第四十五話 酔えば最強酔わねば最弱
【回想の続き~(昨日の昼)】
第一試合のゴングが鳴る。
武闘家メイェンタオと、不気味な仮面をつけた謎の剣士W・ムーンの対決
「ふん、仮面で顔を隠すなんて、よっぽど自信がないんだネ!」
メイェンタオは先手必勝とばかりに気を練り上げる
「あちきの仙気、受けてみるネ! フンッ!」
彼女から放たれた気の塊が、闘技場の石畳をえぐりながらW・ムーンに迫る。
観客席から悲鳴が上がるほどの威力。しかし――。
W・ムーンは微動だにしない。
「な、なんなんネ! あちきの仙気が、効かない…!?」
メイェンタオの顔に、初めて焦りの色が見える。
W・ムーンは、何も語らない。
ただ、ゆっくりとメイェンタオに歩み寄る。
その一歩一歩が、死刑執行人の歩みのように重く、不気味だ。
「くっ…! 近づかせないネ!」
メイェンタオは仙気を両手に集中させ、連続で気の弾を放つ。
それでも、W・ムーンは微動だにしない。
まるでそよ風の中を歩くように一歩一歩近づいてくる
W・ムーンが、その指をメイェンタオの喉元に伸ばした
その瞬間。
キィィィィン!
甲高い金属音が闘技場に響き渡る。
二人の間に、いつの間にか聖剣アレスター・レイヴァンが割って入っていた。
彼が抜いた聖剣が、W・ムーンの指先を弾いていたのだ。
「すまないね。惚れた女性が殺されるのを、見過ごすわけにはいかなくてね」
レイヴァンの爽やかな笑顔とは裏腹に、その瞳はW・ムーンを鋭く射抜いていた。
W・ムーンは、何も言わずに納めた。
審判が慌てて駆け寄り、レイヴァンの乱入によるW・ムーンの勝利を告げる。
だが、観客はW・ムーンの得体の知れない強さに静まり返っていた。
「なに?次はあんたが相手するの?」
W・ムーンが初めて口を開く
「君とは明日戦う事になるだろうから
その時まで待っていて頂けないだろうか」
レイヴァンは爽やかな言葉とは裏腹に真剣な眼差しを向ける
「そう」
とだけ言うとW・ムーンは踵を反した
「ま、まつネ まだ負けてないネ」
「この力の差を分からない君ではないだろう」
「そ、そんな…邪魔するでないネ」
第一試合の勝者はW・ムーン
第二試合は
博史と武伝流総師範
「若者よ
若者ばかりの大会に
某みたいなおっさんが参加するのを
悪く思わないでくれ
聖剣を手にするのは
男なら誰しも憧れるものだ」
ハチヘイは好々爺といった笑みを浮かべるが
その眼光は熟練の剣士のものだ。
「武伝流と言えばスグルドの先生?」
武伝流と言われてずっと気になっていた
あいつが流派内で
どのような立ち位置だったのか分からない
「スグルドか…
若く、野望と希望に満ち溢れた若者だったな
そちはスグルドの友人か?」」
アルブジルの事を伝える
「そうですか…
うちの門下生がご迷惑をおかけし深くお詫び申し上げます
闘技場が終わりましたら免許の剥奪を行わせます」
アレスターは深く頭を下げる
てか、スグルド見つかったら殺されんじゃないか…?
「それでは始めましょうか
スグルドを倒したのなら
武伝流がどのような流派なのか
ご存じでしょう」
スグルドの戦い方…?
スグルドはキリヤに手も足も出せず
裸に剝かれていたから戦い方も何も…
そう言えば使い古した白下着…
じゃなくて
可愛かった弟子はたしか…
俺がどうでもいいことを思い出している間
ハチヘイは鞘から刀を抜き、上段に構えた。
空気が一変する。
「武伝流は最速最強の一撃必殺
キィエエエエエイ」
ハチヘイの姿が、消えた。
俺の目には、一直線に伸びる斬撃の閃光だけが見えた。
だが、俺の体は、思考とは裏腹に勝手に動いていた。
ひらり。
まるで舞を舞うかのように、最小限の動きで斬撃をいなす。
俺の頬を、一筋の赤い線が走った。紙一重。
「なっ…!?」
ハチヘイが、俺の背後で驚愕の声を上げる。
「馬鹿な、我が『飛燕』を躱す者がいるとは…!」
ただ、酒のせいで世界がゆっくりに見える。
俺は酒のせいで
へらへらと笑いながらハチヘイに歩み寄った。
ハチヘイは、俺の得体の知れない雰囲気に完全に呑まれ、じりじりと後ずさる。
そして、
「武伝流は最速最強の一撃必殺
『飛燕』
キィエエエエエイ」
追い込まれ再びハチヘイが上段から切り下ろす
「そへ、ひはつめひゃんかよー」
博史の呂律の回らない言葉を誰も聞き取れなかった
いや、速すぎて誰も聞けなかった
ハチヘイのひざ元に博史は丸まって滑り込み
ハチヘイは刀を地面に打ちつけその場に転がり込む
博史はハチヘイの刀を奪い取り首元に押し付けた
「勝者博史ぃ!」
勝利が告げられた。
観客席は、何が起こったのか理解できず、静まり返っていた。




