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<Pass11 荒野の果てに<<運命の輪>>>Act4

服屋さんから出た私達が目指すのは。


怪しい教団のアジトと思われる家。

果たして潜入は巧くいくのでしょうか?

夕刻ともなれば、街の人達も家路に就かれます。

商いを終えた方々や、夕飯の買い出しを終えられた人達が早足で帰って行かれるのです。


何気ない光景の中、勧誘員さん達が飛び込んだ建物の前で。



「裏に廻るぞ!」


黒の召喚術師で勇者を名乗られるアレフさんが命じるのです。


「え?なぜですか」


潜入なんてやった事がありませんから、訊いてみたのですけど。


「馬鹿者!侵入のセオリーだ」


あっさりといなされてしまいました。

侵入にも規則があるんですね、知りませんでした。


「いくら変装しているとしても、あいつ等に鉢合わせたら疑われるに決まっているんだぞ」


そうですね、仰る通りなのでしょう。


「裏口があるのなら、そこから忍び込むのが侵入者の鉄則だと覚えておけ」


「はぁ、覚えておく必要があるのでしょうか?」


忍び込むなんて、シスターにあるまじき行為なのですけど。

今回は人々の為だと判断したから、アレフさんと同道するのですが。


「あるに決まっている。

 もしも誰かを助ける為に忍び込まねばならないのなら。

 建物だけではなくダンジョンだって同じだと想定しておけ」


誰かを救出する場合も?


「待っ正面から突っ込むなんて、余程の力の差がない限り無謀だ。

 いいや、力の差があったとしても相手が罠を仕掛けている可能性があるのだぞ」


罠?!


「そうだ、お前も覚えているだろう。

 ダンジョンに落とし穴が仕掛けられていたのを。

 はかりごとを警戒するのなら、無謀な突撃は控えるに越したことはない」


そういえば、そうでした。

相手の巣窟に忍び込むのなら、十分に下調べしておくべきですよね。


ワタクシはアレフさんの教えを頭に刻み込む事にします。

いつの日にか役立つ時もあるかもしれないので。


「分かりましたアレフさん。

 それじゃぁ、建物の背部に廻りましょう」


先に立って進まれるアレフさんは、幾度となくこんな経験をされてこられたのでしょうか?

勇者を名乗られ、女性を救い出すのが仕事だと仰られているのですけど。

これじゃぁ盗賊シーフ間者ニンジャなのではないのかって考えちゃいます。


「いつも黒い服を着ておられるから・・・」


盗賊の定番色である黒が、アレフさんの服装を思い起こさせてダブって見えてしまうのです。

でも、変装した今は。


「白のワイシャツに紺のチョッキ、紺のスラックス。

 三つ揃えの上着も紺色だから、商人さんっぽく見えるかな」


普通の商社人サラリーマンにも見えますが、ワイシャツにはネクタイが絞められていません。

カジュアルっぽい三つ揃えって感じかな。

端で観たら、これが黒の召喚術師だなんて思えませんよね。


「いいなぁ、アレフさんは。自分の好みで服装を整えられたんだから」


ワタクシなんて、否応も無しに決められちゃったんですよ?


「どう見たって不釣り合いです。

 どなたが観てもワタクシはアレフさんの金魚の糞です」


アレフさんがカジュアルなスーツ姿なのに対して、ワタクシの服装は使用人メイドっぽく見えてしまいますから。


「いっそのこと、エプロンでもかけていたらメイドらしいのにな」


ひらひらのエプロンでもあったのなら、スカートが短くても気にならないでしょうに。


思わず丈の短いスカートを気にして、声に出してしまったらしいのです。


「あるぞ。白い奴ならな」


え?


一体いつの間に用意されたのでしょう?


「ほら。これを巻いておけ」


え?ええ?!


一体どこから出されたのか、差し出して来られたのはまごう事なき白のエプロン?!


「あ、あの。目立ちませんか、コレ?」


胴に巻きつけて絞めるタイプのエプロンを差し出されて、手に取るか迷いましたが。


「目立ちたいのか?

 だったらもっとスカートの裾を上げるか?」


そんなことをしたら見えてしまいますから!

今だってぎりぎり観えずに済んでいるだけですもん。


「上げません!エプロンをください」


白いエプロンをお腹に巻き付け後ろで結ぶと、まるで家事手伝メイドいさんそのものです。


「うむ。これで姿だけは、本当の下僕と成ったな」


例えられても返す言葉が見つかりませんよ。


「姿だけですから!今回だけですからね!」


正直言って、下僕シスターって呼ばれるのにも慣れちゃってましたから。


「旅が終えれたら、下僕なんかじゃないって言わせてみせますよ!」


だから、きっぱりと断っておくのです。

ワタクシはアレフさんの下僕なんかじゃあないって。


「そうか?逆に勇者様の下僕でいさせてくださいましって懇願するんじゃないのか」


「しませんッ!」


絶対に。

自分がどこの誰なのかが分かった暁には、アレフさんから言わせてみせます。


「アレフさんこそ。

 ワタクシを手放したくないって懇願しますよ、絶対」


「ほぅ~?」


引き攣った笑みで睨みあってしまいます。

でも、ワタクシはとんでもないことを言ってしまったのに気が付きませんでした。


だって・・・ワタクシは遠回しに離れないって言ったも同然だったのですから。


頓珍漢な会話を交わす間にも、裏口が見えてきました。


「おしゃべりは此処までだ、メイドシスター。

 侵入するぞ、いいな!」


「あ、はい!」


どうやら。

本当に無言にならなくてはならないようです。


裏口の鍵は・・・かけられていないようです。

そっとアレフさんが隙間を開けて、中を覗いて。


「いくぞ、離れるな」


「はい・・・」


小声で答えるワタクシに頷くと、アレフさんはドアの中へ音もたてず入りました。

続いてワタクシも一歩踏み込みます。


「え?!」


思わず声が漏れちゃいました。

だって、普通の家なら家具や調度品がある筈なのに。


「何もない・・・壁と床だけ?」


それに天井があるだけの、殺風景すぎる室内に。


木造の家の中は、全く何もないのです。

カルトな教団だって言っても、机の一つぐらいは有っても良いのにですよ?


「いったい、ここは何をする場所なのでしょう?」


メシアの教えがどんな物かは分かりませんが、調度品の一つも存在しないなんて有得ません。


それにもう一つ気になってしまいました。


「信者の方や教団の方の気配も感じられません」


人っ気が全くなかったのです。

飛び込んだ勧誘員さん達の気配も、上達者と呼ばれた方々もいません。

ついでに言えば、ここが教団に所属しているのなら信者の方々が居られてもおかしくないのに?


「これじゃぁ、何の為に裏口から忍び込んだのかも分からないじゃないですか」


人の気配が感じられず、ワタクシはぼやいてしまいます・・・心の中で。



「静かにしろメイドシスター。

 誰かに見張られていたらどうするんだ」


ブツブツとぼやいていたら、アレフさんに怒られちゃいました。


「ここが敵のアジトだと認識しろ。

 もしかすると待ち構えられていたのかもしれないのだぞ」


え?そんなことがあるのですか?


「まぁ・・・緊張感を持っておけという事だ」


な~んだ。アレフさんって心配性なんですね。


どうやらアレフさんだって、もぬけの殻だと分っているんですよね。


室内くまなく見廻したアレフさんでしたけど、どうやら取り越し苦労だと判断されたのか。


「上の階に上がるぞ」


2階と3階へと向かうというのです。


「上の階には奴等が居るかも知れん。注意しておけ」


そうですよね。

下の階には居られないのですから、きっと2階には居られるでしょう。


「もし見つかったら、どう言い訳をされる気なのです?」


「それは前提条件で考えてある」


?それって?


「お前を入信させる為に来たという」


「はぁなるほど~・・・って?」


冗談じゃありませんッ!


「勿論、この場凌ぎだがな」


「ほっ・・・」


ホント~に、びっくりさせないでくださいよ。


「話を聴き出す為にも、教団の幹部に会いたいのだがな」


「そうですね、それが手っ取り早い方法でしょうね」


アレフさんは、端から上達者さんから情報を得ようとされておられたようです。

だったら忍び込む必要なんて無かったのでは?


「だが、その前に。

 敵の秘密を少しでも得ておかねばならん」


「なるほど~」


黒の召喚術師は健在ですね。

それで侵入を試みられた訳ですね、流石です!


「と、言う訳で。

 そこにある宝箱を開けてみるぞ」


「え?宝箱ぉ?」


全然分からなかったのですが、木箱が一つ置かれてあったのです。

まるで木造の部屋と同化しているような、隠されているような箱があったのです。


ワタクシの眼では見つけられませんでしたが、百戦錬磨なアレフさんは早速鍵を・・・




  ギィイイイィ~




ホンの数秒で解錠してしまったのです。


「ふむ・・・罠ではないな」


蓋を開けて中身を見詰めて、


「だが・・・中身は紙切れ一枚だけか」


溜息を漏らす事も無く言ってしまわれたのです。


「おい、メイドシスターよ。

 これは何と書いてあるか読めるか?」


箱の中には何かの文様が描かれた紙片が収まっていたのです。


「はぁ・・・どれでしょう?」


ワタクシはアレフさんの横から覗き込んでみました。


「なにやら、神妙な言葉が書かれてあるようなのだがな」


アレフさんにも読めないのなら、ワタクシにも読めるなんて思えなかったのですが。


「え?!それって!」


大きく眼を見開いて見詰めてしまいます。

紙片に描かれてあるのは、


「神の紋章?!」


ウラ覚えですけど、神父スクエア様から手ほどきを受けた事があります。


「聖なる言葉が書かれてありますよ、ソレ!」



挿絵(By みてみん)



思わずワタクシはアレフさんの肩を掴んで叫んでしまったのです。


「それは、聖なる紋章と・・・魔法の伝承を表しています!」


紙片の持つ意味は、それを手に出来る者に授けられる魔法書だったのです。


そう!

聖なる龍神の使徒であるワタクシにも、魔法書が手に出来る筈なのです。


でも。

魔法書の紋章は、ワタクシのレベルを凌駕しているようですけど・・・手にして良いのやら?

木箱はミミックだった!(嘘です)


木造の家屋だから目立たなかったのか。

それとも二人の目が節穴だったのかは知りませんが。


現れ出たのは意味深な魔法書?

それがどんな意味を持つというのでしょう?


次回はレーシュが・・・


次回 <Pass11 荒野の果てに<<運命の輪>>>Act5

ワタクシ・・・賢者さんになります!←無理ですってば!

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