第九章 裏天王山 Ⅷ
ルーオンがボールを持つと同時に、龍介たちは一気に前に駆け出していた。カウンターだ。
ルーオンはボールを思いっきり蹴り上げて、遠くに飛ばした。
ジェザと龍介のツートップはすでに相手ペナルティーエリア前に来て、その少し後ろにミッドフィルダーの面々、そのまた少し後ろにディフェンダーの面々。
リョンジェはボールの軌道が自分のところに来ているのを見て受け止めようと身構えるが、ギュスノーヴの選手が放っておくわけもなく、そばに来て互いに身を押し合いしてボールを奪い合う。
跳躍しながらも互いに押し合いしたが、リョンジェの踏ん張りが強かったおかげで相手より少し頭が出て。ヘディングでそばにいたサニョンにパスする。
相手が迫るより先にサニョンはトゥーシェンにパスし、さらにギャロンにパスされ。
さらにリジルにパスされ。そうかと思えば後ろのリョンジェに戻すようにパスし。それからまたサニョン、トゥーシェンと、相手選手の間を縫うように駆け、ボールを転がし。
パスが回ってきたザンジャは、そばにいた龍介にパスし、それから少しドリブルで逃げつつ、ゴール前まで来て、シュートを放つ。振りをして、ジェザにパスすれば。
意表を突かれた相手ゴールキーパーは龍介のそばまで駆け出てしまい、スペースを開けてしまった。
「もらった!」
ジェザはシュートを放ち。ボールはゴールの中に突っ込む、かと思われたが。
「な、なにッ!」
ジェザや龍介たちは目を疑った。いつの間にか相手フォワードのテンザーが駆け戻ってきて。
すんでのところでボールを蹴り上げるではないか。
蹴り上げられたボールはいくらか高いところまで上がり、そのままゴールの上のネットに乗って跳ねて。後ろに転がり落ちた。
「くそ、テンザーが守備に戻るなんて考えてなかった!」
テンザーは攻撃専門のフォワードだから、ギュスノーヴの守備は実質ひとり少ないと思っていたが。
そんなテンザーでも、危機に際しては後ろに下がって守備もするところを見せた。
テンザーはゴールキーパーや仲間たちと手をたたき合い上手く守備で来たことを讃え合った。
ボールはギュスノーヴの選手によってゴールの後ろに落ちたので、コーナーキックとなった。
「これで入れるぞ!」
1-1の同点であり、時計を見れば前半ももうすぐ終わり。審判がアディショナルタイム3分のボードを掲げていた。
もしここで得点できれば、後半にむけて勢いをつけられる。
ボールは右端に置かれて、ゴール前向けてリョンジェが蹴り上げた。




