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第十二章 守るべきもの Ⅲ

 ということは、後半は入れ替わるので、シェラネマーレの選手がシェラネマーレのコアサポーターに向かってゴールを奪いに来て。ファセーラの選手たちがファセーラのコアサポーターに向かってゴールを奪いに来る構図になる。

 これは龍介もアドバイスしたことであった。


 この異世界、マーレのサッカー界は龍介の世界に比べてまだまだゆるいところがあり。それは是正する必要があった。

 席割りはマーレのサッカー界で初めての試みだった。


 シェラーンは選手たちがピッチに出たのを見ると、召使いさんを従えてどこかへと歩いてゆく。

 この試合にもバジョカ大王は観戦に来て、貴賓室でファセーラのオーナー、ミシェロとともにいた。

 ミシェロは三十になったばかりの若いオーナーで、美男子といってもいい容貌とたたずまいだった。

 が、そこにはシェラーンは姿を現さなかった。


 バジョカ大王は朝コロッセオ入りし、シェラーンとミシェロも出迎えたのだが。そこで、

「私は、サポーターとともに試合を観戦しようと思います」

 と言い。さしもの冷静沈着なバジョカ大王も驚きを隠せなかった。ミシェロも驚き、目を見開いていた。


 だがそこは責任ある立場につく者として肝も座っているもので、すぐに冷静さを取り戻した。

「かなりのお覚悟とお見受けします」

「ご一緒できず、申し訳ありません」

「いえ。その覚悟、立派であると思います」

 危険を感じたらすぐに逃げるようにと言おうと思ったが、そんな親切が野暮に感じられるほどにシェラーンのまなざしは鋭かった。

 バジョカ大王は頷いて「左様か」とのみ言い、無駄口は叩かなかった。


 なるほどシェラネマーレのゴール裏を見れば、なにやら騒ぎが起こっているようで、警備兵が数名駆けつけていた。

「あ、オーナーの!」

「そうです、シェラーンです。今日の試合は、皆さんとともに試合を観戦したいと思います」

 ざわつき、どよめき、様々な人々の声がまだらのようにまじりあった。


 ゴール裏座席の上段に、召使いさんを従えたシェラーンが立っているではないか。それを目ざとい者が見つけた。

「へ、入れ替え戦なんて惨めな試合をオレたちに見せるようなへぼオーナーがよ! これで負けたら承知しねえぜ」

「承知しない?」


 度胸がある、と自分のことを勘違いした者が数名シェラーンに詰め寄り。召使いさんははっと驚いたが、当のシェラーンは怖じず堂々としたものだった。

 詰め寄った者の中には平民のみならずシェラーンと同格の貴族の子息もいた。悪い仲間に触発されてしまったようだった。

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