第九章 裏天王山 Ⅱ
どよめきと熱狂がコロッセオを包み込んで、そこに非日常の異世界を作り出す。
陽は傾き、茜色の空は色を濃くしてゆき、それに伴いコロッセオ上空の小さな太陽が輝きを増して下界を照らす。
うまくギュスノーヴの選手の間を縫うようにボールを転がし前に進み出たシェラネマーレの選手たちは、最後はジェザにつないでシュートを放った。
「いけー!」
「入れー!」
「外れろー!」
コロッセオのどよめきが一段と高まり、ゴールキーパーはスライディングして拳で弾こうとするが。
その拳の先をかすめるようにボールは通り過ぎて、バーに当たってあさっての方向に転がりだす。
「くそ!」
ジェザは舌打ちして悔しがり、龍介はボール目掛けて駆けた。しかしすんでのところでギュスノーヴの選手が思いきり左サイドに蹴り出しライン外に掻き出す。
蹴り上げられたボールはライン外に落ちて、ボールパーソンの少年が急いで受け、駆け付けたウォーラに咄嗟に投げてよこす。
スローインだ。
ウォーラは両手でボールを落とすように、近くまで来たジョンスにパスし。さらにトゥーシェンにパスされ、ゴールに迫る。
「ボールを動かせ!」
ジェザは叫ぶ。相手は守りを固めている。それを緩めるためには、こっちの方でボールを細かに動かして翻弄するのだ。
シェラネマーレの選手たちは果敢に駆け巡り、細かなパスでボールを動かしギュスノーヴの選手たちは振り回そうとする。
「体力は大丈夫かしら……」
その相当な運動量を見て、早いうちから流れを引き込み得点しようとする意志は強く感じるが、いかに鍛えているとはいえ無限の体力があるわけではない。
最初から飛ばしすぎたら、後半、終盤になって動けなくなってしまいかねない。
シェラーンはふとふと、そのことが気になったが。
(試合に関しては私は素人、杞憂よ)
そう思うことにした。
ギュスノーヴは最後尾に5人も並べるファイブバックだ。攻めるよりも守ることを意図した布陣だ。順位は勝ち点1点差のひとつ上ということで、シェラネマーレよりは余裕があり、守りながら一瞬の隙を突いて得点するつもりなのはよくわかった。
試合後のPKに懸ける手もあるだろうが、不確定要素が多くそれに期待するのは愚かなこと。それよりも、90分の中できっちり点を取ることの方が、なによりも確実ではないか。
バジョカ大王はにこやかに、顎に手を当ていかにも楽しそうに観戦し。
ギュスノーヴのオーナー、ヴァサンは穏やかながらも眉ひとつ動かさずに試合を静観している。




