぁ…」
シューティングスターの皆にもサウナの入り方を指南した
水月以外、はじめは、暑い、苦しい、辛い、冷たい、痛い思いをなぜするのかと理解されなかったが
三度目でほとんど皆が嵌まった
、今ではすっかりパーティの新しい娯楽として定着した。
「外気浴の椅子は角度が大事だ」「ロウリュ(焼き石に水をかけること)のタイミングは…」などと、前世さながらのサウナ談義に花が咲く。
ただ、ブランだけは嵌まらなかった
一度サウナ室に入って
もう入らなくなった
「あ、熱いのは嫌いよ! 別に、子供だからとかじゃないんだからね!」
一度入ってすぐに飛び出してきて以来、彼女がサウナテントに入ることはなかった。
おこちゃまである。
それにサウナなら男女別ではない
川に入るから基本的に水着で入る
ようやく、女性陣と交流出来る貴重な機会だ
マリーの年齢不詳のくびれの肌、妖艶なシルエット や
フローレンの鍛え上げられた 筋肉と尻尾とお尻の肉の違いや
ルサーリカのちょっと弛んだ母性を感じさせる柔らかなお腹のライン や
ミーナの意外な抜群のプロモーションや
リザリーの忍びらしい無駄のない体躯 というか主張の無い胸
水月のは何故か蜃気楼のように揺らめいて、はっきりと見ることができない。
皆の生地が薄く、水風呂で乳首が透けるとか
お尻の割れ目に水着がピタッとくっついて
お尻の形がハッキリ見えるとか
断じてそんな邪な考えで見ているわけではない。
俺は純粋に、サウナという文化を皆で楽しんでいるだけなのだ。
そんな至福の時間が、悲劇と共に終わりを告げた。
「博史ー大丈夫ー?」
マリーの声で目が覚める
「あ、あれ?
俺、倒れたのか?」
「そうよー。よかった、気がついて!」
ブランが、涙目で俺の顔を覗き込んでいる。
「座ったまま、いきなりカクンって横に倒れていったんだもの。心臓が止まるかと思ったわ…!」
「すまん…」と、バツが悪そうに言うのはキリヤだ。「俺が『我慢比べだ!』なんて煽るから…。無理させちまった」
そんなことしていたのだろうか…?
そう言えば邪なこと考える前に言っていた気が…
サウナの危険性を、俺たちは身をもって知った。楽しい娯楽も、一歩間違えれば命取りになる。
「サウナは、最高だったけど…」
ルサーリカが、静かに、しかし断固たる口調で言った。
「あなたの命には代えられません。…残念ですが、サウナは今日で禁止にします」
結局、またしても、俺の変態思想が楽しみを奪ってしまった。
だが、不思議と悪い気はしなかった。俺が倒れた時、ブランは本気で泣いてくれたし、キリヤは本気で後悔してくれた。俺の命が、誰かの楽しみよりも優先される。そんな当たり前のことが、前世では決してなかった俺にとっては、少しだけ、くすぐったいような、温かい気持ちにさせてくれたのだ。
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