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第五十一話 可愛いペットは絶対に強い


ズキリ、と脳天を鈍器で殴られたような痛みが走る。

昨夜の酒が、まだ頭蓋の内側で暴れているようだ。

俺はうめき声を上げながら、重い瞼をこじ開けた。


目に飛び込んできた高い天井は豪華な彫刻が施され、

窓から差し込む朝日が、部屋の隅で輝く金色の装飾をキラキラと反射させている。

床に敷かれた深紅の絨毯は、俺が今まで寝ていたどんなベッドよりも柔らかそうだ。

(…どこだ、ここ? 昨日はメィェンタオの結婚式で飲んで…それから…)


記憶はそこで途切れている

俺はため息をつきながら、ゆっくりと体を起こした

天蓋付きの巨大なベッド

昨夜、聖剣のイケメン野郎が泊めてくれた部屋だ

…ということは、俺は昨夜の失態で捕まることなく、無事に帰ってこられたらしい。

ホッと胸をなでおろした、その時だった。


ベッドの足元、俺の布団の上で、何かがもぞもぞと動いている

大きさは子犬くらいだろうか。

丸まった背中が、寝息に合わせて小さく上下している

(…なんだ? キリヤの奴、またどっかから動物でも拾ってきたのか?)

そう思い、俺はその小さな塊に手を伸ばした。

指先に触れたのは、犬や猫の柔らかな毛並みではない。

硬質で、それでいてどこか滑らかな、ひんやりとした感触。

鱗…?


その瞬間、小さな塊が身じろぎし、ゆっくりと顔を上げた。

二本の小さな角。爬虫類のような、しかし宝石のように輝く紅蓮の瞳。

そして、俺の指先をぺろりと舐めた、ザラついた舌。

「……りゅ、龍…?」

俺の口から、かすれた声が漏れた。

バニッシュで討伐した、あの巨大な魔龍。

その姿をそのままミニチュアにしたような生き物が、くりくりとした瞳で俺を見つめている。

パニックで固まる俺の顔に、子龍は嬉しそうにすり寄ってきた。

ゴロゴロと、猫が喉を鳴らすような音が、その小さな体から響いてくる。

「な、な、な、なんだこりゃあああああ!」


俺の絶叫が、豪華な一室に木霊した。


バタン!と勢いよく扉が開き、キリヤが飛び込んできた。

「うるっせぇな博史! 朝から何叫んでんだ…って、

おお、起きたか! そいつ、お前に懐いてるみてぇだな!」


キリヤは子龍を見ても全く驚いた様子がない。

それどころか、ニヤニヤと楽しそうだ。

「キリヤ! なんだこいつは!? 俺、魔龍は倒したはずだよな!?

なんで子供がここにいるんだ!?」

俺が半狂乱で問い詰めると、キリヤは「はぁ?」と心底不思議そうな顔をした。

「覚えてねぇのか?

昨日の祝勝会で、お前が言い出したんじゃねぇか」

「俺が!?」

「おうよ」

キリヤはベッドの脇に腰を下ろし、芝居がかった口調で語り始めた。



―――――――――――――――――――――――

【昨夜の回想】


昨日の結婚式の5次会

「大変だ!聖剣レイヴァン様

魔龍討伐に行っていた隊から報告があり」

討伐された魔龍の亡骸から、この卵が見つかりました」


闘技場の連中は『危険だから処分する』って言ってたんだ。

そしたらお前、おもむろに立ち上がり

「『この命の灯火、俺が消させはしない! この子は俺が育てる!

文句がある奴は、この俺が相手だ!』って、卵を抱きしめて啖呵を切ったんだぜ!」


「うそだろ…」

「嘘じゃねぇって! あのフローレンですら

『龍は危険だ! 人間に懐く生き物ではない!』って猛烈に止めてたんだぜ?

なのに、お前ときたら…」

キリヤは今度はフローレンの真似をしながら、俺に詰め寄る。

「『危険かどうかは、この子が、俺が決めることだ! お前たちの常識で、この子の未来を奪うな!』ってな! あのフローレンを真正面から論破しちまうんだから、お前の酔った時の度胸は底が知れねぇよ!」



―――――――――――――――――――――――――

【回想終わり】



頭が痛い。

二日酔いのせいだけじゃない。

俺は、自分の記憶にない行動のせいで、とんでもない厄介事を抱え込んでしまったらしい。

子龍はそんな俺の心境など知る由もなく、俺の膝の上で再び丸くなり

可愛らしい寝息を立て始めた。

その無防備な姿を見ていると、不思議と敵意や危険は感じられない。


「…まあ、可愛いから…良いか…」

俺がぽつりと呟くと、隣からブランの呆れた声が飛んできた。

「何言ってるんだ博史! こ、こんな幼龍にまで手を出そうとする気か!?」

「ブラン、お前は俺を何だと思ってるんだ」

「へ…変態」

「……うん、間違ってはいない」

俺は、自分の頬を伝う一筋の汗を感じながら、この小さな命と、これから始まるであろう更なる波乱に、深いため息をつくしかなかった。


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