第二十六話 攻略不可の迷宮は攻略不可
それから数日経ち
めぼしい任務は大体終えた
商売組は調子が良い様
まだ稼ぎが出そうなので
戦闘員組は迷宮に潜ることになった
フェフチェンコとリザリーが連絡係
迷宮の外で待機する
迷宮はセイから歩いて一日以内の所に密集している
とりあえず下見でめぼしいところを周っていく
巨木の根に絡みつかれるようにし
朽ち果てた石造りの門
山肌にぽっかりと空いた巨大な裂け目
海岸の崖の下
波が引いた瞬間にだけ姿を現す
巨大なアーチ状の洞窟
どの迷宮の入り口も
すでにいくつかのパーティが陣取っていた
どの迷宮がどの程度攻略されているのか分からない…
「おい、もうこの迷宮に潜ろうぜ」
キリヤが痺れを切らす
「情報もない迷宮潜っても
時間の無駄だろう」
「そうは言ってもだ博史
ここ数日歩いてばっかで
何もしてないじゃねぇか」
「オニイさん達ダンジョンに潜るカ?」
後ろから声を掛けられ振り返ると
視線の先に立っていたのは一人の少女。
深紅の道着に身を包み
漆黒の絹のようになめらかな髪は
高く結い上げられている
「子ども…?」
「子どもじゃないネ!
あちきはメィェンタオ!
修行中の武闘家ヨ!」
ギリギリアウトなロリっ子武闘家か
「武闘家かぁ?
俺様と戦いてぇってがば」
マリーの鉄槌がキリヤを貫く
予備動作の無い
マリーのどデカい一撃
メィェンタオが青ざめる
「可愛いお嬢さん
マリリン達に何か御用ですか?」
「こ、ここ、ここら辺のダンジョンは
全て攻略されつくしてるヨ!」
予想はしていた。
簡単なダンジョンは皆が入るだろうし
普通に考えて
報酬も復活なんてするハズがない
ここにいる連中はスカベンジャーだろう
「貴方はなんでそんなこと教えてくれるの?」
これだけ野営が多ければ
当然追いはぎのような輩も多い
マリーが警戒しながら問い質す
「お師匠さんに
未踏のダンジョンを攻略したら
ロウシの名を上げる言われたヨ
でも、一人じゃ無理ネ
だからここで強い人探していたヨ
楽して攻略したいヨ
おっと心の声がだだもれヨ
ほれいくヨ」
スタスタと歩いていった
一行は疑いながらも付いていく
メィェンタオが連れて行ったのは
朽ち果てた廃墟
崩れかけた玉座の下に
地下へと続く隠された石階段がある
さらに、このダンジョンの周りは
他のダンジョンの比にならないほど
パーティが野営していた
「さっきまでの迷宮と活気が違う」
これだけ野営が有れば
当然屋台を出して商売している奴もいる
くそ、ここで風呂を売るべきだったか…
「ほれ、とっとといくネ」
「ちょま、野営作らないのか?」
「いらないネ
ほら行くネ」
と何も準備なく
強引に俺らを迷宮の中に連れて行った
迷宮に入ると
ひんやりとした空気が肌を撫でた
初めてのリアルな迷宮に脈が早くなる
何も準備無しで入ってしまったが
本当に大丈夫なのだろうか
ゲームと違い死んだら終わり
緊張で呼吸が荒くなる
第一層
壁は黒ずんだ石でできており
無数の亀裂が走り隙間から
青白い燐光が滲み出している
床は苔と湿った砂利に覆われ
歩くたびに靴底がぐしゃりと沈んだ
ゲームで見たことがあるような迷宮…
いざ自分がその場にいると
この奇妙な感覚は本当に怖い…
不安に思っていると
スライムが三匹現れた
キリヤが面倒くさそうに前に出ようとすると
先にメィェンタオが一歩前に出る
「あちきがいくネ!
はぁぁ!」
急にメィェンタオの周りに
風のようなものが集まってくる
「なんだその技は?」
「センキというネ!
秘伝だから教えられないネ!
でも強いから見てるネ
フシュッ!」
空気が漏れたような音
構えをしただけで
周りのスライム達が木っ端微塵に吹き飛んだ
「魔法じゃないのに
触らないで敵がぶっ飛んだ
どんな技だ!?」
「そうだろネ!
そうだろネ!
分かんないだろネ!」
メィエンタオは嬉しそうに
フシュ!フシュ!と
次々現れる敵を吹き飛ばし続ける
「ふぅ」
周りの敵は一切居なくなった
「おお!意外な戦力だ!
これならダンジョン攻略行けるかもな」
「ダンジョン攻略?
ダンジョン観光ネ
ほら、疲れたから帰るネ
早くあちきに飯を食わせるネ」
そう言うとメィェンタオは踵を返した
「おい!
ちょっと待てよ
本当に帰るのか?
てか、飯ってなんだ?」
「ここは神話の時代から攻略されていない迷宮ネ
攻略はムリネ
良いもの見せたら飯で返す
これ常識ネ」
メィェンタオは帰ってしまった
最初の勢いはどうしたのか…?
師匠から未踏の迷宮を踏破して来いだのなんだの…
飯を追いはぎする輩なのか…?
ていうか、神話の時代から攻略されていない迷宮だって…?
冗談じゃない!
そんなとこに俺らがぽっと出で行ったって
死ぬに決まってるじゃないか
「そうだな、どんなとこかも分からないし
帰ってメィェンタオから話を聞いてからで良いかもな
俺らの目的は富や名声じゃなくて旅費だからな」
キリヤは攻略不可の迷宮に心踊らせていて
帰るのに不満そうだったが
なんとか多数決で説得し
迷宮の外にキャンプを作った
「ほれ、あちきにも飲ませろネ!」
「いや、子どもは酒を飲んじゃいけないんだろ…?」
「子どもじゃないネ!
成人しているネ!
あちきが駄目なら
あの女も駄目なはずネ」
メィェンタオはブランを指さしながら言う
確かにブランは若い…
ブランに視線が集まる
「あたしだって成人してるわよ」
子どもに見られたことで
不満そうな顔をするブラン
「ほら、あちきだって成人してるネ
酒を飲ませろネ」
「お嬢ちゃん、
ちょっと態度がよろしくないわー」
「おお、おうネ
み、皆で宴をしようネ」
マリーに言われると急に大人しくなった
まあ、楽しく宴する仲間が増えるのは良い事だ
――――――――――――――――――――――――
気が付いたらダンジョンの中だった
巨大な円形の部屋
天井は見えないほど高く
壁にはうごめく影のような模様が刻まれていた
奥には巨大な双扉
表面には無数の傷跡が刻まれ
扉の下に砕けた武器や朽ちた骨が散乱している
扉の向こうからは熱気と重圧が押し寄せてきている
まるで見えない壁がそこにあり
侵入者を拒んでいるかのようだった
「おお、博史!
これからだな!
ワクワクするぜ!」
興奮気味にキリヤが話す
「な、何があった?」
周囲を見渡すと
いつもの冒険者メンツとメィェンタオ
「なんだ博史
まだ酔ってたのか?
俺らこれからボス戦だぞ!
ここまで来るのに
お前の活躍は凄まじかったぞ」
聞けばダンジョンで攻略に躓いた時
ゲームだとここがこうだからと
あっさり俺がクリアしていたらしい
そう言えば社会人になってから
休日は酒飲みながらゲームして
気が付いたらクリアしている時もあったな
あれはつまらなかった…
ボス戦だって…
なんでまたこんなことに…
こんなことなら今でなく
酔ったままボス戦に突入し
痛みなく安らかに死んだほうが
ましだったのでは…
「これから最終の確認するわ
メィェンタオ」
「ホントにここまでこれるとは思ってなかったネ
お前ら本当にすごいやつだったネ」
「まあ、それほどでも~」
と言いながら皆が照れてる
「この奥にはアランジョ封印されている
と言われているネ」
「アランジョ?」
「名前ネ」
「他に情報は無いのか?」
「今まで誰にも攻略されていないネ」
いや、そんなことは最初から分かっていた
だから聞いているんだけど…
「フォーメーションはいつも通り
キリヤとメィェンタオが前衛
1つ下がって博史
その後ろにブラン
その後ろにマリリンね
キリヤが盾
メィェンタオは火力で押し切り
ブランが捕えたら
博史がとどめを刺す」
「おおおい何で
俺様が盾なんだよ!」
「確実に勝つためよー
相手次第じゃ
全滅もありえるんだから」
いつになくマリーが真剣な表情で言う
そ、そんなにヤバい相手が来ることはあるんだろうか…
テッシンとか魔王レベル…
そんなことあるのか…?
「それじゃあ行くネ」
重い鉛の扉を開ける
一歩踏み込んだ瞬間
背後で轟音とともに扉が閉じる
同時に全ての光が消えた
深い闇が一行を飲み込み
空間そのものがどこまでも広がっていくような
錯覚を覚える
足元の感覚も曖昧になり
まるで無限の虚空に浮かんでいるようだった。
バチッ……!
突然、黒い雷光が走り
部屋の中央に四角い物体…
ではない何かが不気味に浮いている
近づいていくと
それはゆっくりと形つくり
羽の生えた少女のような姿になった
頭に乗っている輪っか…
一目見て分かる
これは戦うべき相手ではない
「『亜空間の秩序』…
まさかこれの迷宮だったとはね」
マリーがつぶやくと
「そう、それネ」
【何故……私を……殺す……】
よく見ると秩序は物質ではない
口で話しているのではない
音に空気を伝わる振動がない
秩序の周りに無数の黒い渦が出来ると
周囲の空間を次々に削り取っていった
「博史あぶねぇ!」
キリヤが俺を庇い突き飛ばす
「うぐ…」
突き飛ばされ
地面に打ち付けられて
鈍い痛みを感じた
突き飛ばしたキリヤの肘から先が無くなっている
「撤退よ撤退!」
ブランが束縛魔法をかけるも
空間ごと削り取られて
消えてしまう
「キリヤ…」
「そんな顔住んじゃねぇ
バカヤロー
いいから帰るぞ博史」
「エクストール!」
マリーが呪文を唱えると
ボス部屋全域に大爆発が起こった
俺たちは命からがらボスの部屋を後にし
扉を閉めた




