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転生音楽家 ~男女比が三毛猫の世界で歌う恋愛ソング~  作者: 赤野用介@転生陰陽師7巻12/15発売
第3巻 ツチノコ快進撃

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第59話 優理の誘い

 少し遡り、夏休みに入る頃。

 俺は、ドラマの相方である緑上優理から誘いを受けた。


『ドラマの宣伝を兼ねて、一緒にバラエティ番組へ出演してほしいんだけど』


 優理とは、社交パーティで連絡先を交換している。

 ドラマに関しては、ベルゼを経由せずに仕事を受けているので、俺に直接連絡を取ることに問題は無い。

 だが通話先の優理の大義名分は、俺にとっては弱かった。


「俺の動画サイトでの宣伝力は、1500万に達したわけだが」


 俺の動画サイトとSNSのフォロワーは、未だに伸び続けている。

 テレビCM出演とドラマの主演が、絶大な効果を発揮しているのだ。

 それらで宣伝すれば充分ではないかと、あまり気乗りしない返事をしたところ、優理は新たな説得材料を持ち出した。


『ドラマ、咲月さんのヒロイン力が高すぎるのよね』

「ぐぬぬっ」


 優理が指摘した言葉の効果は、覿面だった。

 ドラマ『セカンドフレア』は、男性俳優と優理のダブル主演で作られていた。

 だが前任の男性俳優が辞退してしまって、代わりに俺を誘う条件の一つとして、俺のバンドメンバーである咲月も出演させる話になった。


 そこで俺は、咲月が演じる咲を優遇しすぎた。

 具体的には、咲に向けた歌『道標』を作って監督に聞かせ、最終話の特別エンディング曲として採用させた。

 それによって、ドラマの評価が爆上がりすることは、既に確信している。

 メインスポンサーの黄川も文句は付けない。


 だが、たった一人だけ割を食った人間が居る。

 それが主演女優の優理で、このままでは咲月に食われて評価が落ちる。

 ちょっとだけ、悪いことをした気がしなくもない。


「……了解した」

『本当? ありがとう!』

「ドラマの咲を優遇した分、別番組で優理との仲の良さをアピールして、ドラマの優奈と仲が良いイメージを高める目的で良いんだよな」

『そうそう。よろしくね』


 確認を取ったところ、アッサリと目的を認めた。


「それでバラエティ番組は、どんな内容なんだ。クイズとかは苦手なんだが」


 具体的に挙げたのは、優理と咲月が番宣で、クイズ番組に出演したからだ。


「クイズ苦手なんだ?」

「男の俺は、どうも感覚が異なるらしい」


 クイズ番組が苦手なのは、前世との食い違いがあるからだ。

 80年前までの歴史は変わらないので、それ以前の問題なら多少は答えられる。

 だが80年前からは、社会が変容した。


 80年前までに生まれた男性達が、社会で活躍した10年前までは、国際関係に変化は乏しい。

 なぜなら国を動かすのは、権力を持った老人達だからだ。

 法律だって、大半は10年以上前に作られているので、ほとんど変わらない。

 未婚の男性をマッチングさせる阿呆な法律が成立したのは、今年の話だ。


 だが売れた商品を聞かれると、途端に怪しくなる。

 それは購買層が女性に偏るからで、近年になるほど乖離が大きくなる。

 人気の芸能人を聞かれても、ほとんど答えられない。

 なぜなら戦後の男性芸能人は生まれておらず、男性から人気を得たはずの女性芸能人も人気を得なかったからだ。

 美空ひばりまでは合っている。

 そういう次元である。


『悠さんとあたしが主役の番組で、ほかの司会者は居ないから、大丈夫かな』

「何をするんだ?」

『企画内容、メールで送るね』


 優理が告げると、すぐに企画内容がメールで送られてきた。


――――――――――――――――――

 番組名(仮):

『二人無人島サバイバル特別編』


 放送枠:

 撫子テレビ系列 全国ネット地上波、ゴールデンタイム特番(120分枠)


 企画概要:

 話題のドラマ『セカンドフレア』のダブル主演、森木悠と緑上優理の二人が、瀬戸内海に浮かぶ無人島に二人きりで、1泊2日のサバイバル生活に挑戦。

 ドラマ本編でダブル主演の二人を出すことによる話題性の強化。

 テレビ的な演出を排除し、主演ふたりの素の関係性や会話をドキュメンタリー風に切り取ることで、ドラマの二人の仲の良さと信頼関係を演出する。

 撮影は、ドローンと定点カメラを中心として、スタッフは極力介入しない。


 ロケ地:

 瀬戸内海某所の無人島。

 全周約3キロメートル。野生のウサギが生息。

 ※昭和40年代まで人が居住していた島で、井戸と水洗トイレを使用可。


 番組のルール:

 出演者は道具を2つずつ持ち込み可。

 食料は島にあるもので自給(魚介、野草など)


 備考:

 撮影は恒例であり、漁に関して地元漁協の許可済み。

 専門家に食材の安全性確認を依頼済み。

 島の旧民家にてスタッフ待機。急病時の救護・搬送体制を確保済み。


――――――――――――――――――


「無人島サバイバルか」


 俺は、前世でいくつか見た無人島番組を思い出した。

 男性芸能人が海に潜って、銛で魚を突いたシーンが思い浮かぶ。

 道具を2つまで持ち込み可なら、魚を突く銛は持ち込める。


 だが海で魚を探すなら、水中用ゴーグルも必須となる。

 泳ぎ回るには、足ヒレ付きのウエットスーツも必要だろう。

 魚を捌いて焼くなら、ファイヤースターター付きのアウトドアナイフも欲しい。


「……確認するが、服装は自由で良いんだよな」

『服装の指定なんて無いわ』

「それなら、番組で肌の露出を防ぐために、海用のウエットスーツを用意しても良いよな。足ヒレは、靴扱いで」


 俺の服装を想像したのか、優理は沈黙した。

 それから数秒して、再起動する。


『通ると思うわ。面白いから、有りじゃないかしら』


 どうやら良いらしい。

 すると足ヒレ付きのウエットスーツは、持ち込む道具に含まなくて済む。

 もちろんウエットスーツだけで現地に行くわけではなく、上には服を着込んで、どちらも使えるようにするつもりだ。

 靴については、ゴム底の靴下でも履いて、その上から足ヒレを履けば1日くらいなんとかなる。


「俺は顔出しを制限するために、ドラマでサングラスを付けているが、そういう物も良いんだよな」

『それは大丈夫』

「だったら海中でサングラスを付けるのは難しいから、サングラスを付けられる水中用ゴーグルも必要だ。海女さん用の大きいゴーグルになるが」

『それは仕方がないんじゃないかな』


 水中用ゴーグルの持ち込みも、制限を外せた。

 すると魚を突く銛、足ヒレ付きのウエットスーツ、水中用ゴーグル、ファイヤースターター付きのアウトドアナイフが揃う。

 前世で見た無人島サバイバルを実現できる。


「それなら俺は、魚を突く銛とファイヤースターター付きのアウトドアナイフを持ち込んで、魚を突いてサバイバルする。優理は何を持ち込む予定だ?」

『協力関係だから、あたしはキャリーバッグ付きのキャンプ用テントと、2人用の寝袋にしようか。寝袋はクイーンサイズだし、テントには虫除けスプレーを掛けておけば、何とかなりそう』

「俺が食料担当で、優理が住居担当というわけだな」


 テントで寝られるのなら、わりとイージーモードかもしれない。

 俺が魚を穫れなければ、食事抜きになるが。


 ちなみにクイーンサイズの寝袋に関しては、今世では貞操観念がおかしい。

 男女比が三毛猫で、成人女性が小学生男児を誘拐した50年前の印象が強く、貞操観念は逆転しているのかもしれない。


 俺が優理に手を出したら、前世で50年に1人のアイドルが男性を誘ったようなもので、被害者なんているのかと首を傾げられる。

 そして優理のほうから手を出すには、力が足りない。


「一応確認しておくが、一緒の寝袋に関して優理側の問題は無いか」

『あたし達って、ドラマで夫婦よね。今回もテレビ撮影だけど』

「了解した。俺も大丈夫だ」


 俺の場合、貧乳ではない女性に手を出すことはない。

 そのため問題は無い。


「よし、勝ったな」

『どうやったら、そんなおかしな発想が思い浮かぶの』

「俺のサバイバル計画のことか?」

『そうそう、パッと出てきたでしょう』


 優理は呆れたが、俺の発想は前世に基づく。

 もちろん前世があるとは言えないので、誤魔化すが。


「なんとなくだ。ウエットスーツは、俺のサイズに合うものを特注で作ってもらわないといけないから、少し時間が掛かる」

『どれくらい掛かるの?』

「俺は、青島百貨店にオーダーメイドで服を作ってもらえる話が付いているから、そこまで時間は掛からないと思う」


 以前、社交パーティのタキシードを作った時、俺の服をオーダーメイドで作ってくれるという話をしてもらった。

 採寸もしてもらったので、依頼すれば、生地を仕入れて作成してくれる。

 特殊なものなので、少し時間は掛かるだろうが。


『できれば8月中旬までに撮影して、8月中に放送したいかも』

「多分大丈夫だろう。大まかに分かったら連絡する」


 そう言って通話を切った俺は、青島百貨店新宿に連絡して、ウエットスーツと足ヒレを依頼した。

 何度も聞き返されたが、番組で無人島ロケをするので、ダイビングをして魚を突くと説明したところ、なんとか理解してもらえた。


 次いでネット通販サイトを検索して、高い順に並べ替えて『魚突き用、3又銛』、『ラージフレームのダイビングマスク』、『ファイヤースターターナイフ』を選んで注文した。

 その後、ベルフェスを経て、優理と無人島ロケに赴くことになった。

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― 新着の感想 ―
ドラマ、あの内容じゃ咲月に食われるのは不可避w (制作するかわからない)2ndseasonで挽回するしかないね。
まぁこのままだとメインヒロイン(笑)扱いにはなるわな
感想一覧
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