第十二章 守るべきもの Ⅴ
金の力は人を狂わせると改めて実感したものだった。
シェラーンは何と言われようとも引き下がらない。
平民はもちろんだが、貴族格の者はそれで強い屈辱を感じていた。大衆はおろか、大王も見ているこのコロッセオで、シェラーンに狼藉を咎められ。さらに返金もなく、出てゆけと言われたのである。
誇りと傲慢の分別もつかぬのかとシェラーンは怒りと悲しみを覚えた。
「黙って聞いておれば、いい気になりおって!」
突然、貴族格のひとりが剣を掲げてシェラーンに迫った。
「決闘だ! 決闘を申し込む!」
通常武具は持ち込み禁止だが、貴族格の者は帯剣が認められてはいた。無論刃傷沙汰に及ばぬという無言の誓約あってのことだが。それでも、互いの名誉をかけての決闘をするといきり立っていた。
「……わかりました。剣を」
そう言えば、いつの間にか召使いさんは抜き身の剣を差し出していて。シェラーンはそれを受け取る。
陽光に反射し、剣身が光り輝く。
警備兵が動こうとするが。
「手出し無用にお願いします」
と言われて、石のように固まった。
「ええ、剣なんかもってどうする気だ!」
龍介は度肝を抜かれた。貴賓室のバジョカ大王にミシェロも固唾を飲んで事態を見守っている。
「私に異議あらば、命を懸けて受け止めよう」
詰め寄るサポーターはシェラーンが剣を構えているのを見て、ますます怒りをあらわにした。内心怖じると思っていたのだが。
この試合は大王が見ているのは知っている。ここで決闘をするという事は、大王の御前で決闘をすることでもある。それは誤魔化しの利かない、命を懸けた真剣勝負をするということだ。
「後悔するなよ!」
いい機会だ、ここで小生意気な小娘をしとめてやる! と息巻いたその時。
「やめて!」
テンシャンとローセスがシェラーンのもとに駆け寄った。
「どうしてそんなことになるの? 私たち同じクラブを応援するサポーターの仲間でしょう」
「そうよ、やめようよこんなこと!」
そう言えば、他のサポーターたちも立ち上がって。シェラーンのもとに駆け寄って、その身を守るように取り囲んだ。
「皆さん!」
「お嬢さまだけに良い格好はさせねえ。これはサポーターみんなの問題なんだ!」
「こういう時こそ、応援してのサポーターではないか!」
異口同音に、そして異体同心に、シェラーンの側に立って。仲間割れをやめて、一致団結を必死に訴える。




