Pass12約束と願い<正義>Act7
危機に瀕するのかレーシュ?
そこに現れるのは・・・ご主人様?!
魔鏡の中に居るのは、自分とは違う容姿の女性。
瞳の色以外、似た処なんて見当たらないみたいですけど?
「あ?!角がある!」
ワタクシにもある薄赤い角が、着けられているティアラの中に観えたのです。
「まさか?!これがワタクシだっていうの?」
鏡の中で赤髪を靡かせる女性が、ワタクシの本当の姿だとでもいうのでしょうか?
何かに怯えているような瞳。
周り中を黒い妖し気な影に取り囲まれてしまっている。
そして影の中から伸びた手が掴みかかろうとしている・・・
「嫌だ・・・こんなの・・・本当じゃないよ」
鏡に映し出されているのが自分では無いと、認めたくなくなります。
澱んだ影から伸びる手に捕まれば、きっと何か良からぬ事が起きそうで。
「本当のワタクシじゃぁない筈です。
ワタクシは赤髪ではないし、ティアラを召せる身分でもありませんし。
それに、闇に呑まれるような悪い事なんてしていませんから!」
これが真実を告げる魔鏡だと教えられていても、映し出される姿を自分だとは思えませんから。
「これが本当だというのでしたら。
きっと御主人様が助けてくだされる筈ですから!」
そう思いたい、願いたいのがワタクシの偽らざる心でした。
いつの間にかワタクシは、心の底からアレフ様を頼り切っているのに気が付いたのです。
「出逢ってからいつも助けてくだされるアレフ様が、必ず護ってくれるから」
頼れる人であり続ける、本来が黒の召喚術師アイン。
アインが陰なら、陽の容であるアレフを御主人様だと認めている自分が居るのにです。
「闇が奪い去るというのなら、アレフ様がほっておく筈が無いんですから!」
鏡には闇に取り巻かれている姿だけしか映し出されていなかったのです。
希望の光がそこには見いだせられなかったから、ワタクシは拒絶してしまいました。
「鏡さん!これが事実だというのならば、ワタクシの希望は何処にあるの?」
闇に囚われてしまうのなら、ワタクシを助けに来てくださる方は存在しないのですか?
微かでも良いから希望が欲しかったのです。
映し出されるのが本当だとするのなら、せめて希望の光を観たかったから。
闇に捕らえられるだけでは無いと、縋りたかったんです。
ザ・・・ザザザ・・・
鏡が波打ちます。
ザ・・・ザワザワザワ・・・
そして。
鏡面へ新たに映し出されて来た幻影は・・・
レーシュが食い入るように鏡を見詰めているのが伺い知れた。
きっと今、目にしているのは真実なのだろう。
真実が蒼銀髪の少女を何かへと目覚めさせるのだろうか。
「そうさ。それが目的だった・・・筈だろ?」
ニヤリと嗤うのは・・・誰の声?
歪んだ口元は誰のモノ?
「レーシュは何か掴んだ。
結果はいずれ知る事にもなる・・・そうだろ?」
誰のモノかは分からないが、レーシュが魔鏡から何かを得たと踏んでいるみたい。
「この祠へと落とす為に、ヴァンパイア退治に来たんだろ?
でも、そこにルシファーが居たのは誤算だったってことだね」
一体誰の声?
何を秘めて呟くの?
「まぁ・・・不都合な現実に直面するのは良くある事だよね。
力を欲しているのは君だけではないって話しなだけだよ」
レーシュに秘められた力を求めるアスタロトではない?
では・・・誰なのか?
「役立たずな番人は退場させても良いんだよ。
君の役に立たせたら良いよ・・・アイン・ベート」
声は近づく異能を感じ取ったのか、次第に小さくなっていくようでした。
鏡に映ったのは希望?
それとも?
レーシュは眼を見開いて魔鏡を見詰めていたのでしたが。
「むぅ?!」
「何奴?!」
「また訪問者が来たというのか」
魔狗が何かを感じ取って喚き出します。
「小娘!魔鏡を返して貰うぞ」
と、同時に。レーシュの前から魔鏡が消えてしまったのです。
「あ?」
眼前から魔鏡が消えたレーシュが、我に返った時。
「こんな所に居たのか下僕シスター」
どこから聞こえて来るのか、アレフの声が?!
「え?!えっ?!」
呼ばれたレーシュが辺りを探し始めます。
「御主人様ぁ?!」
ですが、声は聞こえども姿は見えず。
「ふっ!俺はアレフなどでは無いと言っているだろうが」
なるほど、アインだったみたいですね。
・・・え?!アイン?
「アインさんだったんですねぇ~・・・・って!
同じですよぉ~!二重人格な御主人様ぁ~」
いやあのレーシュ。まだ気が付いていないんですか。
「あ?!その前に!
ご無事だったのですね、アレフ様」
今頃かよ・・・鈍い子ちゃんですなぁ。
「ああ、お前の言うアレフとやらは無事に済んだかは知らんが」
いや、絶対無事ではないな。
「確か、下僕シスターを助けようと術を放った折に。
俺へとチェンジしたようだから・・・破片でも喰らったんじゃないのか」
「ご?!御主人様がぁ?」
やはりですか・・・
アインの声が降り注いでくる天井を見上げて、レーシュが心配すると。
「ヴァンパイア共は俺が駆逐しておいてやったぞ。
残りは・・・野良犬だけのようだな」
アインは魔狗を野良犬だと断じたのでしたが。
「お前を探して面白い物に出会った。
そいつをタロットに封じてやろうじゃないか」
獲物を見つけた狩人のように言うのです。
「俺の下僕に手を出したつけってモノを・・・貰い受けるぜ」
圧倒的な魔力を誇る、黒の召喚術師アインの手にはタロットがあったのでしたよね。
タロットカードの全種類を手に出来れば。完全なるタロットを手中に納めたら。
「ケルベロスよ!俺のカードになるが良い」
アインに宿っている魔王が復活を果たせるんだとも聞き及んでいました。
が。
「でもぉ御主人様ぁ?どこに居られるのですかぁ?」
レーシュは辺りを見回して呼んでいますけど・・・未だに姿は見せていないと?
「愚か者!俺は・・・此処に居る!」
突然、アインの声が身近に聞こえ。
「下僕シスターの上だ!」
「ほぇええぇ~?!」
見上げる天上頂部。
翠の輝きを溢している部分が。
バキン
破壊されたかと思えば。
「ⅩⅤのカードよ!ケルベロスを喰ってしまえ!」
落ちて来たアインが召喚したのです・・・宿りし者を。
つまり・・・悪魔王であるアスタロトを!
漆黒の中から現れるアスタロト。
本来の魔力を押さえられてはいたものの、魔王である事に違いはありません。
ケルベロスが懼れていたように、逆らうべき存在ではないのです。
「ま?!」
「魔王ぅ~?」
「どうして~?」
魔狗が恐怖に染まる叫びをあげたかと思うと。
ぐわぁッ!
アスタロトの鍵爪が魔狗へと伸びて・・・
「キャン!」
犬の鳴き声をあげたかと思うと、忽ちにしてアスタロトに消されてしまったのです。
言い訳を告げる暇でさえも与えて貰えずに。
まるで獄門に吊るされる罪人のように。
あっさりと片付いた魔狗に、拍子抜けなんてしないでくださいね。
これはアスタロトの魔力が桁違いなだけなのですから。
「御主人様~、流石ですぅ」
落ちて来たアインが、身のこなしも軽く着地するとレーシュが奔り寄って褒め称えるのです。
「ふむ・・・それが祠の宝か?」
「え?あ、そうみたいです」
アインが見上げるのは番人が消えた魔鏡。
「如何にも胡散臭そうな鏡だが。
何が映し出されるんだ?」
「真実だそうですよ~」
シレっとレーシュが答えました。さっきまで観ていたというのに?
「魔狗さんが番人を務めていたんです。
なんでも、映した者の真実を映し出すんだとか」
番人が潰えたのですから、魔鏡は観放題になったのですけどって?
その言い方だと観ていないように聴こえるんですがレーシュさん?
「ワタクシも観たのですけど、壊れているみたいで。
他人しか映し出さないんですよね~」
そう来ましたか。
最期に何を観たというのでしょうかね?
「ふむ?下僕シスターは何を観たと言うんだ?」
アインの眼が一際鋭くなったのでしたが、答えるレーシュときたら・・・
「えへ・・・秘密です」
少しデレた顔でそう答えるんですけど?
「主人の質問に答えられないのかよ」
「プライベートは守られるべきですよぉ」
頬を朱に染めて・・・というより、完全にデレていますが。
もしもし?レーシュさん?
身悶えるレーシュを飽きずに見ていたアインが、ため息を溢すと。
「しくじった様だな・・・」
レーシュが依然と変わらない事に落胆したようです。
降って墜ちて来た、全身黒づくめの召喚術師とレーシュの脇では。
「はわわわ?あのケルベロスをものの一撃で倒すなんて」
マミさんが腰を抜かしそうになっています。
「凄いじゃないか!レーシュの御主人って」
で、レーシュに紹介してくれとせがんで来ました。
「あ?そうでした。
御主人様、この方達が伴に魔狗と対峙してくだされたのです」
はっと気が付いたレーシュが枯骸なマミと、蒼真似真似を指して紹介しようとしたのですが。
「ミイラの仲間だと?」
眉間に皺を寄せるアインに、
「こ、このお方はミイラのようで枯骸ではなくてですね。
単に呪われて包帯が解けなくなっているだけなんですよ」
十分に妖しい者だと教えているようなものですよレーシュさん。
「呪われた?誰にだよ。
ケルベロスは倒したんだぞ。それでも解けないのか?」
アインに注釈を入れられたマミが、包帯を解こうとしたのですが。
「痛たたたぁ~、まだ解けないぃーッ!」
駄目なようです。
肩を竦めるアイン。困ったように笑うレーシュ。
「しょうがないな・・・で?他にも居るのか仲間とやらは」
レーシュがこの方達と言ったので、他にも居る筈だとアインが訊きました。
「はい・・・って。アレ?マァオ君はどこ?」
先程まで足元でちょろちょろしていた筈でしたが?
「お~~~いぃ!こっこ!ここだよぉ~」
祭壇にマァオ君が?
そして魔鏡の上にまで登っていくのです。
「あ!ちょっとマァオ君ってば、危ないよ」
棘のある縁をよちよち這い上る蒼真似真似に、レーシュが呼びかけましたが。
「観ててよ~!これがボクの本当の姿なんだから~」
てっぺんまで上り詰めたマァオが、鏡面に舞い降りようとしましたが・・・
「はぅあっ?」
棘に引っ掛かって鏡面に頭からブチ当ったのです。
めきょ・・・・グラリ
蒼真似真似に体当たりをされた魔鏡が、ぐらりと傾きます。
「あ?!危ないッ」
レーシュが咄嗟に手を伸ばすしましたが、手遅れです!
マァオを弾き飛ばすようにして、魔鏡が背面からひっくり返り・・・
「わぁ!なんて事をぉっ!」
マミが狼狽えたのも後の祭り。
祭壇上から墜ちた魔鏡の辿る道は?
がっしゃぁ~んッ!
派手な破壊音と共に魔鏡が粉砕されてしまったのです。
「どあほぉーッ!」
マミさんが絶叫します。
「あっちゃぁ~」
レーシュは手で顔を覆ってしまいました。
「あいたたたぁ~。ねぇねぇ、ボクってどんな姿だった?」
めげないマァオが鏡に映し出された姿をみんなに訊きますが。
「観る暇もなく割れたぞ!」
マミさんが怒鳴りつけますと、マァオが飛び上がって。
「なんだってぇ?」
自分の仕出かした落ち度に悲鳴をあげました。
「あらら・・・残念だったね、マァオ君」
微笑むレーシュが屈み込んで、マァオのふよふよな頭を撫でました。
「な、なんだよ。自分ばかり本当の姿を観てさ」
ふてくされるマァオ君の頭を撫でつけるレーシュが、ゆっくりと首を振ります。
「うんん。あれが本当だなんて思っちゃいないから。
絶望も希望も、すべてはこれから起きることだから」
微笑むレーシュは観た筈です。
誰からも見られなかった、自分だけが観れた<希望>ってものを。
赤髪の女性が闇に捕らえられそうになっていたのとは真逆な希望を観たのです。
それが一体どんな物であるのかは、レーシュしか知らないのです。
「下僕なシスター。
お前が観たというのは希望だというのだな?」
アインが訊いた時です。
少し俯いたレーシュが顔を挙げると。
「はい!ワタクシにとっての希望です」
アレフにだけしか見せたことの無い笑顔を向けて応えるのでした。
レーシュが観れた希望ってなんなのでしょうね。
それにつけても、アインは美味しい処で現れましたけど?
さて、今回の事件の発端である吸血鬼はどうなったのでしょうかね?
次回に続きます~
まっとうな魔物かと思ったんですが。
あっさりと葬り去られてしまいました~W
やはり、ご主人様は偉大ですW
次回 Pass12約束と願い<正義>Act8
レーシュはアレフと何を話したんでしょうね?




