第六章 マーレの休日 Ⅵ
シェラーンの近くにいられることが、どういうわけか、よかった。
でも、ふと気になることがある。
「あのー」
「ん、なんじゃ」
「オレはいつ帰れるんでしょうか?」
それはもっともな疑問だった。ガルドネはふむと頷き。
「シーズンが終われば、帰してあげよう」
と言う。
シーズンが終わったら。シェラーンはシーズンの日程表をもっていて、見せてくれたが。例の楔形文字のような文字は読めない。
「あ、そうだったわね。ごめん」
軽く微笑みながら謝って、次の試合は六日後、次の日曜日だと言った。
月日と曜日の概念は龍介の世界と共通だった。意外と共通しているところがあるものだった。
「密かにながら、我が世界と君の世界は人の行き来がある。だからこそ君は召喚された」
「この世界からオレの世界に行った人もいるんですか?」
「そうじゃな……。リョーマという男が君の世界に行き、坂本龍馬という名で住み着いたが。暗殺されてしもうた。何度も帰ってこいと言われたそうだが。世のため人のために働きたいと使命感を強く持って、それが仇になった」
「はあー!?」
「他にも数名おるが。アレキサンダーもそうじゃ。我が世界での世界征服の野望が挫折し、君の世界にゆき志を果たそうとしたが。若死にしてしまった」
「ええー!?」
「他にも、フス戦争の軍師ヤン・ジシュカもそうじゃ。これも君の世界にゆき、使命感に目覚めて戦った」
「はあ……」
フス戦争のヤン・ジシュカはさすがにわからなかったが。龍介は歴史の人物が異世界から来た異世界人だったことを打ち明けられて、その驚きの大きさは筆舌に尽くしがたかった。
このマーレ王国の世界と自分の世界に、密かながらつながりがあり人の行き来もあり。歴史上の人物が異世界人などとにわかには信じがたい事である。
まったくもって、どうであろう。
しかしながら、自分自身がこの異世界に召喚されて、サッカーをしているのだ。信じざるを得ないではないか。
「はあー。なんか話が大きすぎて、わけがわかりません」
「まあ、君はここでサッカーに専念してくれたまえ。シーズンが終われば、必ず帰してあげよう」
「そうそう」
シェラーンが龍介に何かカードを差し出した。名刺サイズの厚紙には何か字が書かれている。
「大王と私の署名入りのカードよ。あなたのこの世界での立場を保証する御守りだと思って、大事にもっていてね」
「ありがとう」
「何か欲しいものがあれば、これを差し出して買い物もできるわ」
「え、クレジットカードみたいな機能も?」
「クレジ……」
龍介の世界とこの世界、色々共通点があるが。クレジットカードは知らないようで、シェラーンの頭に「?」が浮かぶ。が、後払いするのか気になるのだとガルドネに問われなおして、そこで合点がいった。




