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Pass12約束と願い<正義>Act5

新たに仲間になった枯骸もどきマミに教えられたレーシュ。


祠の番人との邂逅に臨むのでしたが・・・・

枯骸にされたマミが出て来た壁は、石の扉が開け放たれたままでした。


まるで招き込むかのように。

来訪者が入って来るのを待ちわびているかのように、開け放たれたままだったのです。


「この扉の奥に?」


レーシュが中を覗き込みながらマミへ訊きます。


「そ~、奥にいる筈だ」


自分を枯骸モドキにした番人が居ると答えます。


「ねぇ~?さっさと入ろうよ~」


蒼真似真似マァオが二人の足元で文句を垂れます。



今、レーシュを先頭に魔物姿の二人が扉の陰で突入するかどうかを逡巡していたのでした。


石扉から観える奥は、薄暗くてはっきりと見渡す事が出来ません。

何が待ち構えているのか、ケルベロスが何処に居るのかさえ分からない状況なのです。


「うう~ん、マァオ君はケルベロスって番人を知ってる?

 ワタクシは本の中に記載されている範囲でしか分からないのよね」


教会の書棚にあった万物事典で覚えた範囲では、多寡が知れているとレーシュは思うのでした。


「あのねぇレーシュ。

 自分の名前も思い出せないボクに、魔物の情報が覚えられてる筈が無いだろ」


しかし、蒼真似真似マァオから返って来たのは無碍も無い一言。


「そうだったね。じゃぁマミさんはどうかな?」


「私に振るな。三つ首の魔狗いぬとだけしか答えられないぞ」


自分が出遭ったケルベロスの姿を教えて来るだけのマミ。

これでは何も知らないに等しいですね。

でも、そこは魔物に疎いレーシュにとっても同じ事。


魔狗ケルベロスの大きさは?

 普通の犬と変わらい位?」


「いや、喩えていうのなら象並み。

 私の身体の数倍もあった・・・と、思う」


え?!そんなに大きいのですか?

訊いたレーシュは口をあんぐりと開け放ったまま目を丸くしました。


「いやいやいや!そんな巨大なのと対峙しなきゃならないの?!」


「私はこんな姿にされちゃったけど?」


急に恐怖心が沸き起こるレーシュが、扉の前から後退りますが。


「どのみち、いつかは番人と対峙しない事には。

 そう考えたんじゃなかったのかレーシュは?」


「そ・・・そうだけど。そんな魔狗バケモノだとは知らなかったもん」


初めから訊いておけば・・・何て言うのは後の祭り。

だって、足元の蒼真似真似マァオの姿は・・・


「お~い!番人ン~。ここから出る方法を教えてくれよぉ~」


いつの間にか中へと入って行くのです。

滑るように、転がるように。マァオが薄青い光を放ちながら奥へと進んで。


「わぁッ!マァオ君待ってよ」


慌てふためくレーシュを置いて。


「こら待て!」


マミも後を追いかけて行ってしまいます。


「ちょっ?!ちょっとぉッ二人共待ってよぉ!」


置いてけ堀にされるレーシュも、こうなったら自棄だとばかりに歩を進めてしまうのでした。






暗い暗い闇の中。


祠の番人として永き年月を経た魔狗ケルベロスが紅い目を開きました。



「おや・・・また侵入者か。

 ここの処たて続けじゃないか?」


三つ首の真ん中に位置する頭が擡げられて。


「おい起きろ。侵入者が来たぞ」


残りの二頭へ知らせるのでした。


「なんだって?物好きな奴も居たもんだな」


「また遊べるのか?」


黄色い瞳を気怠そうに開ける左の犬頭と、翠の瞳を喜色に染める右の犬頭が起きたのです。


「ああ。今度は前の奴と、もう二人らしいぞ」


闇の中だというのに、侵入者を特定するなんて。流石は番人って処でしょうか。


・・・と。


よく見ると、ケルベロスの前にある鏡のような物にレーシュ達が映し出されていました。


番人であるケルベロスはこの鏡を護っているのでしょうか。

真実を映し出すという鏡なのでしょうか?


「そうか・・・じゃぁ準備をしなきゃ」


左の犬頭が伸び上がると。



 ボォウ!



口から烈火の如き青白い炎を吹き出して松明に灯りを燈しました。


「それじゃぁお迎えしようじゃないか」


今度は右の犬頭が翠の瞳で天井を見上げると。



 キラリ!



緑色の怪光線が天井に設えられてあった三角錐状のシャンデリアに光を与えて照らし出したのです。


「これでお互いに姿が観えるだろう」


真ん中の犬頭がゆるゆると伸び上がると、目前にまで近寄った侵入者を見下ろしたのです。






蒼真似真似マァオを先頭に、番人がいる筈の奥に歩を進めたレーシュ。


そこで待っていたのは、想像すら出来なかった対面だったのです。



そう・・・ワタクシの想定を遥かに凌駕していました。


目の前の足元にマァオ君が居て、一歩下がった場所にはマミさんが。

そしてマミさんより半歩後ろにワタクシが立っていたのでした。


何か・・・嫌な雰囲気が漂っているのは感じ取っていたのでしたが・・・



それはいきなりでした。


 ボォウ!


前方から青白い炎が目の前を過ると、石壁に設えられていた松明に火が点ったのです。


「ひぃ?!」


驚くワタクシが、短い悲鳴を溢した時、今度は?!


 ピカリ!


一瞬、何かが瞬いたように思えたのでしたが。


 パアアアァッ!


頭上の天井から緑色の光が舞い降りて来たのです。

その光で、辺りが見通せられるようになったのでしたけど?!


「え・・・え?!ええええぇッ?」


ワタクシ達はいつの間にか祭壇の前に立ち尽くしていたのです。


そう・・・祭壇の前。

番人が横たわって見下ろしている壇の前に・・・居るのでした。


「ここが禁断の場所と知って訪れたか?」


ケルベロスの重々しい声が響き渡ります。


「ぴぃえええぇッ?!」


驚くワタクシ。


「この真実を映し出す鏡を狙って来たのか?」


もう一つの頭が、侵入者を質して来ます。


「ちぃがあああぁうううぅ~のぉ~~~」


恐怖に歪められた声が、裏返ってしまうんです。


「それでは何が目的で此処に来たのだ?」


最期に残った3本目の頭からの問いに、


「意図しない内に此処へ来てしまったんですぅ~」


正直に答えるのが精一杯。


見上げるような巨体のケルベロス。

真っ黒な身体を覆う剛毛、強靭な破壊力を秘める脚・・・そして。

どれほどの威力を秘めているのか分からない魔力を感じて。

ワタクシは畏怖し、身体を強張らせるだけだったのです。



「なぁ、番人さん。

 ここから出られる方法を知ってるだろ。教えてくれないかな」


緊張したワタクシを我に返してくれたのは、


「ボク達はね、ここから出られたら良いんだよ。

 祠の宝が欲しくて来た訳じゃないから・・・さぁ?」


足元に居るマァオ君と、


「元の姿に戻して欲しいけどぉ。外に出られるのなら、そっちを優先で」


枯骸モドキなマミさんでした。


二人が番人ケルベロスに訴えるのは、脱出できたら何もいらないってこと。

それに対し、魔狗ケルベロスは。


「ここから出るには侵入して来た道を帰れば良かろうが?

 尤も、タダで帰れるかはそなた達次第だがな」


無碍に言われてしまいました。

すんなり帰す訳にはいかないんだって。


「そんな?!入りたくて入り込んだ訳じゃないのに。

 何も狙って来たんじゃないってのにかよ?」


マァオ君が即座に反発するのですが。


「此処に来たのが運の尽きだと、覚悟する事だな」


魔狗は見下ろして嘲るのです。


「ワ、ワタクシ達にどうしろって言われるのですか?」


こんな理不尽な話ってありませんよ。

不可抗力で来てしまったのに、どうして解放されないというのですか。


「祠の宝が欲しいなんて思いませんから。

 ワタクシ達をここから解放して貰えませんか」


段々、ワタクシは理不尽さに腹が立ってまいります。


「迷子のワタクシ達を、どうか見逃してください」


ここに祠があるのなんて、落ちて来て初めて知ったのですから。

マァオ君とマミさんに出会う前まで、存在すら知らなかったのですよ?

だから、何も欲しいなんて思いませんから・・・少々心に引っ掛かってはいますけど。


真実を映し出せる鏡ってモノに、ワタクシは映し出されたい気はしますけど。

自分が誰で、何者なのかって・・・知りたいとは思いますけど。


「そこの蒼銀髪の小娘。

 我等の前で嘘偽りを申し立てる気ではないだろうな?」


名指しでワタクシを質して来る魔狗ケルベロス


「今、そなたは心の隅で宝を欲したのではないのか?」


まるで見透かされたかのよう。


「真実の鏡を覗き込みたいと思っただろう?」


ひぃえええぇッ?!どうして分かるの?


「い、い、いやあの。・・・すこし」


どうしてバレたのだろう・・・なんて考える余裕がある筈も無し。


「誤魔化さなかったのは良しとしよう。

 なれども、欲した事実は事実。裁きを受けねばならんぞ」


「え?!裁きって・・・」


心の中で観て見たいと思っただけなのに?審判を受けなきゃならないなんて。


「そんなの勝手過ぎますよ!

 どうしてやりもしない事を裁かれなければいけないんですか?」


「心の奥で渇望しておるだろう?

 自らの求める答えを欲しておるのではないか!」


言い当てられちゃいました。

でも、どうして分かるんですか?


「我の言葉に動揺したか。

 なぜ分かるのかと懐疑心を抱いたか?

 答えは・・・そなたの欲する鏡に映るからだ」


真ん中の犬頭が、紅い瞳を後ろにある鏡へ向けて答えて来るのです。


「これこそが祠の宝。

 これが真実を映し出す魔鏡というものだ」


祭壇上に寝そべり守護し続ける魔狗ケルベロスの背後には、巨大な鏡がありました。

人の全身を映し出すには余りある大きさ。

そして妖しく光を反射している鏡には、ワタクシの戸惑っている姿が映し出されているのでした。


「そなた・・・己が何人なんびとたるかを知り得ぬというのか。

 知り得た後、己が運命を知ろうというのだな?」


鏡を欲している訳では無いと看破はしているみたい。


「そうです!ワタクシは一体どこの誰で、両親はどこに居られるかを知りたかったの」


「自分が誰なのかを知りたいというのか、小娘」


ニヤリと笑う魔狗。

その笑いは何処から来るというのでしょう。


「ならば・・・そこの枯骸にした娘と同様ということになるぞ」


そう・・・でした。

魔狗の問いに答えられなかったのなら・・・マミさんと同じ目に遭う?


「あ・・・あ・・・あ?!」


自分の迂闊さに腹が立ちます。

魔狗が笑ったのは勝利を手にした証だったみたい。


「それでは・・・そなたに問う。

 小娘の名は?本当の名を言わなければ・・・刑を科すぞ」


そうだったのです。

ワタクシの本当の名は、ワタクシにも知り得ないのですから。


「レーシュ?どうしたのさ」


「大声で応えてやったらどうなんだよ?」


事情を知らない二人には、ワタクシの焦りを理解出来ないでしょう。


「さぁ!今直ぐ答えるのだ小娘よ」


翠の瞳で睨みつけて来る右頭。

その瞳には勝利を確信して余裕が光ります。


「ワ、ワタクシの名は・・・ワタクシは・・・」


逡巡する心。


「ワタクシの・・・本当の名は・・・」


でも、ワタクシの名はこの世界ではたった一つの筈です。


ですから、答えは!


挿絵(By みてみん)



ケルベロスと対峙するレーシュ。

本当の名を口に出す事が叶うのか?


次回へ続きます~


レーシュはケルベロスの詰問に答えられるのでしょうか?


そして魔鏡によって本当の自分を知ることが出来るのでしょうか?


しかし・・・番人である魔狗がそう易々と宝を渡すなんてあるのでしょうか?



次回 Pass12約束と願い<正義>Act6

魔鏡に映された姿はホンモノ?それとも・・・

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