第九章　裏天王山　Ⅵ

　ギュスノーヴの選手たちはボールを前に進めず、後ろに後ろにと運び。５人のディフェンスの一番右側が受けて。

　ボールを追ってシェラネマーレの選手たちはギュスノーヴのゴール前に迫った。

「動かされるな！」

　レガインは叫んだが、コロッセオは喧騒につつまれて。その叫びも選手たちに聞こえているかどうか。

　ギュスノーヴのフォワード、テンザーはセンターにいる。それより後ろの位置につく選手たちは、シェラネマーレの選手たちにボールを渡すまいと、逃げるように細かなパスをつなぎながら、テンザーに渡す機会をうかがっていた。

「ほんとにフォワード頼みなんだな」

　龍介はここまで割り切って試合をするところも珍しいと思ったが、逆に言えばテンザーにさえ渡さなければ勝てると見込んだ。

「うおッ！」

　トゥーシェンがギュスノーヴの選手と当たり、倒してしまい。

　ぴー！　と、笛が鳴り。

「やめッ！」

　と審判が試合を一旦止めた。

「しまった」

　トゥーシェンは相手に謝り手を引いて起きる手助けをした。が、それから、このように不用意に相手を倒してしまう場面が多くなった。

　意図的でなくとも相手を倒してしまえば、試合は一旦止まり、相手にボールを渡すことになってしまう。

　シェラネマーレの選手たちも時々ボールを取るのだが、ギュスノーヴの選手たちはうまくボールの動き、選手の動きを予測し、巧みにシェラネマーレの選手の間に入りパスを遮断する。

　前に進み出ているのだが、どうにもそこで足止めを食らっている。

「閂のギュスノーヴと言われるだけはあるな……」

　ドドパがぽそりとつぶやく。

　ギュスノーヴはガンガン攻めて得点するのではなく、堅い守りをベースにし一瞬の隙を突いてのカウンターで得点する堅守速攻型のクラブだったが。

　その守りの堅さは、まるで閂をかけているようだと評判だった。

「切り替えろ、切り替えろ！」

　シェラネマーレの選手たちに苛立ちの色が濃くなりはじめ、それを察したリョンジェが皆に呼び掛けた。

　ボールは相変わらずギュスノーヴの選手の間を行ったり来たりで、なかなかシェラネマーレの選手は触れることもかなわない。

　テンザーは身じろぎもせずに、自分にボールが渡されることを確信してセンターにいた。

「後ろに下がれ！」

　レガインはピッチ上の選手たちに叫んだ。どよめきに包まれるコロッセオだが、幸いこれを聞いたウォーラが監督の言葉を皆に伝えた。