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第十一章 理想と現実と…… Ⅴ

 固まったシェラーンを見て、バジョカ大王は同情しつつも言葉をつなぐ。

「サッカーサポーターはまるで己が神であるかのような傲慢さを見せる。これについて改善を要求すると。改善が出来ねば、サッカーをなくしてほしいと言う者まである」

 シェラーンは固まったまま魂がどこかへ吹き飛ばされそうだった。


 サポーターが狼藉を働き、苦情が来て、改善を要求される、ということを大王から直々に伝えられるのだ。

 これがいかに屈辱的なことか。

「そなたもオーナーとしてクラブを預かる以上、サポーターの責任はクラブの責任でもある、ということは承知の上であろう」

 クラブはサポーターや観客に対して、規則を遵守することを奨励するだけでなく、なにか問題が起こった時はその責任もとっている。


 あるクラブなどはサポーターの起こした不祥事のために、罰金を支払ったり、無観客試合をしたりなど、クラブはあらゆることに対して責任を負っている。

 詳細は従者が代わって伝えたが。ギュスノーヴのサポーターに喧嘩をふっかけ、警備の兵に警告を受けたり、道行く人にあれこれ叫んで怒鳴ったりなど、耳をふさぎたくなることだった。


 幸い大きな騒ぎになることはなかったが、それでも紙一重である。乱闘騒ぎになれば、人々の支持を失い、クラブ消滅の危機もあり得た。

 ともあれ、人気競技であり人も集まることとなればどうしても不届き者が出てしまう現実はあるが。各クラブはそれに対して対策を執り、責任も負うことを決められている。


 またそれぞれが力を合わせて協会も設立し、バジョカ大王の協力も得ている。

 それゆえに、シェラーンは大王から直々に事の次第を伝えられた。

 跪いたまま固まってしまって。シェラーンは身も心も八つ裂きにされそうな、辛い気持ちに苛まされていた。


「……これを伝えるのは予も辛いが、もし次の入れ替え戦で問題が起これば、そなたのオーナーとしての器量に疑問を持たざるを得ず。問題の大きさによっては、役職解任もありうる」

「は、はい……」

 夢であった。サッカーが大好きで、選手を夢見たこともあった。しかし才能はないようで、選手は諦めた。


 が、彼女が新たに夢見たことは、目指したことは、オーナーとしてクラブをもち、試合を切り盛りすることだった。

 とにかく、サッカーに関わっていたかった。

(でも、甘かった)

 クラブの成績はかんばしくなく。さらに業を煮やしたサポーターが問題を起こし、大王より直々に苦情を伝えられるという屈辱。


 夢ばかり見て、浮ついていたことを痛感させられた。

「以上である。次の試合のために、あらゆる手を打て。無事終えられるよう、予も祈っている」

「はい。ありがとうございます」

 シェラーンは御前を辞して、城から出た。

 ガルドネもその背中を黙って見送るしかなかった。

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