第四十六話 クズは聖剣を超えてしまう
第三試合
北方の道場をいくつも破り、「黒狼」の異名を持つ剣士
対するは、その筋では知らぬ者はいない、「残虐絶倫」の二つ名を持つ巨漢、ゼファー。
正反対の二人の対決に、一部の武具マニアや賭博師たちは固唾を飲んだ。
「ち、武伝流のオヤジ
あんなやろーに負けちまったぜ
俺が武伝流の看板を潰してやろうと思ってたのによ」
「武伝流か、
あの歴史ある流派の総師範が負けるとはな
それにあのひょろチビは
先日女に守られていたチビじゃなぇか」
「あんたの事は知っているぜ
残虐絶倫のゼファー、北方で『流浪の剣士』を倒したそうじゃねぇか」
「あんな、名前だけの小物倒したうちに入らねぇよ
てめぇも名前だけの雑魚じゃねぇよなぁ!」
ゴングが鳴る。
しかし、二人は動かない。
二人の戦いは拮抗した
名のある剣士同士の戦い
先に動いたのはゼファーだった
巨体に見合わぬ俊敏さで距離を詰め、大上段から斧のような大剣を振り下ろす
闘技場の石畳が砕け散るほどの豪剣
だが、黒狼はそれを紙一重でいなす。彼はゼファーの剛力を利用し、柳のように受け流すと、懐に潜り込み、狼の牙のような鋭い突きを繰り出した
カンッ!
ゼファーの鎧が、黒狼の剣先を辛うじて弾く
そこから先は、まさに死闘だった
ゼファーの、全てを砕く「剛」の剣
黒狼の、全てを切り裂く「柔」の剣
お互い、一撃でも食らえば致命傷。
腕が斬られ、足が裂かれ、鎧は砕け、
お互い致命傷を避けながら舞い続ける血しぶきに
観客は盛り上が…らなかった
当の本人たちは至って本気
まさに命を賭けた死闘を行っている
しかし、外から見ている観客は
1試合目のW・ムーンの圧倒的な力と強者感
2試合目の博史の何が起こったか分からない程の速さ
彼らが先の試合で見てしまったのは、もはや神話の領域の戦い。それに比べれば、この二人の死闘は、あまりにも地味で、派手さに欠けていた。
観客席は、静まり返っていた。
決着は、ふとした瞬間に訪れた。
消耗し、一瞬だけ足がもつれた黒狼の隙を、ゼファーは見逃さなかった。
ゼファーの剣が、黒狼の剣を弾き飛ばす。宙を舞う剣。
そして、がら空きになった黒狼の首元に、ゼファーの剣先がピタリと突きつけられた。
「はぁ…はぁ…
黒狼の剣士、名に違わぬ強さだった
殺すには惜しい、また戦おうではないか」
ゼファーが剣をしまい、倒れ込んだ黒狼の剣士に手を差し伸べる
「ぜぇ…ぜぇ…
まさかお前に情けをかけられるとはな…
いいだろう、次俺がお前を殺しても恨みっこ無しだぜ」
黒狼の剣士がゼファーの手を掴み
立ち上がり、二人は熱い抱擁した
死闘を行った後の二人の友情に観客が湧か…なかった
冷め気味の観客にゴリゴリの男同士の抱擁は余計に熱を冷ましてしまった
第四試合
聖剣レイヴァンとキリヤの対決
先ほどまでの雰囲気とは違い
聖剣の戦いに会場の熱気は最高潮に達した。
「悪いね、君たちはマリーの友人だし
好きだから負けてあげても良いんだけど
W・ムーン選手にああ言ってしまった手前
負けるわけにはいかないんだ」
聖剣レイヴァンは真剣な眼差しで柄に手をかける
「あー、もういいって、そういうの」
アレスターの言葉を、キリヤが鼻をほじりながら遮る。
「お前みたいな優等生のセリフは聞き飽きたんだよ。
とっとと始めようぜ、聖剣様?」
その不遜な態度に、アレスターの眉がピクリと動いた。
ゴングが鳴る。
「悪く思わないでくれ」
アレスターが静かに聖剣の鞘を抜くと、空気が震えた。
「うおっ…!」
キリヤの剣がアレスターの大剣に触れる前に
キリヤの体は見えない衝撃波によって吹き飛ばされた。
これが、掃除のおばちゃんが言っていた聖剣の力
てか、あっさり抜いたけど
20年抜いてないんじゃなかったのか…?
観客席から「ほら見ろ、やっぱり聖剣には勝てない」
「茶番だ」という声が漏れる。
「この聖剣は、勇者が振るうべきもの。
普通の者では、触れることすら叶わない」
アレスターが静かに告げる。
「いってぇ―な…」
吹き飛びめり込んだ壁からキリヤが出てくる
「これを受けて簡単に立っていられるとは
やはり、早々に抜くのは正解だったようだ」
キリヤは動いた。
「俺様はお前みたいな
中身までイケメン面しているやつが
気に食わねぇんだ」
彼が向かった先は、アレスターではない。
観客席最前列にいた、メイェンタオの元だった。
「メイェンタオちゃん! 見ててくれよな、俺様の雄姿を!」
キリヤはメイェンタオの頬に、いきなりキスをしようとした
メィェンタオは両手でキリヤのキスを防ぐ
「キリヤ…試合中に何するネ!?
試合に集中するネ!」
「貴様ッ! 何をするか!」
アレスターの怒声が闘技場に響く
「へっ、なんだよ。試合前のファンサービスだろ?」
キリヤは舌なめずりをしながら、向かってくるアレスターの耳元で囁いた。
「なあ、聖剣様。あんた、あの子のこと好きなんだろ?
あの綺麗な瞳…分かるぜぇ。
なんせ俺様のお手付きだからなぁ(今唇が手に少し触れた)
夜は凄まじいんだぜ(酒が)
でもよぉ、あんたみたいな石みたいにカタい男じゃ、
あの子は退屈しちまうぜ」
「なっ…!?」
観客が絶句する。
「黙れ、下衆が…!」
アレスターの額に、くっきりと青筋が浮かぶ。
彼の冷静さは、完全に失われていた。
「ライトニングスラッシュ!」
アレスターが聖剣を抜くよりも早く、キリヤが突っ込む。
「なっ…!?」
彼は咄嗟に聖剣を盾にするが、その動きはコンマ数秒遅れた。
その隙間に彼の股間を蹴り上げる。
ゴッ、という鈍い音。
アレスターの鎧が、辛うじてキリヤの蹴りを受け止める。
だが、その衝撃はアレスターの「聖剣」にも伝わってしまった。
アレスターの顔が苦悶に歪み、膝がガクンと折れる。
「どうしたよ聖剣様! 金の玉も聖なる輝きを放ってんのかぁ?」
キリヤは、膝をついたアレスターの背後に回り込むと
勝ち誇ったように叫んだ。
「あんたが大事にしてるその剣も、あのかわいい武闘家の娘も
ぜーんぶ、この俺様がいただくぜ!」
「き、貴様ぁああああ!!」
アレスターは、屈辱と怒りに任せて、聖剣に力を込める
聖剣から放たれた衝撃波が、闘技場全体をめちゃくちゃに破壊する。
だが、キリヤはすでにそこにはいなかった
キリヤの剣先が、アレスターの無防備な首筋に
ピタリと突きつけられていた。
「…」
アレスターは、もはや言葉も出ない
力でも、技でもない。人間の持つ、最も醜く
最も効果的な「侮辱」という手段によって、彼は敗北したのだ。
「…僕の、負けです…」
絞り出すような声。
「へっ、やっと分かったかよ」
キリヤは剣を納めると
その言葉を聞いた瞬間、
「……」観客席の誰もが、言葉を失っていた。
そんな中、マリーだけが楽しそうに手を叩いていた。
「素晴らしいわ、キリヤ!
相手の心を完璧に壊す…
最高のエンターテインメントよ!」
そして、俺らは予選の祝勝会で飲み
再び記憶を無くしたのだった
そして、ベッドの上に裸の女性がいる場面に繋がる




