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雅楽伝奏、の家の人  作者: 喜楽もこ
十一章 夢幻泡影の章

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#15 すざくくん@がんばらない

 



 永禄十三年(1570)三月十四日






 過去には、かの大英雄・魏の創始者曹操孟徳でさえ身内の処遇には頭を悩ませたようである。

 例えば血の繋がった側近家来が大失態を犯した際には一兵卒に降格させて気づきを促したといった風な異例の沙汰を下したりもしている。らしい。知らんけど。


 裏を返せば独善的と言い伝えられる大英雄や偉人ですら家来との接し方には配慮を必要としていたとも受け取れるし、実際信頼できる身内にこそつらく当たらなければならなかったのだろう。


 故に天彦の下した決断は英断である。少なくともけっして間違った判断ではないはずなのだ。


 なのに……、


「お殿様」

「なんや」

「家来の罰に付き合う主君など訊いたこともありません。前代未聞だりん」

「前代未聞は菊亭の座右の銘や」

「厭すぎる銘です。誇るのはおやめください。ですがそこまでご心配なされるなら刑に服させねばよいのでは」

「それは違うん」

「違うのですか。でしたらルカには理解できないだりん」

「理解したフリはしとき」

「はぁ」


 ルカの態度は釈然とはしないが言いたいことはわかるのでスルー。


「算砂を」

「え」

「なんや」

「お供になさるので」

「そうやけど、それがどないした」

「評判があまりよろしくない御方なので」

「それで言うたら身共はどうなるん」

「……控えめに申しまして終わっております」

「おい。ちょっとは気を遣え」

「ご自分で振られておきながら御冗談を」

「もっとおい!」


 お約束を挟んで、ルカは真剣な眼差しで訴えた。


「ならば当家から是非ともお連れくださいませ、だりん」

「取ってつけたから遜りましたみたいな顔はやめるん。あれはそもそもお前さんが始めた設定なん」

「でしたか。して如何なりましょうや」

「いや今回は算砂が適役なん」

「……状況が予想以上に深刻なのか、あるいは我が党には下せぬ苛烈な判断をお望みなのですね」


 天彦は応とも否とも答えずに雪之丞の入室を告げるのだった。


 算砂なら他の重鎮に比べると圧倒的に顔も差さないしという理由と、何となくの感覚と雰囲気で決めたとも言い出せる雰囲気ではなかったので。


「……」

「なんやその目ぇさんは」

「……」


 あ、うん。


 バレるのだが。




 ◇




 急いては事を仕損じる派の天彦でさえ今回ばかりは急を要した。

 それほどに家中に渦巻く雪之丞への批判の声が強く大きかったのである。


 第一は対外的な風聞に対して。朝廷の面目も立ててやらなければならないだろう。勝手に押し付けてきた向こう都合の面目であっても。

 そもそも雪之丞の主役働きは天彦の想定外だったのだ。故にそこは然程気にはしていない。問題は家内の方にあった。


 無視できない家内の不満、それらすべての声を掬い上げ代弁する茶々丸の言葉に容赦はなく。ともすると武士道ならぬ公家道に照らしても流れがすべて美しくないと訴えられれば、例えそれが自身に対する行き過ぎた干渉、あるいは越権的な批判であっても天彦とて擁護の余地はないと認めざるを得なかった。


 結論、降格人事を決定する。


 雪之丞の懲罰人事を迫られていた天彦は泣く泣く彼を側近衆から手放すことを決断する。

 臣意が決断を促したと知れる様にわかりやすく、然りとて常に有効打を放てると誤解されないぎりぎりのラインを突いた沙汰であった。

 そしてその決断は天彦にしては異例の速度で決定された。それは注進した茶々丸ですら驚いたほどのスピード解決だったのである。


 理由は二つ、一つ目は単純に時間がないから。

 これから時代は立て込んでくる。しかも菊亭だけに絞っても片付けなければならない案件は山積みであった。遊んでいる暇はなかった。むろん巫山戯はするけれど。


 そして二つ目が主眼、天彦の我が半身にもっと頑張らせないとならないから。

 雪之丞はあまりに頑張らなさすぎた。闘争心がゼロなのではない。彼だって人並みに出世欲や物欲はある。何なら食欲などは旺盛にあるし侍という地位的生き様には並々ならぬ一家言を持ってもいる。


 それらを押し通す、あるいは主張するために必要なこと。


 ならば頑張らなければならない。天彦はそうできる居場所を与えた。今度は雪之丞がその一角の居場所を自らの頑張りで確保する番である。

 何もいつまでもという中長期スパンでのガンバリは要らない。そもそも求めてもいない。

 もっと近視眼的な、あるいは最低でも是知の眼鏡に適うレベルでの奮起を見せて家内に確固たる地位を築けるその瞬間までは頑張って欲しいと願っているだけである。切実に。


 だから心を鬼にした。


「お雪ちゃんに命じます。平の郎党から出直しなさい」

「はい!」

「いやいや、お雪ちゃん……意味わかってる?」

「はい。前のように用人働きに戻るんですよね。某に向いてます」

「いや雑用なんかひとつも向いてへんかったやん」

「そうでしたっけ?」

「むちゃんこそうやったん」

「ほな気張ります。某、やる気でてきました!」


 喜びどころが……はぁ。

 今に始まったことではないが、それにしても可怪しな人だった。


 いずれにせよこうして天彦は大役を果たせなかった雪之丞の懲罰に納所小書吏(四等官)の従者(用人)になるという建前的結論を導き出していた。むろん用人(雑用係り)ならなんでもさせる心算である。


 そこがおそらく最も顔が差さないだろうから、という至極単純な理由で。おそらくはどこでも顔は差さないだろうけど念のために。これはかなりの屈辱懲罰である。……普通なら。

 おそらく日常業務から解放されるらっきー程度の感覚なのだろう。あの呑気に明るい返答からすれば。つまり彼は普通ではない。


「お雪ちゃん」

「はい何ですやろ」

「喜んだらアカンのよ?」

「喜んでなど……ぷぷ、おりません! ……ぷぷ」


 いや、むっちゃんこ喜んでますやん。なんと令和向きな性質なことか。


 天彦はつくづく実感を強くする。朱雀雪之丞の誕生は低く見積もっても450年は早かったと。あるいはケーデンスが時代にまったく合致していないと。


 知っていたが、雪之丞という人物は自分事では頑張らない。では誰ごとなら頑張りなけなしの男を見せるのか。……くふ、ふふふ。

 そこがまたたまらなく天彦の自尊心をくすぐった。

 彼は、雪之丞だけは何がどうあろうと天彦に惨めな思いをさせない。

 そういった意味では実の半身よりよほど信頼のおける人物であった。好人物かどうかは別物としても。


 猶、菊亭における納所なっしょとは主に財務を統括する部署であり、雪之丞が付く小書吏(四等官)は歳入を扱っていた。

 また政所からは完全に独立した家政機関であり茶々丸の意向も及ばない。

 すべては軍配と同等の効力を有すると当主の宣言と共に預けられた裁量権を握る吉田孫次郎意庵の差配一つで事はなる。

 そんな全幅の信頼を置かれた、菊亭の大銀主にして大盟友吉田屋の実弟である吉田孫次郎意庵を頂点として優秀な官僚が揃った菊亭自慢の家政機関である。


「参ろうか」

「どこにですの」

「話訊いて?」

「訊いてますけど」


 絶対に嘘。


 善は急げ、二人して向かった。わざわざ年季の入った襤褸に着替えて。

 そこでも汚れを気にしなくていいと終始襤褸衣装にご機嫌さんの雪之丞と二人、いやこちらも謎に笑み散らかしている算砂と二人プラスワンで向かうのだった。




 ◇




 向かった先はそれぞれの郎党から供出されている用人が集う待機所である。

 むろん待機所といってもかつて天彦が勤務していた蔵人所のような小奇麗な場所ではなく、言葉を選ばず言うならタコ部屋同然のあばら家であった。


 集う者は目ばかりギラつかせている児童年齢の見るからに欠食者ばかり。とても公家の奉公人予備軍とは思えない風体の者たちであった。


 そこに新人用人見習いの二人とその監督役の一人(算砂)がやってきたというのが現下の構図である。


「……」

「……」


 そんな二人は引いていた。それも激しくどこまでも。


「……」


 あるいは保護者役の算砂も引いているのかもしれない。おそらくきっとドン引いている。瞳から精気的なハイライトが消えているから。


 実情を知れば知るほど、絶望の色は濃く鮮やかな輪郭を描き始める。

 知らなければよかった。または知らない方がよかった。この世に無数に存在する、これもそんな悪例(好例)の一つであった。


 それほどにこの用人待機詰め所には絶望の色が濃く出ていた。

 なぜこんなに荒んでいるのか。天彦にはすぐには理解できなかった。過去の記憶を引っ張り出し探る。うんわからん。慈善事業に熱心だった自分の知っている寺子屋の境内でもこれほど荒んではいなかった。


 ひとつ思い当たる節があるとすれば、それは……、


「こうでもしないことには人員の確保さえ難しいんだね。思っている以上に主家を取り巻く状況は……」

「……か」


 算砂が敢えて言葉にしなかった部分(深刻)に天彦はそっと、けれど激しく同意する。おそらくそうだろうから。

 次の瞬間にはこれは拙い。非常によろしくない危機感が天彦の全身を覆っていた。

 この久々に感じるまぢもんの危機感さんの登場に震えながら天彦は、これではガバナンスも財政健全化もへったくれもないと、この問題に本気で取り組むことをその場で固く誓うほどであった。


 そして例の如く具体案は持たずに、


「算砂」

「なんだい」

「出番や」


 できる者、あるいはできそうな者に丸投げして。


「へえ。いいよ、受けて立つよ」

「それは重畳。皆が羨む天賦の才を恣にするお前さんの腕の見せ所やで。せいだい気張りぃ。見事やり遂げたら側近衆に戻したるん」

「……さすがにその褒め殺しはどうなのかな。対価も妙に高値だし」

「不満か」

「不穏なのさ。不穏当かな」

「なんや珍しい、怯えたようなお顔さんして」

「うん、ようなではなくかなり怯えているのさ。そもそもやつがれは君を恐れているからね。で、なんだい?」


 算砂のそれは人を恐れている目ではない。それはいいとして。


 見た目の悪さは育ちの悪さのせい。潜在的能力値とは比例しない。

 地頭の良し悪しはあるにしてもあの藤吉郎だって百姓の子倅。能力値の高さとは無関係である。

 故にこの児童たちの腐った目に光を与えることから始めることこそ先決だと感じていた。


 菊亭にできること。


 この子供たちがやる気になれる何かを見つけ出さなければならない。その必要性を感じたのである。それも喫緊、極めて早急に。

 彼らはいずれ菊亭を支えるだろう有為の人材である。ここの応接を間違えると絶対に祟る。そんな確信が経験則を踏まえてあった。


「……なるほどねぇ。相変わらず視点が斜めに突き刺さっていて大いにけっこう。その方向で検討するよ」

「頼んだで」

「うん。確と承ったよ」


 天彦はこうして家内改革に取り組むことを決めた。

 手始めにストックオプション(経営陣や従業員が一定の行使価格で自社株が購入できる)に代わる、時代感に即した新制度の導入を指示した。務めて真剣・深刻な表情とトーンで。


 それほどに現状を問題視していた。倫理とか道徳とかコンプラとか、もっと言うなら家が潰れるとかなんとかそんなこととは無関係に、遣り甲斐搾取はクソ、ゴミカスを合言葉に、あるいは天彦自身が猛烈に覚えてしまう忌避感情に従って状況改善に注力することを固く誓って。


「そこで突っ立ってるお前ら、用人やな」

「そうですけど」

「二番竈に行け!」

「偉そうに……、あ、うん」

「返事ははいや!」

「はーい」

「言い直せっ」

「……はい」


 雪之丞、満身でぶーたれるの巻。

 二人と一人は早速配属された二番竈とやらに向かった。




 ◇




 戦国あるあるその27。

 見た目にチンピラチックな三下やくざ者より、細部にまでディティールに拘ったフォーマルな武士の方が圧倒的に怖い説。


「若とのさん、あのお侍、某苦手です」

「奇遇やねお雪ちゃん、身共もやで」

「ほな逃げませんか」

「ほな逃げへんのよ」

「えー」

「えーやないの」


 天彦たちの目の前には茶々丸を大人にしてもっと陰険さを嵩増ししたようなインテリ風陰険策士っぽい侍コーデの青年郎党が待ち受けていた。

 むろんどこの郎党かはわからない。小奇麗に着飾ってはいるが所詮は小袖、家紋など入ってはいない。


 二人は意を決して歩み出る。


「増員か」

「そうだね」

「三人、いやお前さんら二人やな」

「そういうことさ」


 そこで算砂との会話を一旦打ち切ったインテリ風侍は、しげしげと天彦と雪之丞を観察した。そして再び視線を切り替え算砂に戻した。


「貴家がどこかは存ぜぬ。そして当家は如何な貴種であろうとも分け隔てなく扱うがそれでよろしいか」

「よろしい」

「ならばお預かりいたす」

「任せたよ」


 どうやらそこそこの家の師弟とその目付け役とでも勘違いしたのだろう。あるいはよくある光景なのかもしれない。

 算砂は機転を利かせて流れに乗り、いったんその場を後にした。残された主従はインテリ策士風侍に顎でしゃくられて場所を移す。


「着いて参れ」

「はい」


 むろんどの状況にあても態度がLな雪之丞が主認定である。言い換えるなら無理に馴染ませた高貴さが、生まれつきの尊大さに敗北した瞬間でもあった。


 五筋ほど歩く。


 向かった先は川だった。そこには大勢の子供たちがいて、さっきとうってかわって覇気ある気配とそれを象徴するような快活な笑い声が響いていた。


「面倒を頼む」

「あらあら、あなた様がお珍しい。貴種の御子弟さんで?」

「それは存ぜぬ。だが粗末には扱えぬと我が勘どころが五月蠅いのでな」

「なーるほど。お侍さまの勘どころねぇ。それは粗末にはできませんね。畏まってございます」

「うむ、頼んだぞ」


 引き渡された天彦は、そんなこととも露知らず、


「お前さんらのためになら身共はなんだってしてやれるん」


 一人悦に浸っていた。あるいは内心では感涙に咽び泣いて。


 笑いが癒しになろうとも世界を変えるとは思わない。リベラルなんてクソくらえだしダイバーシティなにそれ美味しいの。くらいの覚悟で臨まないと痛いのは自分の方。


 あるいはそれら仮説や法則を包括したような週に一度の安息日さえない日常に不満一つ零さない労働者に埋もれて天彦は思う。無知の何と罪深いことか……と。

 加えて何かあればすぐ命にかかわる大事態が出来する、この最低最悪の劣悪環境にあって、なのに彼らは眩しかった。輝いて見えていた。少なくとも天彦の曇った腫れぼったい一重瞼の奥にある瞳にはそう映っていたのである。


 そんな天彦の表情は明るい。なぜこうも明るいのか。

 彼は生涯この感情の由来をけっして言語化しないだろう。だからする。

 天彦の許に、延いては菊亭に集う郎党は雪之丞を筆頭に誰ひとりとして天彦に惨めな思いをさせないのである。しかも上っ面だけでなく、魂のレベルで。

 あるいはそう感じさせる熱量で、例えば平気に命を放り差し出すような。その価値が天彦にあるとでも言わんばかりに。


 だから天彦も同等の熱量でお返しができた。菊亭の郎党というだけで彼らと共に歩めたしいつでも逝ける覚悟が持てた。


 そんな感じなのでこの頃になると天彦も観念している。言い換えるなら誰かと共に歩むことに対する忌避感めいた抵抗感情に蓋をして、照れや戸惑いを置き去りにして、この者らとまとめて共に歩む覚悟ができていた。


「もう一度、いや何度だって申せる。お前さんらのためになら身共はなんだってしてやれるん」

「……けったいな童やで。あんたいったいどこの郎党や」


 き、訊かれてた! そ、それはアカンのんちゃうん。……ちら。


 恐る恐る見上げると、絵に描いたようなお母さん世話役が立っていた。

 目性も雰囲気も全体的に柔和なのに謎におっかない風の女手配師のようであった。


 だから天彦も虚勢を張った。


「菊亭や」

「こらっ! 滅多なことを言うもんやない。お家を尊敬してたらそんなことは冗談でも言えんはずやで」

「……あ、うん」

「うんやない、はいやっ」

「あ、はい」

「やっぱりお侍の言う通りや。とんで躾のなってない貴種の子やな。大方近頃出入りするようになった三河もんの師弟さんやろ。ほんな厄介な子ぉやで」


 が、ぼろくそである。


 だがたしかに失言だった。菊亭の直の郎党は世界にただ一人菊亭天彦をおいて他にないのだから。彼らからすれば暴言以外の何物でもない。


「ぷぷぷ、さっそく叱られてはる」


 お雪ちゃんさあ。まあええけど。


 いつもなら雪之丞の笑いを堪える姿が腹立たしいはずなのに。

 天彦は嬉し味に包まれたときにだけ出す照れ苦笑いを浮かべていた。まるで身体の芯まで癒されている風に。


 と、そこに少しだけ身形のましなキッズが、手下っぽい従者を連れて天彦たち目掛けてやってきた。

 キッズ侍が女手配師に会釈すると彼女は顎をしゃくった。するとキッズ侍も頷きを返して契約成立。どうやら天彦たちの身柄を引き渡すようであった。


 つまり世話係が決まったのである。

 キッズ襲来。実に利かん気の強そうな侍然としたキッズたちである。


 その主格が、天彦と雪之丞を交互に見比べた上で明確に天彦を主格と認めて天彦に声をかけてきた。


 合格です。ではない。キッズ侍の嗅覚や炯眼が特別優れているわけではけしてない。優れているのはむしろ選抜されている側の人物。そう。

 雪之丞はこういったとき超絶鼻が利くのである。そして絶技ともいえる妙技を繰り出すのである。気配殺しという名の、セコ技を繰り出すのだ。


 菊亭の仲良し主従が視線で死闘を繰り広げることしばらく。

 痺れを切らせたキッズ侍が二人の仲を裂くように口火を切った。


「おいお前!」

「身共か」

「み、……お前や!」

「うん何さん」

「おう。お前偉いとこの倅らしいけど、どこもん? 儂は主家菊亭家直参の家の嫡男やぞ」

「おお凄い」

「お? 儂すごい?」

「凄いやろ、普通に」

「そっかー。まあ知ってたけど。知ってたけどな!」

「あ、うん」


 ノンデリにありがちな自分で言っておきながら自分で驚くやつをやるキッズ侍に天彦は内心でにまにましながら、成り行きに身を任せる。

 だってお気楽だもん。これは雪之丞の試練であって天彦の忍耐修練ではけっしてないのだからと気軽に身構えて。


「そや、儂偉いからお前を家来にしたろか?」

「それはいらん」

「要るやろ! 家来にしたるから来いっ」


 聞けよ、チビ侍。やはり侍という人種はチビでも人の話を訊かなかった。

 天彦の手を掴むやぐんぐんと速度を上げてどっかへと向かうキッズ侍。

 ぐんぐん雪之丞の姿が遠く小さくなっていく。すると天彦の耳朶に、


「ははは、某だいたい知ってましてん。がんばってくださいねー! 某お餅屋さんで待ってますんでー」


 まんじ……!


 まさかのタイミングで天啓を得る。はさすがに盛り過ぎだがとある事実に感づいてしまう。

 それは天彦がずっと感じていた、朱雀くん@がんばらない。は大間違いで、実際は自分が頑張ってしまうのだということに気づいてしまったのである。


 そう気付くとすべてに合点がいく。よって天彦は、



 菊亭くん@がんばらされてしまう。



 に変換して書き換えたこのしっくりくる秀逸フレーズを脳裏に浮かべ自分自身に苦笑を送り付けるのであった。













【文中補足】

 1、ケーデンス

 一分間のクランク回転数のこと












お読みくださいましてありがとうございます。

大丈夫、熱意はある。売るほどある。体調並びに可処分時間と相談しながらぼちぼち進行します。気長にお付き合いください。


追伸、ヘン・ズ=ツーさんへ。

右の頭が痛んだら左の頭を差し出すより早く、イブかロキソニンを飲んでください! 

肩甲骨辺りが痛むのどうやって一人でロキソニンシート貼るん笑、より


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