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第六章 マーレの休日 Ⅷ

 部屋には洗面所があり、そこで歯を磨き顔を洗う。城の部屋もそうだったが、ビジネスホテル並に設備が備わり、これも魔法の力か、たいしたもんだと感心させられる。


 歯磨きと洗顔が終わると、ベッドに腰掛けて。

「どうしよう」

 と、つぶやきながら寝そべって。しばららくごろごろしていた。が、立ち上がって部屋を出て。さらに屋敷から出てゆく。途中召使いさんが「おでかけですか?」と聞くので、「はい」と答えれば。

「いってらっしゃいませ」

 とお辞儀をして見送ってくれて。なにやら照れくさいような不思議な思いをしながら外に出た。


 屋敷の周囲には同じような立派な屋敷がある。ここは王侯貴族の居住区だった。

(マーレの街がどんな感じなのか、ちょっと見物でもするかな)

 にわかに好奇心が湧き起こったものの。土地勘もない。どこをどうゆけばよいのか。立派な屋敷の立ち並ぶこの居住区は、別の意味で異世界だった。

 道行くものは馬車ばかりで、徒歩で歩いている者がいない。龍介はなにやらいたたまれない気持ちになって屋敷に戻った。


 が、何か蹄と車輪の音がし、振り返れば馬車が屋敷に来た。

「龍介、なにをしているの」

 という声がする。馬車の窓から顔を出すのはシェラーンだった。執務で出ていたのだが、戻ってきたようだ。


「いや、出かけようと思ったけど、やっぱりやめようと……」

「え?」

 その心細そうな面持ちを見て、どうして龍介が外出をやめたのかを察して、ドアを開けて馬車に乗るように促す。


「マーレの街を見たいんでしょう? 私が案内するわ」

「え、執務は?」

「お城に出仕したら、大王が休みをくださって」

 お城に出仕、大王が休みをくださって、という言葉に昔っぽいやらファンタジーっぽいやらな感覚を覚えたが。案内をしてくれると言い。

 心に、ぱっと花が開くようなものを覚えた。


「いいの?」

「いいのよ。屋敷でじっとしているのは苦痛でしょう」

 馬車から降りると、龍介の手を握り引っ張る。

(おっとっと)

 予想外のことにやや慌てたが、されるがままに馬車に乗せられて。

 御者さんは隣の召使いさんと顔を見合わせて笑い、馬車を進めた。


 窓の外を見れば、今日も快晴だ。

(しかし、昨夜の試合は夜なのに小さな太陽のおかげで昼みたいに明るかったなあ。魔法ってすごいなあ)

 徐々に試合の時の記憶が蘇ってくる。

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