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第十章 神は試練を与え給う Ⅶ

 重い雰囲気を感じて、言葉もなさそうである。

 シェラーンは二年前に自立し、シェラネマーレのオーナーとなった。前オーナーが老齢のために引退するということで、その後を引き継ぎたいと申し出て、了承を得て、クラブを預かることになった。


 もともと成績は中の下から中の中を行ったり来たりで、かろうじて降格を免れているという状態だったが。

 ついに、降格まであと一歩、崖っぷちの入れ替え戦を戦うことになってしまった。これはシェラーンがオーナーとして仕事ができなかったからなのかどうか。


「……。みんな」

 シェラーンは皆を見つめる。

「お疲れ様。今夜はゆっくり休んで。それと……」

 声を詰まらせながら、どうにか言葉をつなぐ。

「入れ替え戦のために、特別手当を出すわ」

 しかし選手たちの反応はない。


(お金じゃない)

 そう言いたかったが、彼女がお金ですべてを済ませるような性格ではないのは選手たちもよく知っている。が、これに関しては感謝の言葉が出せなかった。

 龍介も無言だった。

(お嬢さまも、まだ若いな)

 だが若さによる人生経験の少なさは罪ではない。


 それに気付けるかどうかが大事なのだ。この時点で、シェラーンは自分が選手たちの誇りを少しばかり傷つけたことには気付いていない。

(あとで話しておいた方がいいな)

 と、レガインは思った。

 貴賓室では、バジョカ大王が試合後の余韻に浸るようにわずかの従者をともなって残っていた。


 そこへ、

「かまいませんかな」 

 と、ガルドネが来た。

「ガルドネよ、龍介のこと、どう思う?」

「ははは。これはこれは。私が訊ねようとしたことをしたことを逆に訊ねられましたな」

 どうやら同じ考えかと、自分の考えを披露する。


「よい選手ですが。入れ替え戦で、彼のまことの姿が分かりましょう」

「魔法による召喚も、まだ賭けの部分があるな」

「人というものはまこと摩訶不思議なもの。いかに魔法が発達しようと、人を完全に理解するのは不可能でしょうな」

「大魔導士がそのようなことを。心もとないな」


「申し訳ありませぬ。嘘をついても始まりませぬゆえに」

「太古の昔より、我らが世界にもあらぬ裏切りの物語があるものだが」

「龍介の世界にも、『ブルータス、お前もか』という無念の言葉を残した皇帝がおりますれば」

「私もそうならないように気をつけたいものだが」

 話が変な方向に行きそうで、従者がやや不安そうな顔をする。


第十章終わり 次章に続く

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